薬価維持特例の試行的実施に向けて (3)
■ 「新たな医療費財源が発生する」 ─ 中川委員
[中川俊男委員(日本医師会常任理事)]
今までのお話を聴いて思った。薬品メーカーであろうが医療機関であろうが、再生産、再投資のための費用が必要であるということは十分理解できる。
しかしその一方で、医療機関は再生産のための財源の確保に困難を極めている。この薬価維持特例を導入することで、新たな医療費財源が、国庫も含めて保険料も含めて発生するということは間違いない。
そこで、国内メーカーが(薬剤の供給を)必ず行わなければいけないということを認めた上で、そういう前提で話を聴いても、どうしても、この薬価維持特例を導入しないと国内メーカーが生き残れない、新薬開発能力が低下するという説得力のある説明がまだ得られていないと思う。
長谷川社長さんは先ほどおっしゃったが、武田薬品工業はもちろん薬価維持特例を導入しなくても堂々とやっていけるんだろうと私は見ている。その1つの理由は、資料(薬価維持特例を導入する必要性)の1ページに8社の経営状況が示されているが、例えば恐縮だが、2008年の武田薬品工業の(売上高)1兆5383億円のうち、54.3%が海外医療用医薬品の売上ですよね。
いわゆる、グローバル、連結の決算、連結の業績で日本国内の薬価維持特例の導入を求めるという説得力は甚だ無理だろう。やっぱり連結前のデータを何らかのもって説得していただきたいと思うが、それはまだちょっと無理なお願いだと思う。
やはり現状の、全国の地域医療が医療費抑制のために崩壊している今の状況の中で、やはり薬価維持特例を導入というのは極めて困難だろうと私は率直に思う。ぜひ、その辺のところをもう一度、ご検討いただきたい。
[遠藤久夫部会長(学習院大経済学部教授、中医協会長)]
これは、「中川委員のご意見」ということになるので、なかなか、お2人にお答えいただくのは難しいと思う。もし......。ありますか、では、関口......。
[関口康・ヤンセンファーマ会長(PhRMA在日執行委員長)]
はい。答えではないが、「日本企業の経営」ということが1つの要素ではあっても、私どもが(考える薬価維持特例の必要性として)一番大きいのは、先ほどお話に出たようにドラッグラグ。そして、新薬が日本の患者さんにタイムリーに提供できること。
私ども外資の立場で申し上げると、本社に対してそういうことを説得して、「日本の患者さんのために、この新薬をタイムリーに開発させてほしい」と。それを実現する意味が非常に大きいという視点がある。
それからもう1つは、先ほどの「日本に外資だけでいいかどうか」ということに関しては、やはり私もこういう立場でどういう発言をしたらいいか分からないが......(笑い)。日本の科学技術がやはり世界に対して......。
日本の科学者、薬学者がつくった薬が世界の患者さんのために、今、多くの恩恵をもたらしている薬が数多くあるが、それがなくなるというのは残念だという思いがある。
(薬の有効性などに)民族差はほとんどないと言われているが、そういう中でも、日本人という民族に対して、やはり少し工夫したものがあるというのが望ましい場合もある。そういう意味から言っても、患者さんのことを考えたとき、「日本の企業がなくていい」というのは大変残念なことではないだろうかと思う。
[遠藤部会長(中医協会長)]
はい、ありがとうございました。長谷川社長、よろしいでしょうか?
[長谷川社長(製薬協副会長)]
はい、特にございません。
[遠藤部会長(中医協会長)]
北村委員、どうぞ。
[北村光一委員(経団連社会保障委員会医療改革部会長代理)]
先日、NHKでジェネリックの放送をしていて、視覚、味覚、触覚で、非常にきめ細やかなことを、患者さんのことを思ってしている(番組を)観させていただいた。
私も製造業にタッチした関係で、世界の製造業の中で、日本メーカーというのは、患者さん、お客さんの立場で非常にきめ細やかな製品がつくれる、非常に希有な薬だろうと思う。まさに、そういう事例だろうと思う。
そういう意味で、厳しい国際競争をこれからますます闘われるのだろうが、日本の国民自体が過剰品質を求めすぎるところがあるが、やはり日本の国民のために、患者さんが望む薬品を提供していただいて、医療の先生方と連携して日本の医療の充実を図っていただきたい。
これは私の個人的な......、間違っているかもしれないが、薬価維持特例というのは......恐らく、今、関税というのはほとんど撤廃される世界情勢の中で、医療業界の中に日本で残っている関税的な性格を持っている部分で、私たち製造業の者から見ると、逆に不思議で......。
ですから、これ(薬価維持特例)は、「世界ルールの共通化の入口」と私は理解している。勝手な、個人的な見解で失礼しました。
[遠藤部会長(中医協会長)]
ありがとうございます。ほかに、ございますか。 (挙手なし)
本日、非常に率直な意見交換ができたと思っている。また、未承認薬の問題についても、強いご意思をお求めいただいた。
一方、中川委員からお話があったように、「費用が拡大することをどう考えるか」という問題もあるので、今後、本日議論されたようなことをベースにしながら......。
前回、事務局(保険局医療課)から検討資料(論点案)が出ているので、そういったことを総合的に考えながら......。
当然、そうなってくると、当初予定していた財政シミュレーションとはまた違ったものが出てくる可能性があるので、そういったものを出しながら、総合的にまた議論を重ねていきたいと思う。そのような形で進めさせていただくということでよろしいだろうか?
(反対意見なし)
はい、ではそのようにさせていただきたいと思う。専門委員には、その過程でさまざまな資料の提出を求めることがあるかもしれないが、よろしくお願いいたします。それでは、本日の薬価専門部会はこれで。お2人のご参加について、どうもありがとうございました。
[長谷川社長(製薬協副会長)]
(長谷川社長、関口会長ともに起立して)本日は、このような機会を与えていただき、どうもありがとうございました。
[関口会長(PhRMA在日執行委員長)]
ありがとうございました。
[遠藤部会長(中医協会長)]
ありがとうございました。それでは、次回について、事務局(保険局医療課)から何かございますか?
[保険局医療課・磯部総一郎薬剤管理官]
次回の開催については、日程調整ができ次第、追って連絡させていただきたいと思う。
[遠藤部会長(中医協会長)]
どうもありがとうございました。 (散会)
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【目次】
P2 → 「海外で稼いだ利益を日本に納税している」 ─ 長谷川氏(日薬連)
P3 → 「日本市場の魅力が非常に落ちてきている」 ─ 関口氏(製薬協)
P4 → 「外資系だけでは薬剤の供給体制に支障をきたすか」 ─ 中川委員(日医)
P5 → 「外資と内資が一体となって投資・生産する時代」 ─ 北村委員(経団連)
P6 → 「医薬品の研究開発は税制などで支援されている」 ─ 小林委員(全国健康保険協会)
P7 → 「試してみる必要性はあるのではないか」 ─ 山本委員(日薬)
P8 → 「効率化のメカニズムが働かないところに大きな懸念」 ─ 藤原委員(日医)
P9 → 「維持特例ということも検討していいのではないか」 ─ 小島委員(連合)
P10 → 「新たな医療費財源が発生する」 ─ 中川委員(日医)