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福島県立大野病院事件第九回公判

本来なら本日も公判傍聴へ行くつもりだったのですが、厚生労働省の『診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会』が、急に割り込んできたため『周産期医療の崩壊をくいとめる会』の先生方とも相談し、分担して両方カバーすることとして、私は検討会へ行くことになりました。

(以下は、くい止める会のM先生の報告です)
今日は、弁護側の産科医の証人、東北大学の岡村教授の尋問と
午後加藤被告に対する、前々回から持ち越しの再主尋問が行われた。


岡村教授は、33年間、周産期医療にたずさわってきた。
ソフトだが、はぎれの良いはっきりした口調で明快に答える。


弁護: 大学病院ではハイリスクの分娩を扱うのですね
証人: その通りです

 (中略)

弁護: 前置胎盤症例が最近増えていることはありませんか
証人: 大変増えています。
弁護: 何件くらい、数でいくと
証人: 今10月ですが、今年に入って既に20件くらいありました。
弁護: 去年は
証人: 14,5件と記憶しています
弁護: どうして増えたのですか
証人: 大野病院事件の影響もあるかと思いますが、少しでもリスクのあるものは大学病院を紹介されたり搬送されたりしてきます。
弁護: 前置胎盤よりも、よりハイリスクの症例に影響はありますか
証人: 大学病院が大変忙しくなったので、大学でなくてはいけないリスクの高い症例も、軽いリスクの症例も多くは大学病院に運ばれて紹介され、多忙になったのです。


弁護: 前置胎盤では分娩後、胎盤の用手剥離をしないで、胎盤が剥離してくることはありますか
証人: 前置胎盤の症例ですか
弁護: そうです
証人: 半分くらいは用手剥離をしています。
弁護: 通常の時は、用手剥離しなくても胎盤は剥離するのですか
証人: 子宮収縮を促すと剥離することがほとんどです。
弁護: 用手剥離の際に出血はありますか
証人: もちろん用手剥離の間、かなりあります。胎盤が子宮に付着しているのをはがすので、当初から出血してきます。


弁護: 出血により、胎盤の剥離を中断することはありますか
証人: 私の経験ではありません。剥離を始めたら最後まで完遂します。
弁護: 何故ですか
証人: 剥離を始めると出血が始まるので、まず止血するためには、胎盤を全て剥離するのが第一です。その次に止血をはかります。


弁護: 先生の帝王切開の症例で、開腹後、子宮を見ただけで、癒着胎盤とわかった症例はありますか
証人: 1例のみです。
弁護: 経膣分娩で、胎盤をはがしにくいのは何例ありましたか
証人: 記録していないが、10件以上はあったと思います
弁護: 胎盤がはがれにくいときはどうするのですか
証人: 胎盤が出てこないとき、用手剥離をします。用手剥離でとれない例もあり胎盤をむしったり、ちぎったり、そういう形で胎盤を出すこともありました。


