村重直子の眼5 小野俊介・東大大学院薬学系研究科准教授(中)
村重
「でも政治任用の話は、たとえ論文の読み書きが必要とされない分野でも、実は必要だと思うんですね。今の政務三役も、全く手足となる人間のいない状況で、何千人何万人も役人がいる巨大な官庁の中にポツンと入って、籠城してはいるけれど援軍は誰も来ないみたいな状況にあるので。人事権を政治家が持っていて、政治家の意図というか、政治家の背景にある国民の意図を汲んで動くスタッフがいないと、本当に現場の意見を聞いたり、現場の多様性を集めるという、役人とは別ルートの情報が集まって来ないので、そういう意識での政治任用は必要だと思います。その他に、医学とか薬学とか工学とか専門性の高い人でないと分からない分野について判断する際にも、やはり政治任用が必要になってくると思うんですよね。厚生労働省に関しては、舛添前大臣が既にそういう枠組みを作っていたのに、民主党はなぜ使わないんだろうと思います。もちろん舛添前大臣の時と同じ人間をアポイントする必要はありません。政権交代前にできていた仕組みがあるのに、どうしてそれを活用したり、もっと広げていったりしないのかな、と思います」
小野
「仮に政治任用が採用されたとしても、その先にこれまでの普通の公務員人生ルートが用意されてしまうと、今までと何も変わらないので、自分の仕事に対して給料が払われる、自分のやった仕事で評価される、という認識や文化も必要ですね。国会の予定を大臣に間違えて伝えて異動になったとされる人たちがいますが、大臣は『通常の人事です』と言っていたらしいですね。新聞は各紙『更迭』と書いているのに、大臣だけが『いや、通常の人事で懲罰じゃない』と言っている。『それなりのチョンボをやらかしたのだから、応分の責任は取ってもらいます。別のポストで再起してくださいね』となぜ言わないのか不思議です。給与を下げたり、家族を路頭に迷わせたりまでは無論しないのだから、誰も大臣を極悪人と呼んだりはしないのに。ミスを許さず、一方で再起も許さない、そういう文化が、ポリティカルアポインティーの導入を難しくするかもしれません」
村重
「ポリティカルアポインティーのメリットは、終身雇用ではなく、政治家の任期と共に去ることですよね。何年かで入れ替わるという前提で入ってくるわけです。つまり、色々な人がやることになって、国民から見ても、よかった時期、悪かった時期というのが分かりやすくなります。あの人の時は良かった、という国民の評価もあり得るわけです。そうすれば、懲罰の部分だけでなく、褒めてあげる部分も出てくると思うんですよ。今は日本の政治家は褒められることがありませんからね」
小野
「信賞必罰と言うと厳しい感じがするけれど、そういうイメージではなくて、適性が合わなかったり、成果があがらなければ異動ということでいいのでしょうね」
村重
「そうですね、ゴメンなさいと言えるように。ちょっとポスト替わるとか、1カ月減給とか、政治家と共に去るとか、社会的な責任の取り方はあるし、それによって国民の信頼が得られていくんではないかと思いますね」
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