村重直子の眼17 小田知宏・発達わんぱく会理事長(上)
村重
「発達障害って、社会生活で困らなければ大丈夫、普通の社会生活に溶け込んで、周囲に受け容れてもらえればいいんだという印象を持っているんですけれども、小学校に入るとか幼稚園に入って集団生活になる前に、療育することで周囲になじみやすいということなんですよね」
小田
「たとえば自閉症の子どもで、友達ができづらくて独りでいる子をよく見かけますけど、独りでいたいわけじゃなくて、友達と遊びたいんですけど、社会性に困難を伴っているので、どういう距離感で遊んだらいいかが分からなかったり、あるいは友達に自分が何かやったらどういう気持ちになるかという所が想像できなかったりするんですね。自分はその子と遊びたい、でも、その子から自分が嫌われているというのも気づくわけですね。嫌われているのに気付いたら、やはりへこむじゃないですか。それで結果独りになっているということが多いんですね。
友達と仲良く遊びたいという気持ちはあるし、距離感が分からないけれど教えてあげれば分かる。例えばものすごく近くで話したりしますから、友達は違和感を感じます。でも人と人が話をする時には30センチぐらい離れてするもんなんだよ、とちゃんと教えてあげれば、できるんですよ。ただ他の子たちは教えられなくても分かるから、世の中では、ずっと教えてもらえない。その環境で育っちゃうと、それを知らずに距離感が取れずに嫌がられちゃうんです。あるいは、こういうことをすると相手はすごい嫌な思いをするんだよというのを、こういうことやっちゃダメなんだというのを何回も何回もその子が分かるように教えてあげれば理解できる。空気とか表情とかを感じることが苦手なんで、やめてって言葉ではっきり言ってあげる。お友達のみけんに皺がよったら、それは嫌だという表情なんだよって」
村重
「普通の人は当たり前だと思って言葉にしないようなことを、言葉で教えてあげればいいのですか」
小田
「教えてあげるか、学べる環境をちゃんと用意してあげれば、学べるんだけれども、普通の世の中にはそういうものがないので、それをここで用意してあげたいなということですね」
村重
「発達障害で、きちんと社会に受け入れられて成功した人もいるとか、あるいは歴史に残る偉人たちにも発達障害の人が多いのでないかという話を聞いたことがあります」
小田
「そうですね。よく言われてますよね。誰を例に挙げるのがよいのかな。たとえば坂本竜馬。あれだけの行動力があって、世の中で当然とされている古いしきたりとか枠に囚われることなく、自分が正しいと思った道を行くことができた。だから日本を変えられたと思っています。彼の幼少期の姿を小説で読むと、ADHDの傾向があると思います。ただ、それを親であり親戚がきちんと理解して、彼にあった療育の環境を用意していたと思うんですね。たとえば、特に友達とは遊ばなくてもいい、剣道ばかりやっていればいいというような環境を用意してあげたとか。あれで子どもたちの群れに放たれて、友達から罵倒されながらやってたら自尊感情が失われて、大志を抱いて突き進んでいくというようなことはできなかったと思うんですね。彼に与えられた養育環境が、苦手なところが表面化しないような環境に置いてあげたことが、彼の特異なキャラクター、竜馬が成人してからの人格につながったと思います。そういう人が、僕から見て発達障害の傾向がある、あるからこそ偉大なことを成し遂げたということなんで、そういう可能性を持った子どもたちが、この教室に通うので、その可能性をを伸ばすような教室をつくりたいと思います」