医療システムと必要医師数
■ 疾病コントロールによる効果
【千葉大学医学部附属病院長】
次に、疾病コントロールの効果はどうであるか。
これは千葉県での活動を具体的な例としてお示ししたいと思いますが、ご承知のように2008年に銚子市立病院が休止になりました。
これは地域医療の一つの崩壊のシンボルのように話されまして、千葉大学から医師が出ていた病院ではなかったのですが、そんなことを言ってられませんで、千葉大学が直ちに一部対応致しました。
銚子市立病院にはいろんな科がありますが、内科とか外科は、近辺にそういった科を持った病院がありましたので、そちらの方に患者さんが移っていきました。
ところが、あの地区は精神科が全くないんですね。ですから、12万人の医療圏から精神医療が全く消失してまった。そこで、千葉大学の精神科がすぐ対応をいたしまして、パート等で参加をいたしました。
その中でどのように医療需要を軽減していくのかという試みも考えました。統合失調症の方が約500名いらっしゃったのですが、統合失調症というのは再発率が非常に高いということと、薬物療法が比較的効いて、コントロールができる。ですから、早目に統合失調症の患者さんをよくケアして薬物療法を的確にやっていけば入院をしないで済むというようなことがございますので、統合失調症を対象にいたしました。
具体的にどうしたか。
ケースワーカーが週に1回、患者の方に電話をいたします。10項目の質問項目がございまして、これはヨーロッパで使われている統合失調症の再発率をスクリーニングする質問項目がございます。ITAREPSと言われるものですが、その10項目の質問を患者の方にしまして回答をケースワーカーの方がコンピュータに入れる。
そうすると、コンピュータのプログラムに従いまして、再発徴候の有無が出てまいります。再発徴候が出たらば、すぐに訪問看護を緊急でかける。そして、患者さんに会って、薬の指導、あるいは入院ということを行う。アラートがなければ、訪問看護をかける必要はないわけですので訪問看護の面から考えると負担が少なくてすむと言えます。
こういう形で行いますと、コメディカルのアウトリーチが可能になりますし、患者の方にとっても非常によい教育になります。どういった状況になるとアラートが出るのかということより、患者の方が学習するということです。患者の方の生活もよくなりますし、医療業務の軽減から医療費の軽減ということにつながることが期待できます。
これがその効果でございますが、介入群をCIPERS群というふうに言っていますが、左が介入をした群、それから右側が通常診療群でございます。
人数は28と29でそれほど多くないんですが、2群において入院回数は変わりません。しかし、延べ入院日数並びに1回の入院日数というのは、介入群で6割から7割減です。非常に大きい。
これはヨーロッパでやられた結果ともほぼ一致しておりまして、ただ、ヨーロッパと千葉との違いは、千葉では訪問看護を導入したということです。ヨーロッパは訪問看護を一切してないですね。
6割方入院が減るということは、かなり医療者の負担の軽減になりますし、医療費から言うと、全国展開すれば、700億から1,000億の軽減につながるだろうと考えられます。
これはいわゆる他の生活習慣病、数値化できるような、例えば糖尿病ですとか高血圧というような疾患にも導入することはある程度可能ではないだろうか、このように疾病をコントロールすることによって、医療者の負担軽減になるのではないかと考えられます。
【目次】
P2 → 高齢化率
P3 → 高齢者数の増加
P4 → 医療圏による患者数推移の相違
P5 → わが国の医師数の動き
P6 → 医療問題は誰の責任か?
P7 → 医師数と医療システム
P8 → 病院での死亡者数の増加
P9 → 在宅医療推進の目的
P10 → 在宅死率30%の効果
P11 → 疾病コントロールによる効果
P12 → 循環型医療と医療情報の共有
P13 → チーム医療からIPW
P14 → 国立大学附属病院の役割と機能
P15 → 医療需要増加に対する対策