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福島県立大野病院事件第三回公判

  弁護人 患者さんの不安の話は、本人から直接にはきいていないのですね。
  S助産師 はい。
  弁護人 でもあなたは不安を感じていた。
  S助産師 はい。
  弁護人 それはなぜですか。
  S助産師 県立医大で似たような症例で大変だったという話があったので。
  弁護人 似たような症例とはどのようなものでしたか。
  S助産師 はっきり覚えていないのですが、おそらく前回帝王切開で前置胎盤の患者さんだったと思います。
  弁護人 そこで、あなたも不安を感じたわけですね。
  S助産師 大丈夫かなと漠然と不安はありました。
  弁護人 大野病院で手術しない方が良いと進言した本人から直接聞いたのですか?
  S助産師 その状況もよく覚えていないのですが、ナースステーションで何人かでそういう話をしていました。
  弁護人 誰かが「進言したらしい」と聞いたのですね。
  S助産師 はい。
  弁護人 大野病院で前置胎盤を扱ったことがあるのは知っていましたか。
  S助産師 はい。
  弁護人 知っていてもなお不安だった。
  S助産師 はい。
  弁護人 点滴ルートの確保は誰がしましたか。
  S助産師 私です。
  弁護人 何ゲージの針を使ったか覚えていますか。
  S助産師 18か19ゲージだったと思いますが、覚えていません。
  弁護人 では看護記録を見てみましょう。この署名はあなたのものですね。
  S助産師 はい。
  弁護人 これを見るといくつのラインですか。
  S助産師 20ゲージです。
  弁護人 医師の指示は何ゲージだったか覚えていますか。
  S助産師 覚えていません。
  弁護人 では指示書(?)を見ましょう。何と書いてありますか。
  S助産師 18Gから20Gと書いてあります。
  弁護人 20Gを選んだのはあなたですか。
  S助産師 そうだと思います。
  弁護人 なぜ20Gを選んだのですか。
  S助産師 なぜだかは分からないです。
  弁護人 分からないときは、いつも20Gを選ぶのですか。
  S助産師 18Gは太いので、18Gだと失敗するかもしれないと思いました。
  弁護人 20Gの方が細いのですね。
  S助産師 はい。
  弁護人 あなたにとって細いゲージの方がやりやすい。
  S助産師 はい。
  弁護人 県立医大の例で不安だったということでしたが、不安の内容は出血でしたか。
  S助産師 はい。
  弁護人 そうであれば出血に備えて点滴ラインは太いものを確保すべきではなかったのですか。どうして太い18Gで確保しなかったのですか。
  S助産師 18Gの方が良いのでしょうけれど、この場合は・・・
  弁護人 現実に不安を感じていたのなら、18ゲージで確保すべきだったのにしなかった。それはどういうわけですか。
  S助産師 ・・・(10秒ほど無言)
  検察官 異議あり。証人が記憶にないことについて理由を尋ねています。
  裁判長 端的に質問してください。異議を棄却します。
  弁護人 分からなければ分からないで結構ですが、証人はそれほど具体的な危険を感じていなかったので、20Gを選択したのではないですか
  S助産師 そうかもしれません。

 「前からそう思ってたんだよ」と、後で言うのが人の常とはいえ、いやはやである。その他の不安要素もすべて伝聞でしかない。そんな「私は元から不安に思っていた」を根拠に無謀な手術を行ったと結論づけられたらたまったものではない。

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