以下、外来と入院の診療録の記載や超音波検査の写真に沿って、説明が続く。
弁護: 28週6日目の診療、このときには、previa前置胎盤(+)で、この時点で、前置胎盤の診断をしたのですか
証人: そうですね
弁護: この超音波写真から何が言えますか
証人: これは、頚管長を測っています。内子宮口に胎盤がかかっているので、
弁護: 頚管長は何のために測るのですか
証人: 早産のとき、頚管長が短くなります。前置胎盤では早産の可能性が出てきて出血する可能性があるので、それを確認します。
弁護: 癒着胎盤の所見はありますか
証人: ありません。胎盤は、写真の左上の白く見えるところですが、そこと子宮筋層の間には黒い線が見えますが、これはclear spaceと呼び、はっきりしているので、癒着胎盤の所見はありません。
(中略)
弁護: 12月3日の、下の超音波写真の右側には、血流(+)の記載があります
証人: 台形の枠の中に血流が見られるということです。
弁護: 今の写真で血流のある場所はどこですか
証人: 台形の中の真ん中から下にかけてです。
弁護: 前置胎盤の超音波検査をされたことはありますか
証人: 何回もあります
弁護: 何回ですか
証人: 数えられないくらいあります
弁護: この血流から癒着の存在を疑いますか
証人: 100%の否定は難しいですが、前置胎盤の場合、これくらいの血流はときどき見ますので、これをもって癒着胎盤とは言えないです。
(中略)
弁護: 12月6日の記載で、尿中潜血(±)にて、placenta accreta又はprevra bleeding注意とありますね。±はどれくらいの量ですか
証人: 肉眼でわからないですが、微量の血球が尿中に存在するくらいです
弁護: 尿中にごくわずかの血を認める場合、癒着胎盤を疑いますか
証人: 尿潜血は時々妊婦にみられる所見ですので、これをもって癒着胎盤と診断するのは、過剰診断というか、診断のいきすぎです。
弁護: 普通の妊婦にもみられるのですか
証人: そうです。
弁護: 12月6日、膀胱下血流(+)の記載がありますね。
証人: 超音波写真の台形の範囲の真ん中に白い芋虫のように見えているのが血流です。
弁護: 癒着胎盤を疑いますか
証人: 正常の方の超音波検査でも頻繁に観察されます。これをもって癒着胎盤とは言えないです。
弁護: 「本日、尿潜血(-)」の記載が、12月10日にありますね。
証人: 疑いを払拭したと思います。
弁護: 癒着胎盤を疑わせるものはありますか
証人: ありませんね


・・・・・以前尿潜血(+)では、検察側の被告に対する尋問があったが、それが、数日後の再検査では、陰性だった、ということは、検察は触れていなかった。傍聴人は今日はじめてその事実を知った。民事裁判では、お互い都合の良い証拠を提示して争う、それはわかる。しかし、刑事裁判でも、やはり警察・検察に都合のよい証拠だけが尋問され、そうでない証拠は隠蔽されているのだろうか。

検察側の質問は、午前中は比較的あっさりと終わりました。

検察: 癒着胎盤の特徴のひとつに、出血量が多いということがあげられますか
証人: はい
検察: どの程度の出血ですか
証人: 私の経験では、5千〜6千です。
検察: その5千〜6千の出血の時間は何時間ですか、長い時間ですか
証人: それは術中の出血なので、なかなかどの時間かはわかりませんので、答えようがない

検察: 術中には癒着の程度はわからないのですか
証人: わかりません

検察: 癒着胎盤が術前にはわからないというが、臨床的に診断するのはどのような場合ですか
証人: はがして出血が多いときを、臨床的に癒着胎盤と診断する。
検察: 用手剥離できない場合、臨床的に癒着胎盤と言いますか
証人: 胎盤が全く剥がれないということは私の経験にないので、答えられません
検察: 胎盤と筋層の間に隙間がないのを、臨床的癒着とするのはどうですか
弁護: 胎盤と子宮壁に隙間がある、って、子宮と胎盤がくっついていないってことですよね。でも胎盤は子宮に付着しています。検察は認識が違います。間違った事実認定をしています。

そして午後、

検察: 証人は患者さんの後壁下部に嵌入胎盤が認められたことはご存じですか
証人: 聞いています。
検察: 超音波検査をしたけれど、被告は嵌入胎盤を見つけることができなかったということになるのですか
証人: 被告とは、
検察: 加藤医師は、超音波検査を行ったが、所見を認めることができなかったということですか
証人: 疑う所見がなかった、のであって、見つけることができなかったのではないでしょう
検察: でも、実際は嵌入胎盤があったのですよね
証人: ありました
検察: でも、その像を見つけられなかった
証人: なかったのです
検察: どういうことですか
証人: 100%診断できるものではありません。所見がなかったから、疑わなかった、ということです。
検察: 検査をしても、嵌入胎盤があった、という一つの症例だということですか
証人: 診断効率は何をやっても100%ではない、一応検査をしたが、所見がなかったが、しかし、病理診断で嵌入胎盤という症例だと考えます。

