村重直子の眼5 小野俊介・東大大学院薬学系研究科准教授(上)
小野
「確かに『機関』や『組織』が本質ではなく、機能が本質です。加えて、本当は医療経済的判断をそこにどう盛り込むかという議論も必須です。現在は新薬の承認審査のいろいろなところで、医療経済的な判断が『こっそり』『暗黙のうちに』行われています。狭い意味での薬の有効性・安全性評価を行うことを標榜したPMDAが経済的な判断を得意とするわけはなく、実際には世の中で薬をどう使うかという意味合いでの評価を、PMDAと厚労省がこっそり、半ば担当者の個人的な思い込みに基づいて実施しています。それを陽の光のあたるところに出して、臨床医主体の審査機関で、国民の声を聴きながら、お金の支払いを念頭に置いて評価する仕組みをつくると、複数の審査機関の間で緊張感が生まれて、いいですね」
村重
「薬事承認の判断とお金の支払いの判断を別々にして緊張感を持たせるわけですね。お金の支払いの判断は、保険者の数や患者の数だけ、複数あっていいと思います」
小野
「お金の支払い方だけでなく、もっと幅広い判断、つまり薬の患者への使い方すべての面で必要な判断をすることになるんじゃないでしょうか。医療現場では、薬事法の規定や添付文書では想定しきれない制約がいろいろあります。例えば、医師の腕です。新薬の承認審査で、ある薬を承認して良いかを考える時に、薬の特性を熟知した医師が処方しないと危ないだろうという懸念が出ることがあります。薬の効果は使い方次第で変わります。承認の内容次第で、医師の行動が変わり、結果として患者の健康の帰結が変わるのです。しかし狭義の薬効評価の世界ではそのあたりを考える手掛かりがありません。別の枠組みが必要なのです。現状では、よく知られたエピソードなどをたよりにして、審査官と企業担当者が不安を抱えたまま判断をくだし、承認内容を決めています。それも薬事法という制約の枠の中で、です。そういう部分を、PMDAではないもう一つの審査機関の専門家が、商売として判断することにしてはどうかと思っています。まさに、お医者さんが薬をどう使うかというところまでを織り込んで判断する機能ですね。いい加減に、曖昧に済まされているその部分をきちんとやってもらいたいと思います」
村重
「事前の審査でやったふりをして全国一律ルールを患者さんに押しつけるんじゃなくて、事後のモニタリングをきちんとして、臨床現場での多様な使い方とか患者さんの個別性とかも、データベースを公開して、皆で考えていきましょう、フィードバックかけていきましょうということですね。患者さんが一人一人違う以上、現場の薬の使い方は多様で、単一の正解というものはありませんから」