先発品企業が命運を託す「薬価維持特例」(1)―意見陳述(日薬連)
■ 患者数の少ない疾患でもビジネスに貢献できる
【P3・最近の新薬の開発状況】
最近の新薬の開発状況をご紹介する。
満足な治療法や治療薬のない疾患を「アンメット・メディカル・ニーズ」と読んでいる。今、製薬会社はこうした疾患に対して革新的新薬をつくることに挑戦している。
この図は、(財団法人)ヒューマンサイエンス振興財団がいろいろな疾患に対して、治療の満足度(横軸)および薬の貢献度(縦軸)を医師にアンケート調査した結果。
左下のピンクで網掛けしたボックス。「治療の満足度」も「薬剤貢献度」も低い疾患としては、アルツハイマー病、肺癌、肝硬変などがある。調査に参加した医師は、ピンクのボックスの中に分類された疾患の治療薬の開発を望んでいる。
一方、右上のグレーの網掛けしたボックスの中には、すなわちこれらは、治療満足度ならびに薬剤の貢献度が高いものと回答された疾患で、消化性潰瘍、高血圧症、高脂血症などがある。
こうした疾患の治療薬は、有効性・安全性の面で満足度も完成度も高いので、特許満了後には後発品に代替されると予想できるので、このグレーボックスの中にある疾患に対する新薬の開発は現在、減少しつつある。
一方、ピンクのボックス中の疾患、こうしたアンメット・メディカル・ニーズに対応した新薬の開発は増加し、2009年では94品目、(開発が)行われている。
なお最近では、医療現場と連携してゲノム科学を応用し、病態解明の基礎研究から創薬が行われて、低分子化合物に加えて、抗体などのバイオ医薬品の開発も進展中。
【P4・アンメット・メディカル・ニーズへの対応】
アンメット・メディカル・ニーズに対応して革新的新薬の研究・開発を行い、上市した例をご紹介する。
1988年に筑波大の柳澤先生は、強力な血管収縮を起こす生体成分「エンドセリン」を発見した。国内の多くの製薬企業は「高血圧の薬になるだろう」と考えてエンドセリン拮抗薬を発明したが、有効性が認められなかったことから、開発が中止された。
その後、筑波大の内科の宮内先生が動物でエンドセリン拮抗剤が、肺高血圧症に有効であることを報告しているが、製薬会社はこの適応症に興味を示さなかった。
理由は脚注に書いたように、肺高血圧症は右心不全をきたす致死的な病気だが、日本での患者数は約1000人で、「患者数が少ない」というビジネス上の観点からだった。
スイスのバイオベンチャー・アクテリオン(Actelion)は、(エンドセリン拮抗薬)ボセンタン(bosentan)を肺高血圧症の治療薬としてグローバル開発して上市した。製品名「トラクリア」(Tracleer)は、肺高血圧患者の生存率を改善することから、医療への貢献度が高く、その価値が世界各国で高く評価され、グローバルな売り上げでは、円換算で約450億円に達している。
このように患者数の少ない疾患でも、アンメット・メディカル・ニーズを充足する薬が、グローバルで高く評価されると、医療への貢献と同時に、ビジネスに貢献できる例といえる。
【P5・医薬品の安全対策強化】
医薬品の安全性確保は、業界として最優先の課題として認識している。各社は従来から、社内の体制強化に取り組んでいる。
2008年、厚生労働省は日本発の医薬品の薬害発生を防止するための迅速な安全対策強化を提案した。医療現場での適正使用の徹底 研究開発から承認審査・市販後までの一貫した安全対策、そして米国FDAや欧州医薬品庁などとの連携強化を目指している。
日本での安全対策は医薬品医療機器総合機構(PMDA)で、現在39名の要員で行われているが、本年度から民間の協力によりPMDAでの安全対策要員を増加させる。本年度は100名の増員を計画し、国の運営交付金に加え、製薬業界からの拠出金で運営する。