検察: 超音波検査の写真にない部分に癒着があったということは考えられませんか
証人: まず一般的に医師は、超音波検査の際に、まず全体をみます。異常があればそれを残します。癒着の所見があれば、必ず記録をカルテに貼ります。
検察: それは証人ご自身の経験と知識からですか
証人: カルテを見ると、加藤先生は慎重にみています。尿潜血とかもみています。超音波検査で疑いがあれば、必ず書くと思います。
検察: 本人から聞いたのですか
証人: いいえ、カルテを見て、慎重だから、そうやると思う、私の考えです。
検察: 加藤医師の能力についてはいかがですか
証人: 資料を見ていると、私にはこれまでの経験から超音波検査の技術を判断する能力が自分にはあると思うのですが、超音波検査に、加藤医師は習熟していると思います。
検察: 結果的に嵌入胎盤だったのですが、それが術前の診療記録に残っていないのは、加藤医師の技量や経験を疑わないですか
証人: 全くないです。


検察: 証人は、最初の意見書ではどういう意識でお書きになっていたのですか
証人: こういうことについて、意見を述べてと弁護人から言われたことについて、意見を述べました。

検察: 証人は、胎盤のどのあたりまで実際用手剥離を行い・・
弁護: 異議あり、胎盤の用手剥離について主尋問をしていません。反対尋問の範囲を超えています。帝王切開から用手剥離までは、次回の証人に求めています。今回の証人は、入院外来カルテをみて、主に術前検査や診断について述べてもらっている。
裁判長: 鑑定書の中身は裁判所はわからないが、手術のことは記載されているのですか
弁護: 鑑定書に限定して聞いてください
裁判長: 今回の証人をとりあげるとき、重複していないようにするとは以前言われていることですね。どうしても聞きたいときは、それに限ってということで聞いてください。
検察: 証人は同じ立場なら、同じことをしていた、と述べているので、反対
尋問が及ぶということになります。

検察: 証人は、加藤被告がどのあたりまで用手剥離を行い、どこからクーパーを用いたという認識ですか
証人: 記憶が曖昧なのではっきり申し上げられないが、ある程度まで用手で
検察: 大部分ですか
証人: それはちょっとわかりません
検察: どの資料でそれはお知りになったのですか
証人: 見たか記憶にないが、そういうような調書を読んだのではないかと
検察: 加藤医師のですか
証人: 私は今、記憶がはっきりしないので、答えられないと
検察: 胎盤の付着部位はどこでしたか
証人: 後壁に広範に、胎盤がかなりおおきかったと記憶していた
検察: どれくらい
証人: いや、かなりというしか
弁護: 主尋問で、証人の経験としてクーパーの使用はきいていますが、前提の資料を読み込んでいないのですから、お答えできません。主尋問の範囲を超えています。
検察: 証人は本件のクーパーを使用の是非を鑑定書に書いているわけですから、信用性を争いたい。証人が被告人でも、同じ事をしたということなので、証人の認識の上で聞きたい。
裁判長: 検察は、範囲の前提にこだわっていたのですから、そこを考慮してきいてください。
検察: でもきかれてましたよね。
弁護: それはそっちでしょ
検察: 限定できていないと、鑑定書に両方の証人に重複しているわけだから、
弁護: 我々はあくまでも証人の経験として聞いたわけで、本件に即してきいていません。
検察: ではそもそもクーパーの使用についてきいた意義は何ですか
弁護: 一般の産科医としてクーパーを使うのかきいたのです
検察: 本件のクーパーの意義をきいている
裁判長: 一般的なところで良いではないですか。中身の正確性でどうしても聞くところまでは聞いてください。弁護側は証人により内容の区分けをすると言われていたので、その範囲で聞いてください。
検察: そういう前提で確認することは、内容の信用性を吟味する上で必要です。
裁判長: そこに影響するのですか。最初に弁護側に全部準備してもらうことが必要でしょ
弁護: 午前の尋問では、一般論として聞くということで、あくまで言っています。
検察: 本件と一般論とどう関係あるのですか
弁護: 検察だって、一般論として、色々聞いているではないですか。それは本件と関係ないとでも言うのですか

