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ニュース〜医療の今がわかる

「DPCによる急性期医療の評価と今後の方向性」 ─ 松田晋哉教授の講演

■ 地域医療の新しいガバナンス機能が必要になる
 

[松田晋哉・産業医科大医学部公衆衛生学教授]
 DPC対象病院の基準は何だろうと考えたときに、一番大事なことは臨床面では急性期病院であること。これは、手厚い医療体制であることです。
 「望ましい5基準」(特定集中治療室管理料、救命救急入院料、病理診断料、麻酔管理料、画像診断管理加算)が(新たな機能評価係数の候補から)消えちゃいましたけれども、私たちはやはり、中央診療部門が充実していることが重要だろうと考えています。要するに、急性期に対応できるだけの中央診療部門、体制があることがやはり基本だろう。

 (DPC対象病院の基準を)経営面で言うと、「皆さんから頂くデータが正しい」ということが支払いの前提、評価の前提になります。そうすると、正しい情報をつくることができるという能力というのが評価し得る。あるいは、それをマネージメントに生かす力をどう評価するかということも考えなければいけないかもしれません。

 ということで、(4月から導入される新たな)機能評価係数に関する基本的な考え方ですが......。これ(基本的考え方)は一昨年(2008年12月17日)に(中医協の基本問題小委員会で)出た(了承された)ものですが、基本的にはこの考え方で(新たな機能評価係数の選定を)やられてきています。

 ▼ 新たな機能評価係数に関する基本的な考え方は、①DPC対象病院は 「急性期入院医療」 を担う医療機関である。新たな 「機能評価係数」 を検討する際には、「急性期」 を反映する係数を前提とするべきではないか ②DPC導入により医療の透明化・効率化・標準化・質の向上等、患者の利点 (医療全体の質の向上)が期待できる係数を検討するべきではないか ③DPC対象病院として社会的に求められている機能・役割を重視するべきではないか ④地域医療への貢献という視点も検討する必要性があるのではないか ⑤DPCデータを用いて係数という連続性のある数値を用いることができるという特徴を生かして、例えば一定の基準により段階的な評価を行うばかりではなく、連続的な評価の導入についても検討してはどうか。その場合、診療内容に過度の変容を来さぬ様、係数には上限値を設けるなど考慮が必要ではないか ⑥DPC対象病院であれば、すでに急性期としてふさわしい一定の基準を満たしていることから、プラスの係数を原則としてはどうか ⑦その他の機能評価係数として評価することが妥当なものがあれば検討してはどうか─の7項目。

 1番目は、DPC対象病院というのは 「急性期入院医療」 を担う医療機関であるから、新たな 「機能評価係数」 を検討する際には、「急性期」 を反映する係数を選定すべきである。

 2番目としては、医療の質の向上に資するような係数を設定すべきである。これは(4月の導入では)まだ完全ではありません。これから4年、6年ぐらいかけてたぶん医療の質に関連するような係数、指数が設定されると思います。

 ただですね、ここで一番大事なことは3番目、4番目です。DPC対象病院として社会的に求められている機能・役割を重視する。もう1つは、地域医療への貢献です。
 これ、サラッと書いてありますけれども、DPCというのは所管が保険局ですが、3番目と4番目は地域医療計画ですので医政局です。要するに、局をまたいでDPCデータが使われている。医療提供体制の見直しが医政局と保険局の共同作業として始まったということが非常に大きなことであったと考えています。

 ▼ DPC病院を中心に拠点化・集約化を進め、これを医師の計画配置につなげていこうとする構想は依然として変わらないか。そうすると、ケアミックス型病院のような「なんちゃって急性期病院」をいかに急性期の枠組みから外していくかが今後の課題になる。なお、これに関連するDPC評価分科会の議論は、「DPC病院の"計画配置"か ─ DPC評価分科会で厚労省案」を参照。

 先ほど、「医療計画が非常に重要だ」というお話が(元医政局長の)伊藤(雅治)先生からありましたけれども、まさにその通りだと思っています。
 昔、医局制度というのがあったときには、それなりに地域医療のガバナンスができていました。「どこぞの病院に何々先生を派遣する」ということをやることによって、地域全体としてある程度の医療機能を維持していたわけですけれども、今、大学病院はその機能を失いましたので、そうすると新しいガバナンス機能が必要になります。

 現行制度の中で、新しいガバナンス機能を持つことができるのは、実は地域医療計画しかないんですね。地域医療計画の実効性をいかに高めていくか。これを(DPCデータなどの)情報に基づいてどうやって高めていくかということが、これからの大きな課題だろう。そこのところ(情報公開)に経済的なインセンティブ(機能評価係数)を付けていくという話になってくると思います。

 ▼ 松田教授は昨年5月14日のDPC評価分科会で、「医療の質にかかわるデータを作って公開していることを評価すべき」と主張したが、池上直己委員(慶應義塾大医学部医療政策・管理学教授)が「医療計画に出ているデータを公表しても意味がない」と反論した。その後の議論で、データの公開を機能評価係数で評価することは見送られた。

 
【目次】
 P2 → 急性期病院は40万床ぐらいが妥当
 P3 → 支払いのためにDPCをつくったわけではない
 P4 → 地域医療の新しいガバナンス機能が必要になる
 P5 → アクセシビリティー評価のため情報を整理する必要がある
 P6 → 急性期病院の評価は機能係数だけでなく複合的に
 P7 → 救急をどのように評価するかが難しい
 P8 → 救急は連携体制を評価しなければいけない
 P9 → 救急の評価はロジックを少し変える必要がある
 P10 → 「地域医療指数」はまだ明確ではない
 P11 → 集約化をやっていかなければいけない
 P12 → DPC病院の将来は「救急」「周産期」「がん」がキーワード
 P13 → 慢性期の病院に関して、ちょっと僕は分からない

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