村重直子の眼14 熊田梨恵・『ロハス・メディカル』論説委員(下)
熊田
「困っていることは政治家に直接伝えてくれたらいいのに、気が付かないのが悪いと言われてもというのがあるのですよね。困っているなら困っていると言ってくれないとと」
村重
「だからこそ政務スタッフが必要なんですよ。今は、国民目線で調査しに行く人間がいないわけじゃないですか。間をつなぐ人がいない。熊田さんの本は、間をつなぐメディアの役割という意味で初めての画期的なものだと思っているんです。そこを医療者側から声を上げればいいというのは違うと思っています。もちろん声を上げることも必要だし、できる範囲でやりたい人がもっともっとやってほしいとは思っていますけれど、それは彼らの本業じゃないんですよ。本業は患者を診ることなんですよ、それ以外のことにエネルギーを費やすべきだと要求するのはおかしい。そこをじゃあ誰がやるのかという問題ですが、政治家に政治任用されたスタッフがもっといれば、それが本業なんだから調査できますよ。現場に聞きにいけばいいんです、会いに行けばいいんです、電話かけて聞けばいいんですよ。いくらでもできますよ。政治家が本当に国民のニーズを判断してバランスをとりプライオリティをつけようと思うなら、そういう風にスタッフを置いて情報収集するべきです。そしてもう一つは、メディアの役割があると思います。メディアも間をつなぐのが本業でしょう」
熊田
「でもどうなのでしょうか。医療界自身が自分たちでなければ分からないことを伝えて行くというのも一つ何というのでしょうかね、業界団体としての役割はないのでしょうか」
村重
「全否定しているわけじゃなくて、医療の専門職としての本業じゃないということです。現場で患者を診療している医療者が声を上げるのはボランティアでの社会貢献ですから、余裕があるならやればいいしやりたい、だけどそんな余裕がどこにあるんですかって言っているんです。人手が足りない、余裕がない中で、プライオリティをどこに置くんですかと言ったら、患者のケアであることに間違いはないでしょう。それプラスアルファ、患者を診ること以外に世の中に訴えたり、医療に来る前の人たちに語りかけて伝えたりという活動は、余裕があればやりたいですよ、もっともっと増えてほしいと思ってますよ。余裕がないからできないんでしょう。それをしてほしいなら、もっと人を増やしてお金を増やして余裕を増やしてほしい、そうでなければ動けない。ただ目の前の患者を診るためだけに、これだけ自己犠牲を払っているのに、まだプラスアルファを要求するんですか」
熊田
「そこは私自身も悩むんですけど、この本を書いた時に、一部の方から『本来医者が言うべきことを言ってくれてありがとう』というようなことをおっしゃって頂きました。でも私はドクターたちの代弁をしたかったという意味で書いたのではないんですね。たしかに今まで明るみに出ていなかったものを書いたということはあるんですけど、言われたくないこともたくさん書いていると思います。何というのでしょうか、もう少し医療界に対して、これでいいんですかということを言いたいというのもあって、一部には医療界の味方として書かれた本だという見方をする人もおられるようなんですけれど、決してそんなことはないんですね。もし代弁するんだったら、完全にエージェントとして医療界からお金をもらって、そういう役割の仕事として書くことになるんだろうけれど、でも今はそういう立場じゃないですから」
村重
「そのままでいいんじゃないですか。熊田さんはメディアの立場で、ご自分の問題意識があったから書いたんですよね。それはすごく画期的なことだったし、今まで誰も触れられなかったタブーに切り込んでくださった。大人の呼吸器外しすらタブーなのに、赤ちゃんの医療をどこまでやるんですかというのは、本当に手を着けられないタブーなので、そこに切り込んでいってオープンにしたというのは、国民みんなにとって大きな意味があります。別に誰か一部の人のためとか誰の代弁とかじゃなくて、国民みんなのためにオープンにするべきことだし、みんなが考えるべきことだし、そういう意味ですごく画期的なことだと思うんですけど」
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