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ニュース〜医療の今がわかる

差別医療か、平等な医療か

■ 「受け皿をつくらないと解消しない」 ─ 安達委員
 

[安達秀樹委員(京都府医師会副会長)]
 会長がご指摘になっています、その(後期高齢者特定入院基本料の)前のもの(老人長期入院医療管理料)も、基本的な1つの意味はいわゆる「社会的入院」という形でひとくくりにされるものを急性期病棟に置いておくことは、いろんな意味でよろしくないでしょうという趣旨で、「早く退院していただきなさい」という点数設定だと私は理解しております。

 急性期病棟の機能を考えますと、それはそうあるべきだという意見もあります。こういう方々が増えてきますと、そもそもの急性疾患を受け入れるベッド数が十分に確保できない。それから、こういう方々が入院されますと、急性期病棟であるにもかかわらず介護要員を複合してお持ちになると、そこの所の病院職員間の仕事にも支障が出てくるというような両方の面があります。

 現実にどうなっているかを申し上げますと、例えば京都市と隣の滋賀県の大津市、これは全然違いまして。何が違うかと言うと、大津市は、例えば日赤市民病院等々、こういう対象になられる(長期入院の)方達がかなり急性期病棟におられます。京都市内のほうは割とそれは少ない。

 この違い(の理由)はいろいろあるのでしょうが、1つは「医療型療養病床」の数の差が非常に大きくなっておりまして、滋賀県大津市はその(療養病床の)数が少ない。ですから、要するに受け皿がないんです。「出て行け」と言われても。なんとか受け入れる所(療養病床)がある所(急性期病院)はなんとかなっている。
 ですから、「受け皿がない」という中で、数が少ない中で余計に受け入れてくれないというのが「医療型療養病棟」の「医療区分1」です。
療養病棟入院基本料のグラフ.jpg こういう(後期高齢者特定入院基本料の算定から除外される「一定の基準」で定める)12の対象以外のいわゆる「軽症」と認定されている方達の受け皿は、「医療型療養病床」に行くと、たいていは「医療区分1」に入るわけですので、余計に受け皿がないということになる。

 だから、これをやめて「医療区分1」を見直すということで、ちゃんとしっかりした受け皿の体制をつくるということをしないと、この問題は解消しないのではないかというふうに理解しています。

 ▼ ここで、「後期高齢者特定入院基本料」について整理しておく。「後期高齢者特定入院基本料」は、高齢者が一般病棟に90日を超えて入院する場合に算定する入院基本料として、平成10年に「老人特定入院基本料」として創設された。平成20年度診療報酬改定で、名称のみ変更して現在に至る。1日につき928点。算定要件は、「後期高齢者であって、当該病棟に90日を超えて入院する患者」該当する場合に算定。この「当該病棟に90日を超えて入院する患者」には除外規定があって、①難病患者等入院診療加算を算定する患者 ②重症者等療養環境特別加算を算定する患者 ③重度の肢体不自由者─など12項目が挙げられている。これを医療関係者は、「特定除外」などと呼ぶ。
 つまり、90日を超えると原則として減額、ただし12項目については今までのままフラット(減額なし)。減額されないのは、がんや難病など密度の高い医療が必要な患者。減額されるのは、「密度の高い医療の必要性が低い患者」とされている。今後の焦点は、「特定除外」に挙げられた患者の受け皿であり、これらを受け入れるのは「亜急性期病床」か、それとも「療養病床」かが問題となる。ただ、厚労省によると、「亜急性期病床」だけで運営している病院はない。
 なお、減額されずにフラットで行ける12項目の中に、「③重度の肢体不自由者」がある。これまでは脳卒中の後遺症患者をこれに含めていたが、「平成20年3月5日厚生労働省告示第62号」により、「重度の肢体不自由者(脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者を除く)」とされた。つまり、脳卒中の後遺症患者らが減額対象となってしまった。しかも、障害者病棟から脳卒中の後遺症患者らを外したため、脳卒中患者の行き場がなくなると批判を浴びた。こうした声を受け、90日超で減額しないよう経過措置を設けた。非常に分かりにくい、その場しのぎの診療報酬改定はいつまで続くのか。

[遠藤久夫委員長(学習院大経済学部教授、中医協会長)]
 そうすると、安達委員の考えとしては、「医療区分1」を見直すことを前提に、この......(後期高齢者特定入院)基本料について廃止するという意味合いでしょうか。

[安達秀樹委員(京都府医師会副会長)]
 はい、そう申し上げました。

[遠藤久夫委員長(学習院大経済学部教授、中医協会長)]
 この場合は、(90日超で減額する)平成10年の「老人長期入院医療管理料」の時の姿勢は......、それは維持するということでよろしいのでしょうか?

 ▼ 問題の所在を理解していればいいのだが......。ちょっとお疲れなのかもしれない。ところで話はそれるが、前回改定を終えた後、土田武史・前会長が「医療課のペースで進んでしまった」と嘆いていた。「原課長が事前に説明してくれるのだが、こちらには詳しい知識がないから、『あーそうなのか』と納得してしまう。しばらく経ってから問題点にふと気付くことがあってもその時には手遅れだった」と話していた。06年度改定で「7対1入院基本料」が創設され、地方の看護師不足が起きたことも予想外だったらしい。土田前会長が大島伸一専門委員(当時)に、「先生、あれで看護師不足が起きるなんて予想しましたか?」と尋ねたら、「私も想像しませんでした」という答えが返ってきたらしい。08年度改定については、「リハビリに導入された成果主義の影響がどうなるか。とにかくリハビリが心配」と漏らしていた。「しばらくドイツの医療を見てきますよ」と言って日本を一時去ったが、その土田前会長の想いを遠藤会長が受け継いでくれることを願う。

[安達秀樹委員(京都府医師会副会長)]
 えーっと......、これよりは緩いんですよね。

[遠藤久夫委員長(学習院大経済学部教授、中医協会長)]
 これよりは緩いんですか。脳卒中とか認知症とかが今回追加されているわけですからね。

[安達秀樹委員(京都府医師会副会長)]
 そう......、ですね。そこの所はちょっと、手続き上というか、理論上は細かい詰めが必要だろうと思いまして......。

[遠藤久夫委員長(学習院大経済学部教授、中医協会長)]
 療養病床の(医療区分)1の見直しも同時に行う必要があると、こういう意味ですね。

[安達秀樹委員(京都府医師会副会長)]
 はい。

[遠藤久夫委員長(学習院大経済学部教授、中医協会長)]
 はい、分かりました。ありがとうございます。(中略)


【目次】
 P2 → 「後期高齢者に係る診療報酬」 ─ 4つの論点
 P3 → 「論点が分かりづらい」 ─ 遠藤会長
 P4 → 「75歳以上だけ厳しく退院を迫る制度は廃止すべき」 ─ 鈴木委員(診療側)
 P5 → 「受け皿をつくらないと解消しない」 ─ 安達委員(診療側)
 P6 → 「高齢者は独特の病状」 ─ 白川委員(支払側)
 P7 → 「受け皿の心配は全くない」 ─ 西澤委員(診療側)
 P8 → 「無意味に近い延命に医療資源を投入している」 ─ 邉見委員(診療側)
 P9 → 「高齢者が亡くなるときは大往生、若い人と違う」 ─ 嘉山委員(診療側)
 P10 → 「人権侵害があってはいけない」 ─ 勝村委員(支払側)
 P11 → 「まともにやっている医師が被害」 ─ 嘉山委員(診療側)
 P12 → 「家族も含めた医療を進めるため評価すべき」 ─ 勝村委員(支払側)

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