(新企画)村重直子の眼1 成松宏人・山形大特任准教授
成松
「ただ、市販前に治験とかでできる安全性確認というのは限りがあります。人数が限られているし」
村重
「稀な副作用は分かりえない」
成松
「それに、治験になると、均一な患者さんが集められるというのはあります。本当の臨床現場に使うのとは違うから、市販後にしか分からないことがどうしてもあります」
村重
「治験に入れないような患者さんにもニーズがあるということですね」
成松
「結局はそういうニーズの方が大きかったりするんです。でも、そういう所まで全部事前に安全性を確かめるというのは限界があると思います。大事なことは安全性情報が現場の医師にすぐに公開されることだと思います。いつでも誰でも迅速に共有できるようにしておくことが安全性をかなり高めることになるんじゃないのかな、と。話が先生の持論に近づいてきましたね」
村重
「市販後の副作用データベースを公開して、リスクとベネフィットのバランスを誰にでも見えるようにするということですね」
成松
「そうです」
村重
「同じものでも患者さんのシチュエーションによって、違う対応があり得る。シチュエーションによってリスクとベネフィットのバランスがちょっとずつ変わってきて、使うかどうかもちょっとずつ変わってくるので、その判断材料となるデータベースを皆で共有しようと」
成松
「その大切さを実感します」
村重
「シチュエーションの違いという意味では、血液製剤は通常は疾病があって出血が止まらないとか理由があって使うわけですけれど、例えば良性腫瘍の摘出手術のように割と健常人に近い場合や、本人には疾病のない移植ドナーさんの場合もありますよね。ワクチンとかもそうなんですが、健常人に使う場合は、同じものでも病気の人に使う以上にリスクとベネフィットを慎重に。やっぱり何か起きてはならないという、リスクの少ないことが要求されますよね」
成松
「その通りですね。リスクとベネフィットのバランスをどこに取るかはシチュエーションによって違いますし、絶対的に正しい判断というものもないと思うんです。その中で、よりよい答えをみつけるためには、情報を公開・共有して、関係者の間で丁寧に議論を積み重ねることにつきると思います」