差別医療か、平等な医療か
■ 「論点が分かりづらい」 ─ 遠藤会長
[遠藤久夫委員長(学習院大経済学部教授、中医協会長)]
(後期高齢者に関する診療報酬について医療課が示した)「論点」はあるんですが、ややこの「論点」がですね、分かりづらい点もあるものですから、「論点」に添った議論でももちろん、ご意見を頂いて構いませんけれども、むしろ重要なものについては、「個別にどうするか」ということをご議論いただいたほうがいいかなあと思います。
基本的にどういう議論になるかというと、選択肢としては「廃止である」、「凍結する」、あるいは名称を変える、名称を変えた場合でも「中身を変えないで名称のみを変える」、「中身も変える」、このぐらいの選択肢があり得るだろうと思います。できれば今回、ある程度方向を固めていきたいと思いますので、皆さんのご意見を頂きたいと思います。
○ 後期高齢者特定入院基本料についてそこでまず、私なりに勝手に議論の順番を付けさせていただきたいと思いますが、まず2ページにあります「後期高齢者特定入院基本料」からご意見を頂きたい。今後どうするかを決めていただきたい。
(1) 一般病棟に90日を超えて入院する高齢者のうち、密度の高い医療を必要としない患者については、
①一般病棟の機能をより適切に発揮される観点
②長期入院を必要とする患者が療養するのにふさわしい環境の整った療養病床等での療養を促進する観点
から、診療報酬が減額される(※1)。
但し、「一定の基準」を満たした患者については、引き続き入院基本料を算定することとなる。※1 もともと、平成10年に「老人長期入院医療管理料」として老人診療報酬に創設された。
(2) 平成20年診療報酬改定において、病棟機能の明確化の観点から、上記の「一定の基準」の対象患者を見直した結果、重度の意識障害、人工呼吸器装着、頻回の喀痰吸引等のない脳卒中患者や認知症の患者について、通常の患者と同様に減額対象とした。(3) 実際の運用に際しては、半年間の猶予期間を設けたものの、退院を迫られる患者が生じる等の批判があったことから、「既に入院している患者」及び「疾病発症当初から当該病棟に入院した新規患者」のうち、医療機関が退院や転院に向けて努力をしている患者については、地方厚生局に「退院支援状況報告書」を提出していただくことで機械的に減額の対象とすることはしないとする経過措置を設けた。
(4) 上記の取扱いについては、一定期間経過後、実態の把握を行うこととしたが、「退院支援状況報告書」の提出状況は漸減している(※2)。
※2 平成20年10月時点で2105件 → 平成21年6月時点で1484件
もともと、「老人長期入院医療管理料」という形であったわけですが、その中で「一定の基準」の対象患者を少し変えた。脳卒中患者、認知症の患者さんの......(小声で聞こえず)、......がないという状況が......。
こういうふうにして条件をある意味で少し厳しくしたことに対してはいろいろと批判がありまして、現状では「退院支援状況報告書」を提出していただくと(減額が)猶予になるという状況にある。これをどうするかということで、ご意見、いかがでしょうか。鈴木委員、どうぞ。
▼ 急性期病院から回復期リハビリ病院へスムーズに患者が流れるかという問題。脳卒中の後遺症患者が専門的なリハビリを受けられずに寝たきりになるか、重大な分かれ目ともいえる。
前回の診療報酬改定では、脳卒中患者の行き場がなくなるような"リハビリ改悪"が実行された。回復期リハビリ病院の"入り口"をふさいだため、急性期病院から回復期リハビリ病院に転院させにくくなった。そこで、回復期リハビリ病院へ無理に転院させなくてもいいように経過措置を設けた。このため、「脳卒中患者の行き場がなくなる」という問題はさほど顕在化していない。
具体的に説明すると、例えば脳卒中で倒れて急性期病院で治療を受けた後、回復期リハビリテーション病院に転院。その後、状態が回復すれば在宅復帰になるが、そのように進まないケースもある。重症化してなかなか回復しないケースがある。重症化したために急性期病院で入院が長期化してしまうと、回復期のリハビリに移れなくなる(2か月以内の転院基準)。また、入院期間が90日を超えると減額されてしまう。このため、急性期病院としては早く回復期リハ病院に移してベッドを空けたいと考える。
これまでは、こうした要請に回復期リハビリ病院は応えることができた。重症化の恐れがある患者でも、回復度合いによって診療報酬が下げられる仕組みはなかったし、在宅復帰を強制するような規定もなかった。もし、在宅復帰が難しくなったら障害者病棟に移すこともできた。ところが、前回改定でこのような道を封じた。「質の評価」という名の下、在宅復帰率や改善度合いなど「リハビリ成果主義」を導入。さらに、障害者病棟の対象患者から脳卒中の後遺症患者らを除いた。その後、回復期リハビリ病院は次々に患者選別を進めて入り口を制限するとともに、障害者病棟を回復期リハビリ病棟に変えるなど対応策を講じたという。障害者病棟に入院していた患者を無理矢理追い出すなど現場は大混乱したとも聞く。
「脳卒中患者の行き場がない」という血も涙もない改悪については、週刊誌その他の雑誌などでも広く取り上げられた。こうした非難の声に耳を傾けたのか、「急性期病院で入院期間が90日を超えても減額しないので、そのまま入院させてもいいですよ」という経過措置を設けた(90日超の減額猶予)。このため、脳卒中患者の行き場問題はさほど表面化していない。今後、急性期病院の受け皿をどうするつもりか?
中医協・検証部会の調査によると、「連携先として増やしたい医療機能」で最も多かったのは「療養機能」(42.7%)、次いで、「回復期リハビリ機能」(41.0%)だった(複数回答)。また、「地域に十分にない」医療機能のトップは「療養機能」(77.8%)、次いで「亜急性期医療機能」(69.0%)、「回復期リハビリ機能」(63.5%)などが挙げられた(同)。
その一方で注目されるのは、「地域に十分にある」医療機能のトップが「急性期医療機能」(44.7%)だったこと(同)。急性期医療の象徴である「7対1入院基本料」を算定しているベッドの6割以上が65歳以上の高齢者で埋まっているという厚労省のデータもある。慢性期や回復期を冷遇するから地域医療が壊れてしまうのではないか。適切な例でなかったら恐縮だが、1年生がきちんと球拾いをせず、2年生が十分に動かないから3年生が苦労する。1、2年生のケツばかり叩いて3年生ばかり優遇しようとするから、チーム全体として機能しない。3年生が1、2年生のプレーを「レベルが低い」とバカにするから、チームワークが悪い。これは、医療界独特の傾向かもしれない。
【目次】
P2 → 「後期高齢者に係る診療報酬」 ─ 4つの論点
P3 → 「論点が分かりづらい」 ─ 遠藤会長
P4 → 「75歳以上だけ厳しく退院を迫る制度は廃止すべき」 ─ 鈴木委員(診療側)
P5 → 「受け皿をつくらないと解消しない」 ─ 安達委員(診療側)
P6 → 「高齢者は独特の病状」 ─ 白川委員(支払側)
P7 → 「受け皿の心配は全くない」 ─ 西澤委員(診療側)
P8 → 「無意味に近い延命に医療資源を投入している」 ─ 邉見委員(診療側)
P9 → 「高齢者が亡くなるときは大往生、若い人と違う」 ─ 嘉山委員(診療側)
P10 → 「人権侵害があってはいけない」 ─ 勝村委員(支払側)
P11 → 「まともにやっている医師が被害」 ─ 嘉山委員(診療側)
P12 → 「家族も含めた医療を進めるため評価すべき」 ─ 勝村委員(支払側)