村重直子の眼6・井上清成弁護士
井上
「ある人が裁判を起こせば、究極まで頑張った人に対してはある意味『頑張り料』があって、賠償額が高くなるわけです。私は法律家ですから、その金額を適正だと仮定します、お医者さんからすれば本当に適正かは異論があるかもしれませんけれど。ところが、公平に全員に『適正』にしようとしても、今の世のシステムでは、適正さと公平さは共存できません。皆が高い金額で公平ならハッピーですが」
村重
「皆さん、そのためにたくさん税金を払いましょうという話になって、でもそれが成り立たない以上はできないですね」
井上
「個別の案件における適正さとは別に、皆で税金払いましょうという財源の全体の中での公平さを含めた意味での適正さがどこにあるのかというのは、残念ながらまだ十分に議論されていないと思います。公平さまで含めた意味での適正さで、できるだけ多くの人が公平に救済できるようにするのが大切でしょう。同じ皆保険制の下で医療を受けて、それでハッピーな人が多いけれど、残念ながら不幸な結果が出てしまった人がいれば、それをできるだけ漏らさずに救済するというのが基本的な理念です。ですから、あえて適正と公平と言葉を分けるとしたら、どちらかと言えば公平を重視して物事をまず考える。それが裁判風の適正に近づけば近づくほどいいけれど、そのために公平を崩してしまっては何にもなりません」
村重
「表の医療費が他の先進国に比べてかなり安く抑えられていますから、裏の皆保険側だけ高くというわけにはいかないでしょうね」
井上
「金額が、適正でなく、安くなってしまう可能性もあります。安くなった場合に、裁判における適正と裏の皆保険による公平さを含めた適正金額の落差とをどう考えればいいのか、これが非常に重要な問題です。裏の皆保険を実現するとしたら国民の間のコンセンサスが必要になるんじゃないかと思うんですが、その時にその落差を裁判で埋める手を残すべきなのか、なくすべきなのか、これが非常に重要な問題になっちゃうわけですね」
村重
「免責を入れて、無過失補償を受けたら訴訟できなくするかどうかですね」