検察: 証人は癒着の範囲をどの程度だと認識していますか
証人: ちゃんと読んでいませんが、一部と理解しています。
検察: 病理診断の資料はあったのですか
証人: 写真は、ながめていたが、記録を読む事はしていません
検察: 病理診断には、検察側のと弁護側のものとがあるがどちらですか
証人: 検察のかと思いますが、結果は知りません。
検察: 局所的とは
証人: そういう話は聞いていましたが、範囲はきいていません。
検察: 鑑定書には、局所的と書かれています。クーパー使用は局所的に、と。そういう前提ですか
証人: そう聞いています。

一般的な質問が続き、そして、イリュージョンの再来である。
被告医師、その医局の教授と、証人は関係があるのだから、不利になることは書かないだろう、という、印象を持たせるような質問。

検察は、何と、証人が東北の代表として、警察側の鑑定を引き受けなかったことに責任を感じないのか、(これはちょっとびっくりしました。おまえがうけなかったから、格下の田中に頼んだんじゃないか、ってことですか、と)忙しいから警察の鑑定を拒否したのに、翌年逮捕後に意見書を提出した、声明文も出した、と証人に因縁をつけているとしか思えない質問を始めた。以下の如くである。


検察: 今回の意見書についてですが、具体的にいつできたのですか
証人: 書いていなくて、覚えていません。
検察: いつころ頼まれたのですか
証人: 覚えていません

検察: 証人は被告人との面識はありますか
証人: 全くありません
検察: どのような見識の医師なのかは知っていましたか
証人: 福島県立医大の佐藤教授は先輩なので、そういう意味では知っています。加藤医師と話しをしたのは初めてです。
検察: 福島医大の佐藤教授は先輩ですか
証人: そうです
検察: つきあいはありますか
証人: あるとは思いますが、
検察: 加藤医師がどんな先生なのかはきいていなかったのですか
証人: 周産期医療を専門としており、10年くらいの経験年数の医師と聞いています。
検察: 佐藤教授とこの件で話したことはありますか
証人: 個人的にはありません。しかし佐藤教授は学会の監事で、理事会で毎月一回は会います。


検察: 証人は東北大学でお忙しい、周産期医療をされて、と伺って良いですか
証人: はい
検察: 平成17年春、加藤被告が逮捕される一年前ですが、富岡署の鑑定依頼を証人は拒否されましたね。何故ですか
証人: 裁判所の依頼は受けたことがありますが、警察の鑑定は初めてで、どういうものかわからなかったのと、多忙で時間がとれなかったのです。
検察: 警察は、鑑定の依頼を行うことができると、証人にそのときに説明したのですよね
証人: したかもしれませんが、覚えていませんが
検察: 理由は忙しいからですか
証人: 誰でも鑑定は喜んでやるものではないですよね。非常に多忙でしたし。私は刑事事件の鑑定は初めてで自信がなかったのがひとつめ、忙しいというのが二つめの理由です。
検察: 証人は、その際、鑑定の仕事だけしているわけではないので、引き受けないと、担当官にお話されたか、記憶にありますか
証人: 記憶にないが、そういうことを言ったかもしれません
検察: 警察が先生のところに鑑定依頼に行った時点では、まだこの事件は大きな話になっていませんでした。福島県でおこった事例で、福島県に医師がいなかったため、東北大教授の証人に依頼しに行ったわけですが、東北地方の代表として、鑑定する責任が証人にはあると感じなかったのでしょうか
証人: そう言われると、責任あるかもしれませんが、忙しかったので、引き受けられなかった。
検察: 証人が拒否されて、一年後、被告医師が逮捕されたころ、証人が意見書を書いて弁護士に提出したのは覚えていらっしゃいますか
証人: はい。しかし内容は覚えていません。
検察: 記憶喚起と同一性の確認のため、証人作成の意見書を示したい。
裁判長: 証拠に出ていますか
弁護: 証拠として提出するために開示した記憶はありません。
裁判長: それなら作成の経緯からきいてもらわないと、こちらにわかりませんので。では10分休憩いたします。(15:15)  


