新体制の中医協で、ついに"開戦"
「この資料はもう渡されている。DPCの医療費を決めるのであれば何が問題になっているかを議論したほうが国民のためになる。ただ座って説明を聴いているだけ。委員になる先生方のようなIQがあれば分かることだ」─。新体制で再開した2回目の中医協で、新任の嘉山孝正委員(山形大学医学部長)が中医協改革にのろしを上げた。(新井裕充)
厚生労働省は11月4日、中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会と基本問題小委員会を開催した。診療側の改選をめぐって1か月中断した後、新体制で再開した10月30日の前回会合は厚生労働省のペースで進んだが、今回は違った。薬価専門部会に続いて開かれた基本問題小委員会の冒頭で、西岡清・DPC評価分科会の説明を嘉山委員が突然さえぎった。
「さっきの会議もですね、安達委員の質問が13分、そのほかの説明が45分なんですよ。私、西岡先生は学部長会議からよく存じ上げていて尊敬している先生の1人なんですが、この資料はもう(事前に)渡されている。DPCの医療費を決めるのであれば、何が問題になっているかということを議論したほうが国民のためになる。そのことを優先していただかないと、ただ座って説明を聴いているだけ。これ、もう渡されている。ここの委員になっているような先生方のようなIQがあれば分かることだ。今までの会の流れを見ていると、(資料説明で)あまりにも議論がない」
嘉山委員はさらに、「いわゆるハコをつくってDPCをやれている病院は良い結果が出ているようになっている。今の日本の医療の崩壊を防ぐためには、人口が少なくて医師も少ない所を考慮しないと、さらに崩壊していく」などと、現行のDPC制度の問題点を指摘した。途中、遠藤久夫委員長が嘉山委員の発言を遮るなど、久しぶりに中医協が荒れた。
同日の基本問題小委員会の議題は、DPCと勤務医の負担軽減など。DPCでは、「調整係数」の廃止に伴って来年度から導入される「新たな機能評価係数」の絞り込みの議論を進める予定だったが、嘉山委員の発言を突破口にして、新任の鈴木邦彦委員(茨城県医師会理事)も続いた。
「そもそも、DPCの導入は前政権における医療費抑制政策の一環として導入された気が強くする。厚労省は、質の向上と効率性が同時に達成されつつあるという評価をされているようだが、やはり質の向上には基本的にコストが掛かるということを前提にしないと、医療がどんどん荒廃してしまう。私どもは地方の過疎地にある民間病院だが、9月の収支差益はたった12万円。1か月、朝から晩まで頑張っても1か月に12万円しか病棟として利益が出ない。もともとが安すぎる。今、なんとか頑張ってDPCになっている病院はもう大幅に減収になるということが予想されるので、地方の医療をさらに混乱させるようなことはやめてほしい」
さらに、安達秀樹委員(京都府医師会副会長)はDPCによる平均在院日数の短縮化を問題視した。
「DPCで平均在院日数を決めている。しかも、それをだんだん短縮していく傾向にこれまであった。その結果として、いわゆる再発率、あるいは完治に至らないままの退院というものが増えているという実感がある。平均在院日数の欠点はそこにあるのではないか。質の評価として、そういうものを何かお考えになっていらっしゃるのか。『抗がん剤の効果に限界がきた』という医学的判断をした時に、そこで治療が止まる。『受け皿として何があるか」を考えると、結局ホスピスしかない。けれど、ホスピスまでの距離というのは相当あり、その方の限られた生活、命というものをどういう受け皿でやるのかというのが、今の日本の診療報酬体系も含めた医療システムの中には欠落しているんじゃないか」
新任の3委員はこのように、医療費抑制策を進める自公政権下での制度設計を激しく批判。「勤務医の負担軽減」の議論では、ドクターフィーの導入をめぐって激しい議論が交わされるなど、厚労省の下書き通りに進まない様相を呈してきた。
同日の会合では、遠藤委員長が"防波堤"の役割を果たしたが、今後も続くかどうかは見えない。医療課の専権事項となっている診療報酬改定の細部に切り込めるか、新委員と厚労省との攻防が始まった。この日のDPCをめぐる議論は次ページ以下を参照。
【目次】
P2 → 「何が問題かを議論したほうが国民のためになる」 ─ 嘉山委員
P3 → 「いやいやいや......、あの......」 ─ 遠藤委員長
P4 → 「全国の小さな病院も全部入っている」 ─ 西岡分科会長
P5 → 「DPCを改善しなきゃいけない」 ─ 嘉山委員
P6 → 「医療がどんどん荒廃してしまう」 ─ 鈴木委員
P7 → 「完治に至らないままの退院が増えているという実感」 ─ 安達委員
P8 → 「ちゃんとやっても赤字というのはおかしい」 ─ 邉見委員