なぜ愛育病院は「総合周産期母子医療センター」返上を申し出たか(上)
愛育病院が是正勧告を受けた内容は、▽医師の時間外労働について36協定が締結されていなかった▽職員の時間外労働と休日労働が法定基準を超えていた▽時間外勤務の割増賃金の未払い―の3点。
これを受けて同病院は、「労働基準法を遵守すると、常勤医がすべての当直に加わることができず、非常勤医2人で当直することもあるため、総合周産期母子医療センターの体制としてどうか」(中林院長)と考えたことなどを理由として、3月24日に東京都に対して総合周産期母子医療センターの指定返上を打診。あわてた東京都や厚生労働省が病院側と協議した。
このとき、厚労省の外口崇医政局長が中林院長に対し、職員代表との合意の上で時間外労働に関する「特別な定め」について労基署と相談してはどうかと助言した。中林院長は、「労使協定の特別条項を使ってクリアしたらどうかというアドバイスをいただいたが、時間外労働が100時間とかになるとそれでは『ザル法』。80時間では過労死ラインといわれる。米国では60時間ぐらいなら容認しようという考えもあるので、それぐらいなら何とかなるのでは」と話す。
愛育病院の産婦人科で4月の勤務に組まれたのは12人。中林院長によると、このうち、4人の女性医師が妊娠中や子育て中で当直ができないという。また、部長クラスになるとオンコール体制となるため、実際に当直ができるのは6人。労基署の指導に従って当直表を組むと非常勤2人の体制になる日が10日ほどあった。中林院長は、「総合」センターを続けることについて「東京都は2人の医師がそろっていればいいと言う。周産期医療協議会の岡井崇会長が皆さんと相談し、『愛育にお願いしよう』と言っていただけるなら、続けてやっていける」と、中林院長は総合の指定を続けることには前向きな意向だ。
何が何だかよく分からない話だが、「愛育が『総合』を続けることには何のメリットもない。むしろ返上したくて仕方なかっただけ」と指摘する同病院関係者もいる。中林院長によると、「総合」指定を受けていることによる補助金は年間約3000万円で、2007年度の分娩件数は約1750件。「現状の体制で許されているならば、(総合の指定が)あった方がいい。ただ、いざとなれば日赤医療センターもあるので、『絶対に』というわけではないと思っていた。法律違反をしている病院という後ろ指を指されたくないし、『総合』を降りたとしても、コーディネータとしての機能などこの地区で起きたことについては引き受け、同じ役割を果たしていくつもり」(中林院長)。
現状の体制で許されないとなれば、補助金を帳消しにするほどの人件費増が見込まれる。しかも、過重労働は産科だけの問題ではない。新生児科も同様に厳しい状況だ。4月には常勤が2人減って5人体制となり、1人の新生児科医が月に7回の当直をこなさないといけない状況になる。非常勤医もいない状態だという。中林院長も新生児科については「特例条項が80時間ぐらいになっても仕方がないと思う」と話す。これまでの残業時間も、産科よりも新生児科の方が長いという。
先月末の愛育病院に、東京都と厚労省が「特別条項」を使えば、労働大臣告示での時間外労働の上限時間を超過しても大丈夫と言ったとの記事を読み、厚労省の誰が言ったのか疑問に思っていました。
”厚労省の外口崇医政局長が中林院長に対し、職員代表との合意の上で時間外労働に関する「特別な定め」について労基署と相談してはどうかと助言した。”
ナルホド、愛育病院に助言したのは外口崇医政局長だったのですか。
ところで労働基準法法や労働基準行政については、金子順一労働基準局長の所掌と記憶していますが、何時から医政局長は労働基準法も所掌するようになったのでしょうかね?
それは置いておくとして、医師の人数や医療スタッフの計画的養成を所掌する医政局の見通し違いが、現状の医師不足と医療現場での長時間過重労働の原因の一つであることは間違いない。そして労働基準法を厳格に適用していけば、現状の医療体制の相当部分を縮小しないかぎり、労基法遵守での勤務医の労働環境が実現しないことも確実だと思う。
こうした現実は、連日の過酷な長時間労働で疲労困憊していく勤務医も不幸だし、医療提供体制の恩恵に与るはずの国民にとっても有り難いことではない。勤務医の過重労働軽減の為に医療を受ける患者や国民が協力できることは無いのか。また医療に対する過大な期待や幻想を少し縮めることによって、医療提供体制の負担を軽くできる余地は無いのだろうか。
医療者も行政も患者や国民も、それぞれが出来る範囲や限界を示して説明し、相互理解する機会が必要だと思う。
法務業の末席様
コメントありがとうございます。
>厚労省の誰が言ったのか疑問に思っていました。
私も同じく思っておりましたので、会見時に中林院長にお尋ねしました次第です。
その経過は、こちらにも書いてございますので、
またご参照いただけましたら幸いにございます。
https://lohasmedical.jp/blog/2009/04/post_1695.php#more
>こうした現実は、連日の過酷な長時間労働で疲労困憊していく勤務医も不幸だし、医療提供体制の恩恵に与るはずの国民にとっても有り難いことではない。勤務医の過重労働軽減の為に医療を受ける患者や国民が協力できることは無いのか。また医療に対する過大な期待や幻想を少し縮めることによって、医療提供体制の負担を軽くできる余地は無いのだろうか。
ごもっともと存じます。
記事中には書けませんでしたが、
日本医療機能評価機構の河北博文専務理事が、
「都病協で、救命センターを集約化するシミュレーションを行っているところだ」
と仰っていました。
こうしたことなども、医療側から提案できる一つの手立てなのかもしれないと思った次第です。
私自身も、こうしたマスメディアでは伝えられない医療側の動き、
患者側の動きなどを双方に伝えていくことで、
法務業の末席様の仰る
「それぞれが出来る範囲や限界を示して説明し、相互理解する機会」
につなげていくことができれば、と思っております。
> 法務業の末席さま
> 医療に対する過大な期待や幻想を少し縮める
これがどうしてなかなか難しいなと診療していて常日頃感じます。
やっぱりマスコミの影響が大きいんだろうな。