文字の大きさ

ニュース〜医療の今がわかる

「DPCによる急性期医療の評価と今後の方向性」 ─ 松田晋哉教授の講演

■ 急性期病院の評価は機能係数だけでなく複合的に


[松田晋哉・産業医科大医学部公衆衛生学教授]
 DPCデータから何が分かるかということですが、「様式1」(診療録情報)が患者の臨床情報。これは全国共通の簡易退院サマリです。
 「E・Fファイル」(診療報酬請求情報)というのを使うことによって、「いつ、何を、どれほど行ったのか」というプロセスが全国共通で評価できるということが一番です。こういうデータが標準化されているからこそ、皆さんの病院でいろんなベンチマーキングが可能になるのだろうと思います。

 これ(スライド)は全国の国立大学のデータですが、「入院何日目にPCIを狭心症にやっているか」です。全国の平均は翌日ですが、病院ごとに見ると非常にバラバラな状況です。たぶん、各病院の先生方は非常に忙しい状態でやっていて、たぶん気付かないんだろうと思います。比較をしない限り。
 でも、比較してみると、病院によっては6日目にやっている、あるいは3日目から7日目までダラダラとやっている。比較を通して、自分の病院が違うことにちょっと気付いていただいて、それを直していくという作業を通して医療の質の改善と経営の改善をやっていくということがDPCの大きな目的だろうと思います。

 (4月から新たな機能評価係数として導入される)「効率性」「複雑性」ですが、「効率性」というのは何かと言いますと、全国(のDPC病院)と比べてどれぐらい(平均在院日数が)短いかです。「複雑性」というのは、全国(のDPC病院)と比べてどのぐらい医療資源が必要な患者さんを診ているかということを評価する。

 新しい機能係数と現在の調整係数については厚生省が公の文書に書いていますが、「現在の調整係数の大小は原則として考慮しない」ということを明言しています。
 各病院の「急性期」としての機能、「地域への貢献」としての機能を係数化する、指数化するということになっていますし、それは地域医療計画とリンクされていますので、各病院の説明責任が問われるということになっています。その説明責任は、評価の基本となるデータの正確性、診療内容の妥当性ということになると思います。

 ただですね、DPCに関して機能評価係数だけが取り上げられがちですが、機能係数だけでいろいろなことを評価するわけではありません。基本的には、変動費的な部分は診療報酬の見直しによって対応していくわけですが、これは出来高払いの単価を最適化することによって担保されます。
 例えば今回、手術の点数が外保連(外科系学会社会保険委員会連合)試案を基にして見直されるわけですが、もともとの出来高払いの単価を最適化する。

 それから、包括にそもそもなじまないようなものがあります。それは「術中迅速病理診断」や「検体検査管理加算」ですが、「そもそもドクターフィー的なものについては包括の範囲から除外する」という議論があります。たぶん、この延長線上に今後、高額薬剤と高額材料の議論が出てくるだろうと思います。

 先ほど、(東邦大医療センター大森病院心臓血管外科部長の)小山(信彌)先生のお話にもありましたが、全部分岐でやっていくという話になってしまうと、これはかなり複雑な作業になってしまう。何らかの一定のルールをベースにしてこの議論をしていかなければならないだろうと思います。

 ただしですね、前提があります。その前提は何かと言うと、日本には医薬品や医療材料に関する臨床経済的な評価を行うための基盤がありません。製薬メーカーさんにはあまり心地よくない意見になるかもしれませんが、「なぜこの価格なのか」ということに関する妥当性が臨床的に評価できない。
 要するに、開発価格がその価格なのかと言うと、たぶん違うんだろうと思うんです。やっぱり、各医療技術に関する医療経済性評価、臨床経済性評価の基盤というものをつくっていかないと、たぶん正しい評価というのは難しいのではないかと思います。たぶん、これはもちろん私たち研究者の仕事でもあるわけです。

 あと、(DPC分類の価格を最適化するために)分類の精緻化をやって、変動費的なものは吸収していく。それ以外に、固定費的な部分として、一部の患者さんが負担すべきものは加算によって対応していく。
 それから、すべての患者さんが負担すべきものとか、地域として必要な機能、要するに病院が持っている機能は係数で評価していく、指数で評価していく。こういう基本方針で(支払いの最適化を)やっていくことになります。
 そういう意味で、急性期病院の評価というのは、(診療報酬の見直し、加算による対応、病院の機能係数など)かなり複合的にやられていくということになります。

 
【目次】
 P2 → 急性期病院は40万床ぐらいが妥当
 P3 → 支払いのためにDPCをつくったわけではない
 P4 → 地域医療の新しいガバナンス機能が必要になる
 P5 → アクセシビリティー評価のため情報を整理する必要がある
 P6 → 急性期病院の評価は機能係数だけでなく複合的に
 P7 → 救急をどのように評価するかが難しい
 P8 → 救急は連携体制を評価しなければいけない
 P9 → 救急の評価はロジックを少し変える必要がある
 P10 → 「地域医療指数」はまだ明確ではない
 P11 → 集約化をやっていかなければいけない
 P12 → DPC病院の将来は「救急」「周産期」「がん」がキーワード
 P13 → 慢性期の病院に関して、ちょっと僕は分からない

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
loading ...
月別インデックス