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福島県立大野病院事件第十一回公判

本日は弁護側の申請した証人の尋問が認められず被告人・加藤克彦医師に対する3回目の証人質問。
検察側に何か隠し玉でもあるのかと思ったが
相変わらずの
「あの時と言うことが違うじゃないか」攻撃だった。


今日が訴訟全体の中でどうのような重みを持つのか知らない。
裁判長の心証らしきものが垣間見えたような発言はあった。
ただ、判決が出るまで安心はできないし
訴訟を離れて思うこともあり、後味はよくなかった。

第9回公判の続きで、質問は弁護側から。
事前の診断で癒着胎盤の疑いを排除した経緯について
再確認したあと


弁護人 K先生(双葉厚生病院産婦人科)に応援依頼の電話をした時すぐに応じてもらえましたか。
加藤医師 いえ、すぐには。通常は快く返事をいただけるのですが、すぐに返事いただけず質問もされたので、来ていただけないのかなと不安になりました。
弁護人 どう思いましたか。
加藤医師 断わられると思ってなかったので驚きました。
弁護人 応援依頼だけは取り付けておかなければと思いませんでしたか。
加藤医師 思いました。
弁護人 どうしてですか。
加藤医師 患者さんやご家族やスタッフに応援を頼むと言っていたので。
弁護人 そこで前回の帝王切開の傷口に胎盤がかかっているかもしれないと言ったのですか。
加藤医師 はい、少し大げさに表現するしかないかなと思いました。


