後期研修班会議4
「心臓外科と我々脳外科とは違う。脳は1つの臓器と思われているが、小児奇形から脳腫瘍から外傷から全部やっている。それと日本の脳外科の成績がいいのは、みんなで診ているから。オペレーターが若くても必ずトップランナーが一緒についている。米国では1人1人がコンペティターなのでそういうことはない。心臓外科が心臓の手術しかしないんであれば数が多いという議論は分かるが脳外科ではチームによってやっていくんで、その辺は科によって事情が違うんじゃないか。その辺も加味して考えてほしい」
外山
「日本の脳外科が幅広いのは承知しており米国と一緒にやれというつもりはない。卒後研修と専門医との問題の共通項を見直さないといかん。手術症例をたくさん経験している医師をつくれば、さらにもっと良くなるんでないか」
嘉山
「私は2000例と有数の症例数を経験しているが、10年目までは1例もやらしてもらえず、そこから一気に増えた。そこに来るまでに淘汰されるのだが、みんなで診ている中でセレクトは曖昧にされる。でないと術後管理をやってくれる人がいなくなっちゃう。この日本の風土は患者にとってはよいことだと思う」
土屋
「淘汰された残りの方はどこへ行ったのか」
嘉山
「易しい手術をやっている。神経リハビリに回った方もるし、神経麻酔科医になっている人もいる。手術にしても外傷とか急性期とか色々あるから。とんでもない難しいのはセレクトされた人間だけがやっている」
海野
「脳外科にしても心臓外科にしても、米国に比べても人数割が多いのは私から見れば一緒。小川先生が指摘された地方の問題に関して、ひとつのアイデアとして家庭医・総合診療医というのが助けになるんじゃないかということと、もう一つ地域の基幹病院に対する大学病院の派遣機能が削がれている現状をどうするのかという二つの考えることがあると思う。地域にそういう病院が絶対に必要であること、それは動かない。そこで小川先生に伺いたいのは、産科とか小児科とかが少ない診療科間の偏在については、どのような解決策があるとお考えだろうか」
小川
「これは難しい。特効策は基本的にない。一つはインセンティブ。インカムもあるだろうが、しかし今はインカムだけでは全然ダメ。正常な生活を営めることが大きなファクター。田舎の公的な病院で小児科を標榜しているようなところで医師3人だとすると、3人いれば多い方だけれど、外来が終わって当直に入って1時に1人、3時に1人、5時に1人患者がやって来て、8時になったら250人待っている、それが終わってもまた同じこと、こんなのが3日に1度回ってくる。1人でも辞めたら3人とも辞めざるを得ないのは目に見えている。今開業する人たちの多くがお金が儲かるからじゃない。このまま働かされたら死んじゃうから、家族を顧みない生活が限界だから。昔は自宅と診療所が同じ開業医がほとんどだったけれど、今は必ず離して夜間の責任は負わないようにしている。病院からあと1人でもいなくなったら病院の機能が絶えるというギリギリの状況なんだ。地域のお医者さんは宝なんだと住民と一緒になって医師を守ってくれないと、もはや我々だけではどうにもならない。その意味では大阪だかどこかのお母さんたちが小児科を守ろうと活動してくれたという話は元気づけられた」
嘉山
「科の偏在については根が深い。アメリカでも一番難しい手間のかかる医療はインドやイランから来た人がやっている。アメリカで一番人気があるのは耳鼻科。医療界だけの問題じゃなくて、困難な科に行くことをリスペクトする社会じゃないと、そういう科にはいかない。産婦人科だって、今急に減ったわけじゃなくて少子化で需要が少なくなるという話が報じられるようになった途端に減り始めた。社会全体で取り組まないと直らない。マスメディアの皆さんもその辺考えて筆をふるわないと将来業務上過失で捕まっちゃうよ」
渡邊
「高齢社会では全人的医療のできる医者が求められていると思う。それなのに日本は専門分化が進んで逆行している。小川先生の地域の理想の医師像というのは、我々が考えていた家庭医そのものであり、家庭医は素晴らしいという話をしてくれるのかと思ったら、その増員には反対だと言うので大混乱している。家庭医の定義をどのように考えているのか」
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