薬価維持特例の試行的実施に向けて (3)
■ 「日本市場の魅力が非常に落ちてきている」 ─ 関口会長
[関口康・ヤンセン ファーマ会長(PhRMA在日執行委員長)]
米国研究製薬工業協会の委員長をしている関口でございます。本日は、アメリカの製薬企業だけではなく、ヨーロッパの企業グループも代理して、外資の立場から一言だけご説明したいと思う。
前回6月3日の薬価専門部会の際にファルマから提示させていただいた資料をお配りしているので、そちらをちょっと見ていただきたい。4ページ(最近の新薬の開発状況)、棒グラフが3つあるページでございます。
ここで示したのは、一番左の棒グラフは、1つの新薬物質の承認取得に必要な候補物質数がどうなっているか。右肩上がりにずっと増えているということは、1つの新薬を見付けるために必要な候補物質数はどんどん増えているということ。開発リスクがどんどん高くなっている、難しくなっていることを示している。
中程にあるグラフは時間(新規化合物の開発期間)。これも単純に右肩上がりで、新薬を開発する時間がどんどん延びている。そして、 右端のグラフはコスト。2006年で約13億ドル、1300億円。さらに、このコストは近年もっと高まっている状況。
新薬開発におけるリスク、開発期間、コストが急増していることが見て取れると思う。また、われわれが新薬の投資資金を回収するための特許保護期間が短くなっていることもあり、さらに条件が厳しくなっている。
こうした中で、われわれ外資系の製薬企業もこのような「研究開発がとても大変だ」ということのほかに、さまざまな世界的な事業環境の変化というものに直面している。
例えば、このたびの経済危機もあるし、北米市場での新しいオバマ政権の医療政策なども今後どうなるかということが懸念されている。それから、大型製品の特許切れということが多数あって、最近の調査結果でも北米市場も今年はたぶんマイナスだろうと。これから5年にわたって、北米市場が1%から3%ぐらいの成長になってしまうだろう。
そういった状況の中で、厳しい経営環境の中で、外資系企業もどこに投資をするべきかということに一番頭を痛めている。
では、どこに投資すべきかということになると、優先順位は、一番リターンが期待できてコストが比較的少なくて、そしてリスクがある程度計算できること。コスト、リターン、リスクという3点を考えて、企業は投資の優先順位を決めていく。
そういう中で、私ども外資系の製薬企業にとって、日本の事業、日本のビジネスを預かっている者としては、近年、本社の考え方の中で、日本のプライオリティーが下がっているということを確実に感じている。その中で、やはり今回お話し申し上げているような薬価制度というものがより開発投資に見合うもの、コスト、リスクに見合うものになっていかないと投資の優先順位が下がってしまう。
これが、私ども外資系で仕事をしている者にとって最大の懸念であり、事実、アジアの新興国市場に投資が向かってしまっているということが現実に起きている。次の5ページ(経営改善努力)を見ていただきたい。
外資系の製薬会社も、研究開発領域を絞り込むということで、少ない資金でより大きな効果を上げるために、こういった取り組みをしている。それから人員削減ということで、グローバル全体で1000人以上の人員削減をしている。ほとんどの外資系企業が行っている。
特に、そういう中で日本の研究開発拠点あるいは生産拠点の統廃合も現実に行われており、(資料の)下にあるような(ファイザー、アストラゼネカなどの)会社さん。特に、昨日は萬有(製薬)さんの研究所を売却するということが新聞に載った。
調べてみると、中外(製薬)さんを除いて、すべての外資系の会社が、私どもも含めて研究所を閉めていくということになっている。ですあら、それぐらいに今の外資系の日本市場に対する見方が厳しいものになっているということをご理解いただけるのではなかろうかと考える。
もう1つ、ドラッグ・ラグということがある。これを解決しなければいけないのは非常に重要なことで、当局でも推し進めていただいている「世界同時開発」が、ドラッグ・ラグを解消するための一番良い方策だとわれわれも思う。
世界同時開発をするということは、その開発が成功するかどうかが、従来のように、ある意味でラグがあって、欧米で成功したものをやっていくことに比べると遙かにリスクが高くなる。ということは、日本に投資した場合のリスクが高まってくる。リスクに見合うだけのリターンが期待できないと、日本に対する投資という判断が非常にやはり、プライオリティーが下がっていって厳しいものになっていく。こういった状況もあるということをご理解いただきたいと思う。
それでは、実際に薬価と開発判断にどれだけの関係があるのかというご懸念もあろうかと思うので、6ページ(薬価制度が開発意思決定に与える影響)を見ていただきたい。
これはファルマで調査した結果。外資8社、内資4社、製薬企業全体の売上の40%を占める企業に聴き取り調査をした結果。(日米欧の)主要12社が過去10年間で、開発をしたけれども薬価に対する懸念から開発を途中でストップした、あるいは上市を見送ったという製品数が23あったということ。
23の内訳がそこに書いてある。欧米の平均薬価を100とした場合の相対的な数字が出ているが、日本の薬価が極めて低いということがご理解いただけると思う。そしてこの話は現実には、「もともと薬価が低いから開発をやめようよ」という製品は入っていないので、多くの製品が薬価との関連において開発を見送り、あるいは開発したけれども途中でストップということになったということが可能性としてあると示唆されているのではないかと考えている。
そういったことで、われわれから見ると、日本市場の魅力が非常に落ちてきていると感じている。本社の投資判断において、日本における投資のプライオリティーを下げている。そうすると、日本における開発が先送りされてしまうということになると、まさにわれわれがドラッグ・ラグを払拭して、日本の患者さんに1日も早く、最も画期的な有効性の高い新薬をお届けしたいと思っているが、それがなかなか難しくなってしまう。
また、日本における研究、治験、生産施設の空洞化ということにもつながって、これは日本にとって非常にまずいのではなかろうか。こういったことを解決するため、今回、業界として提案している新しい薬価制度の導入をぜひともご理解いただきたいと考えている。ありがとうございました。
[遠藤久夫部会長(学習院大経済学部教授、中医協会長)]
ありがとうございました。ただ今、2人から薬価維持特例が必要である理由についてお話しいただいたが、何かご質問、ご意見、ございますか。中川委員、どうぞ。
【目次】
P2 → 「海外で稼いだ利益を日本に納税している」 ─ 長谷川氏(日薬連)
P3 → 「日本市場の魅力が非常に落ちてきている」 ─ 関口氏(製薬協)
P4 → 「外資系だけでは薬剤の供給体制に支障をきたすか」 ─ 中川委員(日医)
P5 → 「外資と内資が一体となって投資・生産する時代」 ─ 北村委員(経団連)
P6 → 「医薬品の研究開発は税制などで支援されている」 ─ 小林委員(全国健康保険協会)
P7 → 「試してみる必要性はあるのではないか」 ─ 山本委員(日薬)
P8 → 「効率化のメカニズムが働かないところに大きな懸念」 ─ 藤原委員(日医)
P9 → 「維持特例ということも検討していいのではないか」 ─ 小島委員(連合)
P10 → 「新たな医療費財源が発生する」 ─ 中川委員(日医)