この後、手術中の操作についていくつか確認し
質問は手術後のことに移る。


弁護人 Aさんが亡くなって、どう思いましたか。
加藤医師 突然亡くなられたので、かなりショックで、呆然として頭が真っ白になりました。
弁護人 Aさんに対してどう思いましたか。
加藤医師 信頼して受診していただいていたのに悪い結果になってしまい、本当に申し訳ないと思いました。
弁護人 手術室で何をしましたか。
加藤医師 スタッフ全員でまず合掌しました。それからお腹を丁寧に閉じて、点滴ラインを抜いて、皮膚についていた血液を拭き取って、ガーゼ充填をしたり亡くなった後の処置をしました。
弁護人 手術室を出たのは何時ごろでしたか。
加藤医師 17時半ごろだったと思います。
弁護人 19時半、7時半ではありませんか。
加藤医師 あ、そうです。19時半です。
弁護人 Aさんを、どこに運びましたか。
加藤医師 通常は病室に戻すのですが、少し広い部屋へ行きました。
弁護人 一緒にどなたか行かれましたか。
加藤医師 はい、スタッフが4、5人か5、6人かついてきました。
弁護人 部屋にはどなたかいらっしゃいましたか。
加藤医師 後から数人ぐらい入って来られました。
弁護人 ご家族でしたか。
加藤医師 ご家族とご家族以外の人もいたと思います。
弁護人 先生にはどういう関係の人か分からなかったのですね。
加藤医師 はい。
弁護人 どのような様子でしたか。
加藤医師 最初は暗くて沈痛な雰囲気でした。そのうちにAさんの手を握られて泣かれていました。
弁護人 その部屋で何をしようと思っていましたか。
加藤医師 手術の経過を説明しようと思っていましたが、ご家族以外の人もいたので。私の前に色々な人がやってきて口々に罵声を浴びせるようなことだったので、その場で説明するのは難しいと思いました。
弁護人 それについてはどう思いましたか。
加藤医師 その時は堪えました。
弁護人 その方々についてはどう思いましたか。
加藤医師 言われる気持ちは当然だろうなと思いました。
弁護人 どれ位の時間その部屋にいましたか。
加藤医師 1時間前後くらいです。
弁護人 何か話をできましたか。
加藤医師 いえ、すみませんと何度も言いながら、ずっと頭を下げている状態でした。
弁護人 その後はどうしましたか。
加藤医師 遺族の方だけ別室にお連れして手術経過を説明しました。
弁護人 その部屋には、どなたがいらっしゃいましたか。
加藤医師 ご主人とご夫婦の御両親とH先生(麻酔医)、病棟の看護師長、助産師のリーダーです。
弁護人 その方たちにどのような説明をしましたか。
加藤医師 入院の経過と予定帝王切開手術をしたということ。
弁護人 それから。
加藤医師 順調に3000グラムの女の子が生まれました。その子は元気です。胎盤に関しては、胎盤は子宮後壁に存在していて、上から剥離していったら下の方で癒着していたという話をして、後は出血が多くなって血圧が低下して準備していた輸血や輸液を投与して、それでも足りなかったので輸血を発注して、輸血が到着して血圧が安定してから子宮摘出をして、摘出の時に膀胱が少し傷ついたので、それの修復をして、漏れがないか膀胱に液体を入れてみる検査をしようとしたら突然不整脈が出て心肺蘇生するようになったと説明しました。
弁護人 それで亡くなったと。
加藤医師 はい。
弁護人 ご家族の方からは何と言われましたか。
加藤医師 旦那さんの(?)お父さんから、手術中に説明がなかったことを指摘され、たしかに説明の余裕がなかったので申し訳ありませんでしたと謝罪しました。
弁護人 説明がなかったとは手術の最中の話ですか。
加藤医師 輸血を待っている間1時間半くらいあったのですが、その間、不安で誰も声をかけてくれなかった、と。
弁護人 結果的にご家族への説明はどれ位の時間していましたか。
加藤医師 H先生も話していたので1時間くらいです。
弁護人 書類を何か渡しましたか。
加藤医師 説明の時に筆記したカルテのコピーを渡しました。
弁護人 病理解剖を勧めましたか。
加藤医師 はい。
弁護人 なぜですか。
加藤医師 医師として亡くなった原因を知りたいというのと亡くなった方には全員勧めているというのが実情なので。
弁護人 病理解剖を行いましたか。
加藤医師 いいえ。ご家族が針一本刺してほしくないだったか、一切体に傷をつけてほしくないだったか、そういうことを言われました。
(略)
弁護人 その後はどうしましたか。
加藤医師 死亡診断書の記入をしました。
弁護人 何時ごろのことですか。
加藤医師 22時40分に死亡退院されて、その直前でしたから30分前後でないかと思います。
弁護人 死亡診断書の直接死因に何と書きましたか。
加藤医師 心室細動です。
弁護人 心室細動の原因は何と書きましたか。
加藤医師 出血性ショックです。
弁護人 その原因は何と書きましたか。
加藤医師 妊娠36週、癒着胎盤、帝王切開出産と書きました。
(略)
弁護人 H医師と原因を話しましたか。
加藤医師 はい。
弁護人 どういう話をしましたか。
加藤医師 原因は出血性ショックによる心筋虚血、それに伴う心停止かなと私から問いかけました。
弁護人 H医師は何と言っていましたか。
加藤医師 はい、そう思います、と言いました。
弁護人 出血原因は話をしましたか。
加藤医師 いや話していません。
弁護人 診断書はそれほど迷わずに記載できたのですね。
加藤医師 はい、そうです。
弁護人 診断や手術に問題があったと考えていましたか。
加藤医師 いえ考えていませんでした。
弁護人 それから大きな部屋にもう一度戻られましたね。
加藤医師 はい。
弁護人 なぜですか。
加藤医師 退院されると連絡があったからです。
弁護人 どうしましたか。
加藤医師 死亡診断書を旦那さんに渡しました。
弁護人 それからどうしましたか。
加藤医師 一緒に裏の玄関まで付き添ってお見送りしました。
弁護人 他には誰かいましたか。
加藤医師 はいスタッフが通常より多くいたと思います。
弁護人 通常の亡くなった方に比べてということですか。
加藤医師 はい、多くいました。
弁護人 その時の気持ちは。
加藤医師 非常に悲しかったです。ご家族に申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。


