集約化か、救命救急センターの活用か―重篤小児の救急医療
第1 はじめに
厚生労働省はこれまで、救急医療の全般にわたる体制について、「救急医療の今後のあり方に関する検討会」で議論してきた。
その中で、一般救急と小児救急など、専門分野の救急医療との連携が不十分であることが指摘された。また、我が国の1~4歳の幼児死亡率が高いとの報告があったため、重篤な小児救急患者の受け皿となる小児集中治療室の全国整備が必要であることが指摘された。
このため、重篤な小児救急患者に対する救命救急医療体制(3次救急医療体制)の検討が必要と考えられた。そこで今回、「救急医療の今後のあり方に関する検討会」の作業部会として、本検討会を設置した。
本検討会では、すべての重篤な小児救急患者が必要な救命救急医療を受けられるような体制を構築するための検討を行った。
第2 小児救急医療の現状および課題
1.小児救急医療体制の整備状況
初期救急や一般的な小児医療については整備が進んできた。小児の専門医療や救急医療は、小児救急医療支援事業が144か所で、より広域的には小児救急医療拠点病院が29か所。しかし、未整備の地域もあるため、一層の整備が必要。
一方、高度な専門医療や救命救急医療は、成人と共通の枠組みで、救命救急センターを基盤として整備されてきた。小児に特有なシステムとして、「小児救急電話相談事業」が全国45都道府県に整備されているが、多くの都道府県では午後11時までに限定されている。このため、いつでもどこからでも相談できる体制が課題。
2.小児救急患者の搬送と受入体制
救急隊員の質を保障するため、都道府県や地域単位のメディカルコントロール協議会が全国で287設置されている(2008年8月現在)。
消防法の一部改正に伴い、今後は緊急度や症状を判断するための搬送基準を作成した上で、地域ごとに搬送や受け入れの体制を整備することが課題。
3.救命救急センターにおける小児救急医療
救命救急センターは100万人に1か所を目標として整備され、09年4月1日現在、全国に218か所。しかし、小児を優先的に受け入れる病床を持つ救命救急センターは少なく、小児の優先利用が可能なセンター内の病床数はほとんどが1床。受けいれ困難事例もわずかだが存在する。
06年度から、既存の救命救急センターに小児救急専門病床を整備し、重篤な小児救急患者を受け入れる体制を整備。07年12月1日現在、6か所の救命救急センターに19床が整備されている。
4.小児専門病院における小児救急医療
小児専門病院、小児病院、小児総合医療施設など「小児専門病院」は30年以上の歴史で高度な専門医療を提供してきたが、小児救急で果たす役割は十分ではなかったとの指摘がある。
このため、小児専門の集中治療室(小児集中治療室)を活用して、小児に特化した救命救急医療を実践する病院もある。
日本小児科学会などの指針では、小児集中治療室の要件を「最低6床程度の規模」としているが、小児の集中治療に精通した小児科医や麻酔科医が極めて少ない現状を踏まえると、直ちに全国的に実施するには厳しい指針。
第3 検討事項
1.検討にあたって
重篤な小児救急患者に対する救急医療体制の整備について、「緊急に行うべき取り組み」と「将来的に進むべき方向性」の2つに分けた。
また、発症直後の重篤な時期を「超急性期」、それに引き続く専門的医療や集中治療が必要な時期を「急性期」とした。
「緊急に行うべき取り組み」は、現在ある医療資源を活用して、重篤な小児救急患者を受け入れる「超急性期」の医療を確実に提供する体制を構築すること。「将来的に進むべき方向性」は、「超急性期」に引き続く「急性期」の集中治療などの体制構築で、例えば小児集中治療室の整備など。
2.小児救急患者の搬送と受入体制の整備
小児救急患者は成人と異なる特長があるため、搬送基準の作成が必要。そのためには、都道府県が設置する協議会の構成員に小児科医を含め、消防機関が基準を策定することが必要。
小児救急患者を短時間で搬送するため、対応可能な医療機関を地域ごとにあらかじめ決めておくことが必要。重篤な小児救急患者の場合は、県域を越えた搬送体制も検討する必要あり。
3.発症直後の重篤な時期(超急性期)の救命救急医療を担う体制の整備
すべての救命救急センターや小児専門病院、大学病院などの中核病院で、確実に提供できる体制の整備が必要。それを前提とした上で、小児の救命救急医療を担う医療機関として整備する必要がある。
※ 4月23日の第3回会合で厚労省が示した「小児救命救急医療の今後の整備(案)」では、小児の救命救急医療を担う医療機関を「小児救命救急センター(仮称)」と定義していた。
小児の救命救急医療を担う医療機関は、少なくとも都道府県または三次医療圏あたり1カ所の整備が必要。求められる機能は、すべての重篤な小児救急患者を診療科を問わず、24時間体制で受け入れること。そのためには、多様な規格の医療用具、設備、人員の配置が求められる。
4.「急性期」の集中治療・専門的医療を担う体制の整備
小児集中治療室が良い受け皿だが、現在の医療資源だけでは直ちに実施できない。そこで、将来進むべき方向性は以下の通り。
(1)「超急性期」と「急性期」の機能分担
救命救急センターが重篤な小児救急患者の「超急性期」医療を担うことは不可欠。それに引き続く「急性期」は、小児科医がいる専門の病床で実施すべき。
「超急性期」から「急性期」への転院に当たっては、ヘリコプターを用いた搬送手段などの整備が必要。
(2)小児集中治療室
1つまたは複数の都道府県に、相当数の病床数を有する「小児集中治療室」を整備が望まれるとの指摘があった。一方、現状の限られた医療資源を集約しないで、身近な地域に「小児集中治療室」を確保すべきとの意見もあった。(両論併記)
(3)「急性期」の集中治療・専門的医療を担う医師・看護師の養成
全国に「小児集中治療室」を整備するには、医師が足りない。今後、小児の救急医療を担う医師や看護師の養成を支援する必要がある。
5.小児医療の連携
(1)小児の救命救急・専門医療と地域医療
「急性期」を脱した後も、救急医療用の病床を長期間使用することで新たな救急患者の受け入れが困難となる「出口の問題」が指摘された。
このため、「超急性期」から在宅医療を含めた「慢性期」まで、地域全体で完結できる体制の整備が必要。これまでは、「主治医」を望む意識が患者や小児科医に強くあったが、今後は、複数の医師が連携して治療に当たることが求められる。
小児患者と家族の協力を得るため、都道府県は住民に対して分かりやすい言葉で情報提供する必要がある。
(2)広域連携
「超急性期」の小児患者を身近な地域で受け入れるならば、それに続く「急性期」は広域で整備する必要がある。ドクターヘリなどを活用して、複数の都道府県が連携した運用を検討する必要がある。