医師不足に関する見解
■ 災害と医療 ─ 福島県
【東京大学医科学研究所・上昌広特任教授】
福島県は、暖色系は1カ所もありません。人口203万、約120キロ四方です。
私は、今回の震災以降、ご縁があって相馬市に入っております。相馬市は、ここに原発があって道路が通らないため、こうやって行きます。
福島県福島市と福島西インターから南相馬まで行くのは約2時間かかります。相馬市に行くのは、1時間半強かかります。この浜通り地区は、阿武隈山地によって、ほぼ交通は遮断されています。
昨日、山口県出身の大学院生と一緒に行きました。「これはあり得ないですね」と。山口でしたら、高速道路と片側2車線の高規格道路と一般国道の3本が走っています。こちらは、中央分離帯がないような国道が一本でつながっている場所があります。
こちらの部分で震災後どうなったか。原発30キロ圏外の病院、今20キロ圏外になってきましたが、そこにある大きな入院ができる病院は、今、鹿島厚生病院、南相馬市立病院です。南相馬市立病院は約250床です。医師は、現在4名しかいません。院長1人、副院長2人、常勤1人です。
福島県立医大の非常勤の先生方は、いろんな理由があって、全員お帰りになりました。常勤医も辞めて行かれました。彼らが、次、余震が来たとき、災害が来たときに現場を守ります。現場から逃げなかった方、地元の開業医の先生方です。開業医は逃げられません。地域に根差しています。それから、病院の幹部以上の方々が逃げませんでした。
よく新聞では、この震災を契機に医療を集約すべきかと言います。それは机上の空論です。
なぜかといいますと、がんとかお産は、もう既に集約化しています。常勤の麻酔医は、浜通りに今いません。お産の常勤医も、今いません。相馬に1人来るという話はあるのですが、いません。
どういうものが集約化できないか。脳卒中です。脳卒中は、発症してから、夜はヘリコプターも飛びません。片道2時間もかけて運んでいって、また帰ってくる。これでは、さすがに無理です。
震災から1カ月の間に、この浜通り地区には、少なくとも40名の脳卒中患者が出て、適切な治療を受けられていません。この地域が、今後、災害をまた受ける可能性があります。集約化できるものは、現地は既に集約化しています。集約化できないものがあるのです。
この浜通りだけで人口が、いわきを外して20万を超えるのです。こういう地域に人口当たりの医師数が、被災後に0.5以下になっています。この現状を何とかしないといけないと思っております。
【目次】
P2 → 医学部定員削減の見直し
P3 → 2008年改革の要点
P4 → 東西格差という問題
P5 → 医学部の偏在
P6 → 地域内格差 ─ 愛知県
P7 → 地域内格差 ─ 徳島県
P8 → 地域内格差 ─ 茨城県
P9 → 地域内格差 ─ 千葉県
P10 → 地域内格差 ─ 東京都
P11 → 偏在に関する総括
P12 → 災害と医療 ─ 岩手県
P13 → 災害と医療 ─ 宮城県
P14 → 災害と医療 ─ 福島県
P15 → 連携・集約できない ─ 北海道
P16 → 未曾有の高齢化を迎える日本
P17 → 結語
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