検察: 日付はないのですが、意見書で証人の署名押印があります。証拠請求はないですが、弁護側からいただいたものです。
弁護: それは裁判の証拠ではなく、捜査段階のときに弁護側が提出したものです

検察: 日付記載ございませんが、平成18年3月7日、受理のゴム印が確認できます。作成は3月7日より前ですか
証人: はい
検察: 意見書の経緯はご記憶ございますか
証人: これは加藤先生が逮捕されて、それに対して学会としても、不当逮捕であると、理事会などの話があり、意見書を書こうということだと記憶しています。
検事: ここには、肩書きとして学会理事と、周産期委員会の委員長ということが書かれていますね
証人: はい
検察: どういう意見か記憶ございますか
証人: 記憶はだいたいですが、要するに、業務上過失致死に問われ、医師が手錠をかけられ逮捕されたことに衝撃を受けました。それに対する意見書です。
検察: 「過失があるか疑わしい」と書いていますか
証人: はい
検察: 「術前の癒着胎盤の診断が難しい、MAPも十分量確保されていた、術中超音波検査も行うなど慎重であった。しかし思わぬ出血があったということで、加藤医師の逮捕は遺憾である」という内容ですね
証人: はい
検察: そのときには、医師記録をご覧になりましたか
証人: 学会で
検察: 一枚目に、カルテをみるのは不可能と書かれていますが、事故調査報告書と関係者の聞き取りによると。
証人: そうだと思います。
検察: 関係者とは
証人: 学会の理事会で問題になり、佐藤教授の話を聞いたということです
検察: これは直接ということではなく
証人: 直接、加藤先生からですか、聞いていません
検察: 鑑定前に、加藤医師から話しを聞いたことはありますか
証人: 私は直接はきいていません。
検察: 起訴前のものですが、起訴後には医会の宮城県と連名で、声明を出されましたね
証人: はい
検察: 内容は覚えていますか
証人: 覚えていないですが
検察: 平成18年4月5日では
証人: 日付は忘れましたが、連名で出しました。
検察: 団体長としてですが、文面は証人がかかわったのですか
証人: 部長会理事会医会の中で、どなたの起草か記憶にないが、私ではない
ですが、内容をみて、皆で出しました。
検察: 内容は見ましたか
証人: はい
検察: できるかぎりの努力を必死で行った、と書いていますね。証人もそう考えましたか
証人: 聞く範囲でそう思っています。
検察: 弁護人から依頼を受けて鑑定を引き受けて本日に至るのですね
証人: はい
検察: 以上です (検察側主尋問終了)

