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先発品企業が命運を託す「薬価維持特例」(1)―意見陳述(日薬連)

■ 「薬価維持特例」の対象はアンメット・メディカル・ニーズの高い領域
 

【P12・薬価維持特例の概要】
12_日薬連の意見書0603.jpg 薬価維持特例の概要について説明する。

 既に、当部会で専門委員より説明があった内容だと思う。「薬価維持特例」の要旨をもう一度、整理させていただく。

 「薬価維持特例」は、特許期間中もしくは再審査期間中の新薬の薬価を維持し、特許が失効した後、引き下げを猶予された分を清算するために、市場を後発品に委ねるという概念に立つもの。

 また一方で、過大な薬価差を放置せず、かつ薬価差の拡大も招いてはならないという観点から、収載全品目の加重平均乖離率を超えるものについては、この「薬価維持特例」を受けられない。

 薬価を維持せず、現行の調整幅2%によるルールに基づく改定を行うというもの。

【P13・薬価維持特例の対象範囲】
 「薬価維持特例」の対象範囲について説明する。

13_日薬連の意見書0603.jpg 「薬価維持特例」の対象については、「新薬の薬価収載時点で一定の評価がされるものに限定してはどうか」というご意見があることは承知している。

 しかしながら、仮に収載時の算定時の評価のみに対象を定めた場合、医療の現場において新たなエビデンスが集積される、あるいは医療現場から高い有用性評価を得たものが「薬価維持特例」から除外されてしまう。

 あるいは逆に、収載時点で競合品がないということで、その後に複数の競合品が参入することによって、競争が激化したものが「薬価維持特例」の対象となってしまうという問題を生じることになる。

 従って、医薬品の評価はあくまで医療現場で実際に評価される、このような原則に従って、市場における評価を反映できるという意味において、当該品目の乖離率、これを指標とすることが妥当と考えている。

 乖離率を指標として、市場の評価に基づく要件を課すことにより、結果として、市場が大きく、競争が大変激しい領域の品目は、結果的には対象とはならず、実際にその医薬品の競争優位性がある、あるいは希少性がある、例えばオーファン(ドラッグ)に代表されるような市場の小さい領域、あるいはアンメット・メディカル・ニーズの高い領域にかなった品目のみが「薬価維持特例」の対象になると考えている。

 この一定の要件について、過去の改定結果を当てはめて検討してみた。その結果をビジュアル化したものが14ページ。

【P14・予測される薬価維持特例の対象領域(イメージ)】
 まず、市場が大きく、かつ競合が大変激しい領域の品目。

14_日薬連の意見書0603.jpg たとえ特許期間中であっても、例えばARB剤、スタチンなどは過去の改定結果に基づくと、その乖離率は加重平均乖離率を超えている。従って、このようなものは、「薬価維持特例」の対象にはならない。

 一方、HIV治療薬、難病治療薬、オーファンなど市場の小さい領域、あるいは抗がん剤に代表されるようにアンメット・メディカル・ニーズも高く競合品が少ない領域は、乖離率が市場平均よりも小さいため、「薬価維持特例」の対象となることが予測される。

 また、「薬価維持特例」の対象となる新薬は左下の図にあるように、特許期間中の薬価が維持されることによって、特許満了までの販売額が増加する。しかし、特許失効後は後発品への置き換えが従来(現行)の制度よりも販売額が減じる。

 すなわち、産業としては、次の新薬創出に向けた研究・開発への再投資分を特許期間中に前倒しで得ることが可能になる、そのような制度である。

 また、「薬価維持特例」の対象とならない、結果として対象とならなかった新薬については、これまで(現行)と同様に2年に1度、薬価が改定されることになる。販売額については、現行制度と違いはない。

 一方で、特許失効後はこれまでの国の方針の通り、後発品の使用促進によって、さらにこれまで(現行)以上に大きく減少する。大変、産業にとって厳しい制度であるともいえる。

【P15・薬価維持特例の下、アンメット・メディカル・ニーズに対応した研究開発)】
 製薬企業がアンメット・メディカル・ニーズに対応して、どのような研究・開発をこれから促進するかについて見た図。

 これまで製薬企業の多くは、比較的、既に市場の大きな領域を中心に幅広く研究・開発投資を進めてきた。特に、大手企業、厚生労働省の産業ビジョンでいうところの、いわゆる「メガファーマ」では、一定規模の売上げを確保するため、たとえ競合が激しくとも市場の大きな領域への研究・開発投資を続ける必要があった。

15_日薬連の意見書0603.jpg 一方、先程、竹中会長からお話があった通り、近年、創薬アプローチが変化し、高度化し、アンメット・メディカル・ニーズの高い領域へ研究・開発投資をシフトさせてきている。

 こういう状況の中で、「薬価維持特例」を導入することは、このような大手企業の研究・開発の方向性、行動を後押しし、シフトを加速することにつながる。

 一方、比較的、規模の小さい企業、研究・開発を志向している企業は特定の領域に強い企業、生労働省の産業ビジョンでいうところの、いわゆる「スペシャリティーファーマ」として、その規模と、自らが得意な領域に特化して集中的に研究・開発投資を行うことが可能。

 「薬価維持特例」は、このようにアンメット・メディカル・ニーズに対応した新たな薬への挑戦につながっていくものと考える。「薬価維持特例」の導入は大手の企業のみならず、研究・開発を通じて、国民・患者が求めているアンメット・メディカル・ニーズに応えていく。そのような企業が新しい制度を活用し、研究・開発を促進する。

 逆に申し上げると、そのような行動を取らない企業にとってはメリットがない仕組みとも言える。先程、説明した「未承認薬等開発支援センター」は、このように患者さんが少なくて、個別の企業ではなかなか開発着手に取り組めない領域についても補っていく。このようなセンターであるということ。

 私の説明は終わらせていただく。

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