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ニュース〜医療の今がわかる

勤務医の負担軽減と患者の受診抑制

■ 「我々も若いころは鍛えられた」 ─ 経団連
 

[嘉山孝正委員(国立がん研究センター理事長)]
 (前略)若い連中が常に私に言うことはですね、「やんなっちゃう」ということの1つは当直です。当直で、次の日もまた働かなきゃいけない。これ、現実ですから。

 ですから、今回事務局(保険局医療課)で、「輪番制でいいんじゃないか」と。輪番制にするとですね、アクセスが減りますよ、国民。そのことを覚悟でこれを提案しているのかね......。

 あったりまえですよ。半分しか医師がいなくなる。昼間いないんですから、アクセスをどうしても制限しなきゃいけなくなる。今のフリーアクセス制の医療制度の中でこれを提案された場合、そこまで覚悟されているのかというのが1つですね。

 あともう1つ、「やんなっちゃう」というのはですね、非常に重症な患者を診ていて、我々が医学的に判断して軽症の患者さん。でも、自分にとっては重症だと思っているんですね。

 やっぱり......、「俺たちを先に診ろ」とかですね、要するに医学的に理不尽なことを言われたときにやんなっちゃう。この2点なんですね。つまり、理不尽なことをやられたときに......。

 2番目のやつが一番大きいです。それで"立ち去り型"が一番多いんです。そこを管理者が......、病院長ですよね、病院長がちゃんと守ってやるということをしないと、本当に病院は崩壊していくんですね。

 ですから、(隣席の鈴木委員を見ながら)こういう人は辞めないんですよ。「大変だ、大変だ」と言いながら、鈴木先生、医師を辞めないのはやっぱりやりがいがあるからだと思うんですが......。(委員ら、笑い)

 やっぱり都会ですと、それが割に合わないとなると去っちゃうと、こういうことだと思います。お金だけではない。やっぱり精神的な問題が一番大きいと思う。これはカルチャーだと思うんですね。

 ▼ 都会の病院勤務医のほうが負担は大きいという意味だろうか。

 日本人がやっぱり対立型ではなくて、誰が悪いではなくて、やっぱり国民と医療側が医療を育てていかない限り、この崩壊、立ち去り話をなかなかなくならないんじゃないかと思う。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 北村委員、どうぞ。

[北村光一委員(経団連社会保障委員会医療改革部会長代理)]
 あの......。よく分かりました。我々も若いころは随分、鍛えられたり、長時間勤務とか、上司からアレされましたけれども......。そういう意味ではやはり医療業界も同じでしょうから......。

 嘉山先生(国立がん研究センター理事長)とか、安達先生(京都府医師会副会長)とか、鈴木先生(日本医師会常任理事)とか......、皆様、先生方のお立場だと、責任のあるお立場だと、部下の面倒というのは大変でしょうけど......。

 (語気を強めて)ぜひですね、ご指導いただいて、素晴らしい先生に育つようにですね、よろしくお願いしたいと思います。

[嘉山孝正委員(国立がん研究センター理事長)]
 (ムッとした表情で)国民も一緒に......、国民も一緒にやってください。(以下略)

 ▼ 予想通り厚生労働省の責任はそっちのけで、「医療者VS患者」という対立構造のまま展開してしまった。国の不作為を指摘する声はなかった。この日、厚労省が示したカラーの図では、「病院医療従事者の負担軽減のための考え方」として病院内の取組が挙げられており、既に「誘導」が入っている。中医協委員はみな、厚労省が用意したレールの上を走っている。
 なお、嘉山委員はかつて厚労省の検討会で次のように述べたことがある。強く心に残っているので、ここで紹介したい(2008年11月10日の第16回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」議事録より抜粋)。
 「私自身は神奈川県の生まれですが、子供のころに京浜工業地帯の、京浜急行あるいは横須賀線、東海道線に乗っていて、モクモクとした煙を見なから『これで日本はいいのだろうか』と思っていました。たぶん大人は、国家はちゃんとやってくれているのではないかと思いました。
 ところが、そのあと川崎喘息が起きて光化学スモッグが起きて、日本は大変な代償を払うことになりました。熊本の公害もそうです。厚生労働省の中には、あのときは本当にきちんとした人もいたのですが、思惑で動いた人もいた。そのために、チッソの廃液の公害は認定せずに、5年間患者が増えてしまった。
 その間は、患者も住民も非常にアンハッピーだったし、企業も結局5年間の大きなつけを払わなければならなかった。今度の法案も現場の声をきちんと入れて、もしこの法案ができた場合には、ある理念からやれば、一部は正しいです。けれども、その裏には、この法案が通ったときには社会が思わぬ方向に動いてしまうよという社会学のことも考慮しなければ、きちんとした法案はできません。(中略) 
 厚生労働省がいままでやってきた政策立案は、薬害も未だに止められていません。これもシステムの問題だと思っています。年金も全然駄目になってきた。これもシステムの問題だと思います。現場からの声を一切聞いてこなかったからだと思います。
 この前ドイツ人の私の友達から、『日本は、日本人は本当に大丈夫かね』と。この前のお米の問題からいえば、少し離れるかもしれませんが、でも政策立案の問題ですから一言言わせてもらうと、江戸時代でいえば浪花のいちばんの米問屋が、役人と手を組んで毒を売った。日本は、そんな国ではなかったはずです。
 ある理念だけで物事を考えてはいけないというのもどういうことかというと、農業政策も勉強させてもらいましたが、ある理念だけで日本は農業政策を作ってしまったのです。ある理念からは、常に表から見れば正しい。裏から見れば、全く別のものが見えてくる。ですから前田座長にお願いは、ある法案を作るときにはそれによって社会がどう動くかまで含めて考えなければ、国民は右往左往するだけです。そこを最後にお願いして、私のヒアリングのお話とします。どうもありがとうございました」

 
  
 (この記事へのコメントはこちら
 
 
 
【目次】
 P2 → 「事務局、それでよろしいでしょうか?」 ─ 牛丸部会長
 P3 → 「中医協としてすべて承認する」 ─ 遠藤会長
 P4 → 「私に預からせていただければ」 ─ 遠藤会長
 P5 → 「最も負担が重いと感じる業務は当直」 ─ 厚労省
 P6 → 「シフト等の勤務体制で軽減できるか検討」 ─ 厚労省
 P7 → 「たくさん医師がいないとできない」 ─ 日医
 P8 → 「こんな病院、日本にあるわけないじゃないか」 ─ 嘉山委員
 P9 → 「我々も若いころは鍛えられた」 ─ 経団連

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