サスペンデッドになっていた
加藤医師に対する被告人質問の続きも行われたそうです。

弁護: 今日は再主質問です。先生が逮捕拘留された間、複数の弁護士が接見しましたよね。弁護人の医学的知識は十分でしたか
加藤: 十分とは言えませんでした。今は違いますが。
弁護: 弁護人に意見を伝えるとき、医学のイロハから説明しないといけませんでしたか
加藤: はい
弁護: 時間がかかった
加藤: はい
弁護: 弁護人は、本件のカルテを見ていましたか
加藤: 見ていませんでした
弁護: カルテ内容から一から説明でしたか
加藤: はい
弁護: それぞれの弁護人に同じ説明を繰り返さないといけなかったですか
加藤: 全部ではありませんが、重要なところは繰り返し、説明をしたつもりです。
弁護: 弁護人に十分に伝える時間はありましたか
加藤: 十分ではありませんでした
弁護: 先生が取調官に話した話をしましたか
加藤: 少しだけしました
弁護: 取り調べ書に説明してもわかってもらえなかったことについて、説明しましたか
加藤: いいえ、手術の内容とか話していたので時間が足りず、取り調べの時におかしいと思っても、いずれわかってもらえると思い、話していませんでした。こんなに重大なことになるとは思っていなかったので
弁護: 乙3号証の末に訂正がされていると指摘しましたが、取り調べの前に訂正を申し立てたことはありましたか
加藤: 用語の誤りに、訂正を求めたことはありました
弁護: 34通調書がありましたが、訂正を申し立てたのは乙3号証だけですか
加藤: そうです
弁護: 乙3号証以外に訂正してほしい箇所はありますか
加藤: あります
弁護: 他には
加藤: クーパーを使い始めたいきさつについて訂正していただきたかったです
弁護: 指を入れる本数が3,2,1と少なくなったところですね。実際そういう状況でしたか
加藤: いいえ
弁護: 指を手刀のように使う
加藤: はい
弁護: 指を患者さんの足側に向かってつっこんでいく形になるのですか。手刀のように、小指の側面、指先が刃先と考えるとなでるような形で胎盤と子宮の間にさしこむ、
加藤: さしこむという感じではないです。
弁護: 子宮と胎盤の接点を小指の側面と先でなでる、すべらせる
加藤: そうです。ただどうしても剥離するときに、後前置胎盤だったので、
右端、左端は指が全体的には入らなかったので、2本の指で手刀のようにはがしたことはありました
弁護: 指が3,2,1本と入りづらくなったというのは、先生がもともとそう供述して調書がとられたのですか
加藤: 違います
弁護: どういう経緯でしたか
加藤: 前に話しましたが、何度もクーパーを使った事に関して、剥がせなかったからだろうと言われ、何度も違うと答えたが、全然納得していただけなくて、「例えば、3本、2本、入らなくなって、1本もダメでクーパーをつかったとでも言え、と言うんですか」と言ったら、具体的で良いということでメモにとられてしまいました。検察官とも同じような話で、警察官と検察官とで話しもしていたので、もう取り消すこともできないのかと引き下がってしまいました。

弁護: 先生が自分からそう話したので、訂正しずらかったと伺っていいですか
加藤: はい

検察: 弁護人が面会にきて、本件の説明をしていきましたよね。何日も来た先生もいるでしょう。
加藤: 何回か
検察: その先生には事情の説明は済んでいるんじゃないの
加藤: ・・・
検察: 別に事件の話とか医学的な話ばかりしてたわけじゃないですよね
加藤: いえ、医学的な話をしていました
検察: あなたは逮捕初めてですよねー。刑事手続きとか、弁護士と相談したんじゃないんですか
加藤: 真実を話しなさいと言われましたが
検察: あったことはあったこと、事実を話してくださいと
加藤: はい
検察: 言いたくないことは、調書に判を押さなくても良いとか、そういう助言はなかったんですか
加藤: 1回くらいされました
検察: 毎回はなかったですか
加藤: なかったです
検察: 今の話、午前中の取り調べで、警察官にメモをとられたと。でもまだ調書とられてないですよね
加藤: はい
検察: 撤回するとは考えなかったのですか
加藤: 検察と警察はツーカーというか、話がいっていると思いこんでいたので、取り消すことを思いつかなかったです
検察: メモをとられたの、ショックだった
加藤: はい
検察: 今後どうしようかと
加藤: どうしようか、とは
検察: 今後どう取り調べを受けるか、心配はなかったかということです
加藤: 心配でした
検察: 記録によるとですね、10時51分から57分富岡署で取り調べがありましたが、メモは午前中の取り調べということですよね。記録によると、午後5時50分からいわき支部で検事の取り調べを受けています。刑事と検事の間に5時間もありますが、富岡署からいわき支部への移動に1時間あったとしても、他に何をしていたのですか。記憶はありますか
加藤: ありません
検察: 記録によると、M弁護士と接見していますが、5時間もあいていて、移動1時間かかって、接見した記憶はありますか
加藤: その日のことか覚えていません
検察: 弁護人に相談しましたか
加藤: していません
検察: 何故ですか
加藤: こういうものなのか、とあきらめがあった
検察: 弁護人を信用できなかったってことじゃないでしょ
加藤: そうではないです
検察: 不本意な調書ということだが、頭がぼーっとして何が真実かわからない、長時間の取り調べ、奥さんや患者さんが心配、訂正を申し入れると不機嫌になって、きいてくれない、こういうことで不本意だと言うのですね
加藤: はい
検察: 平成17年4月20日、富岡署で取り調べを受けましたね
加藤: はい
検察: 調書作成は覚えていますか
加藤: はい
検察: 手術前エコー検査について、どういう話か覚えていますか
加藤: 覚えていません
検察: 癒着胎盤について、考えたが、MRIを実施しなかった、後壁付着の癒着胎盤であった、癒着部位が子宮前壁にかかっていたので、U字型に切った。用手剥離中は剥離困難になった。介助のM医師もそうですね、と言いました、と話してたんじゃないですか
加藤: 書いてあるなら、話したのかもしれないが、記憶にないです。
検察: それは逮捕前の話ですよね。どうしてそういう調書ができあがったのですか
加藤: 手術後から、なぜ後壁に癒着胎盤があったんだとかなり不思議な感覚があり、病理結果や事故調査委員会や色々出ているときに、自分は責任をとらなくちゃならないという気持ちと、一時、悪い方に気持ちが傾いて、話す内容も真実でない部分もかなりあった
検察: 結果的には自分から話したのか
加藤: 自分からです。


