入院できる急性期病院が減る? 増える?―DPC退出ルール決定で
大学病院や国立がんセンターなど高度な医療を提供する82か所の「特定機能病院」を皮切りにスタートしたDPCが7年目を迎え、大きな曲がり角に差しかかっている。(新井裕充)
厚生労働省は6月3日の中医協・基本問題小委員会(委員長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授)で、DPC病院を返上するための要件や手続き(退出ルール)などを示し、了承された。
今後、DPCを導入している急性期病院が減るのだろうか―。
DPCは、入院医療費を削減する目的で2003年に導入されたが、「DPCで医療費は増えているはず」との声もある。DPCは入院期間が短ければ短い程、高い報酬を得ることができるので、いったん退院させて3日後に再入院させれば、入院期間がリセットされて再び高い報酬を得ることも可能。手術や投薬、検査などが"パッケージ"の定額払いになっているため、検査や投薬を外来で行うなど、"経営上の工夫"もできる。前年度の実績を保証する「調整係数」も付いている。
しかし、このような病院経営上のメリットが次第に薄れているとの声もある。08年度改定で、"3日以内の再入院"にメスが入り、「調整係数」は2010年度から段階的に廃止。新たに導入される「機能評価係数」は中小病院にメリットがない可能性も大。
「医療の透明化」という名の下、管理医療の貫徹に向けて出発したDPCは所与の目的をひとまず果たし、次のステージに突入したように見える。
厚労省によると、DPCを導入している病院は今年4月現在、準備病院も含めると1557施設。
DPC算定病床数は約48万床で、全国の「一般病床」(医療法7条2項5号)の52.6%を占めるに至っている。DPC病院は、「拡大から選別へ」という段階に入ったともいえる。
今回、「退出ルール」が中医協で正式に承認されたことで、DPCから"脱落"する病院が続出し、これまで急性期の入院医療を担ってきた病院が大幅に減少する恐れもある。
「退出ルール」を決めた6月3日の中医協で、竹嶋康弘委員(日本医師会副会長)は、「(DPC病院から)「退出する場合は、速やかに患者及び関係者に周知するとあるが、『関係者』もいろいろある」として、周知が必要な「関係者」の定義について質問したが、保険局医療課の宇都宮啓企画官は「医療機関の関係者、あるいは支払機関の関係者を想定している」と回答した。
これに対し、国民を代表する立場の委員(公益委員)である庄司洋子・立教大大学院教授は、「(DPCは)分かりにくい」と指摘した上で、次のように質問した。
「(DPCの)良さとして、何が伝えられてきたのか。今後、このことを国民の理解を得るために、どういう観点から広報、PRをしていくのかとか、そういうことについて、今までどういう議論があったのか。あるいは現状どうなっているのか」
その上で、庄司委員は「きちんと国民に向かって情報を発信できるかが重要だと思う。今後、DPCというのは、国民的理解を得るために、どういう方向できちんと広報していくかを考えていきたいし、いただきたいと思う」と要望した。
ところが、この発言に対して中医協の会長を兼任する遠藤委員長は、「つまり、今度はDPC対象病院がかなり増えるということなので、『そもそもそれは何なのか』ということの周知を徹底してほしいと、そういうご意見だと思う」とまとめている。
一方、質疑の後半で厚労省の担当者は、今後の事務的な手続きに関連して、どのぐらいの病院数が退出を希望するかが予測できていないことをうかがわせるような応答をしている。
今回、決定した「退出ルール」によると、「特別の理由」があれば、いつでもDPCから脱退できる。
① 医師の予期せぬ退職等により、急性期入院医療を提供することが困難となった場合ただ、DPCから抜けた後も、「継続して急性期入院医療を提供する場合」は、DPCデータを2年間提出しなければならない。
② 当該病院の地域での役割が変化し、慢性期医療を提供する病院となった場合
会合終了後の会見で、「急性期入院医療」の意味をめぐって執拗に質問する記者がいたが、宇都宮企画官は不機嫌そうな顔で、「ご質問の趣旨が分からない」と一蹴している。
「急性期入院医療」の定義が不明確なまま、DPC病院の今後も見えない中で医療政策を決定している中医協の危うさがここにある。
果たして、「急性期入院医療」を提供する病院は減るのか、増えるのか―。
同日の厚労省の説明と、委員の発言要旨は以下の通り。