弁護: 2点あります。1点は、客観的事実として聞きたいが、小指を横にすべらすとおっしゃいました。それは、3本、2本、1本という行為と矛盾しますね。どう言ったかでなく、客観的にどうだったか事実を知りたい。用手剥離は胎盤と子宮の間に手を入れて、下に向かって力を込めるのか、横に向かってスライドか、横か縦かどっちですか
加藤: 横です
弁護: 3,2,1と言ったとき、横のイメージか、縦のイメージか、どちらですか
加藤: ・・・
弁護: 何のたとえで、3,2,1でしたか
加藤: 警察の方が、癒着で剥がれなくなったので、クーパーを使ったのだろうと。
弁護: クーパーが細かったからだろう、と、指を差し込む感じで、3,2,1と差し込むイメージですね。それでそう言ったんですか
加藤: はい
弁護: でも実際は、差し込むのではない、すべらせるんですね
加藤: はい
弁護: 客観的事実と違いますね
加藤: はい

弁護: 富岡署での取り調べについてですが、、後壁付着があったのを知ったのは、病理組織所見からですか、手術中に気づいたのですか
加藤: 術後わかりました。手術の最初からわかっていませんでした
弁護: 警察署で過失あると言われましたか
加藤: 言われたと思います
弁護: 過失を認めたら、と誰かに言われたのですか
加藤: 認めるという具体的なことではなかったですが、ご家族、ご遺族の補償のために、受け入れてくれという話はありました
弁護: 誰からですか
加藤: 当時の大野病院の事務長からです
弁護: 認めてくれと言われたんですね
加藤: はい
弁護: 先生は県から処分を受けましたね
加藤: はい
弁護: 日付は
加藤: 覚えていません
弁護: 報告書が出た直後ではなかったですか
加藤: 後だったと思います
弁護: 取り調べの前ではなかったですか
加藤: 覚えてないです
弁護: 責任も取れと、周りから言われ、患者さんを失った自責の念で一杯だったんではないですか。終わります。
弁護: 検察官が引用された富岡署の調書は何月何日のものですか
検察: 4月20日、今証拠請求中のものです
裁判長: 逮捕の前でしょ。 では終わります。では事実間整理を30分から始めます。次は11月30日、午前10時ですね。
(閉廷16:20)

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