弁護人 次に医師法21条に対する認識を伺います。21条を知っていましたか。
加藤医師 はい、大学の授業で習いました。
弁護人 どのような理解でしたか。
加藤医師 事件や事故で亡くなった場合、医療過誤があった場合に警察へ24時間以内に届け出るということでした。
弁護人 当時、厚生労働省のリスクマネジメントマニュアル作成指針というものを知っていましたか。
加藤医師 知っていました。
弁護人 誰が警察へ届け出ると理解していましたか。
加藤医師 施設長が届けると認識していました。
弁護人 どういう場合に届けると認識していましたか。
加藤医師 医療過誤があって亡くなった場合です。
弁護人 過誤とはどういうものですか。
加藤医師 医療準則に反した行為があった時です。
(略)
弁護人 Aさんを見送った後はどうしましたか。
加藤医師 院内PHSにH事務長から電話がありまして院長室隣の応接室まで来てほしいと言われました。
弁護人 応接室には誰が集まりましたか。
加藤医師 院長と事務長とH先生と私です。
弁護人 最初に口を開いたのは誰ですか。
加藤医師 院長です。
弁護人 何と。
加藤医師 どういう経過だったの、と聞かれました。
弁護人 何と答えましたか。
加藤医師 術前の経過から話しました。
弁護人 胎盤の用手剥離にいたるまでの過程は何と話しましたか。
加藤医師 胎盤が後壁にあったことと臍帯を牽引して剥離しようとしたのだけれど抵抗が強くて剥離しなかったので用手剥離をして途中からクーパーを使用したと説明しました。
弁護人 院長から剥離を継続したことについて何か指摘はありましたか。
加藤医師 いや特に聞かれませんでした。
弁護人 クーパーを使用したことについてはどうでしたか。
加藤医師 いえ特に聞かれませんでした。
(中略)
弁護人 院長から過誤はあったのかと聞かれませんでしたか。
加藤医師 はい。
弁護人 何と答えましたか。
加藤医師 いえありませんと答えました。
弁護人 H先生も聞かれていましたか。
加藤医師 はい。
弁護人 何と答えていましたか。
加藤医師 いえありませんと答えていました。
弁護人 最終的に院長は何と言いましたか。
加藤医師 過誤はないから届け出はしなくていいという趣旨のことを言いました。
弁護人 届け出に関する話をしたのは、この時が最初ですか。
加藤医師 いえ最初は19時半だったか部屋を移動する時だったか定かでないのですが廊下で立ち話をしました。
弁護人 何と?
加藤医師 届け出をしますかと私が尋ねましたら、届け出はしなくて良い、それは君の仕事ではないよという口調でした。


(中略)


弁護人 お葬式には行きましたか。
加藤医師 いえ伺っていません。
弁護人 なぜですか。
加藤医師 病院と県の病院局との話し合いで、私は出席しない方がよいということになったので伺いませんでした。
(略)
弁護人 遺族へ謝罪には行かれましたか。
加藤医師 はい12月26日に伺ったと記憶しています。
弁護人 誰と行きましたか。
加藤医師 院長、事務長、H先生と私です。
弁護人 次に遺族と会ったのはいつですか。
加藤医師 事故調査委員会の結果が出た時、その説明をするからということで病院に来ていただいて説明しました。墓前にも報告して謝罪してくれというので行きました。お墓を教えるから土下座してきてくれと言われたので、してきました。
弁護人 どういう気持ちでしたか。
加藤医師 亡くならせてしまったという気持ちが強くて本当に謝罪したいと自然に土下座しました。
弁護人 その後もお墓参りに行っていますね。
加藤医師 はい、逮捕前までは、月命日の前後の休日に行かせていただいていました。逮捕後は年1回命日に行っています。
弁護人 まさに命日が過ぎたばかりですが今年も行きましたね。
加藤医師 はい。
(略)
弁護人 最後にAさんとご家族に対して、どう思っていますか。
加藤医師 私を信頼して受診してくださっていたのに、亡くなってしまう悪い結果になって本当に申し訳なく思っております。当時、突然亡くなられて私もかなりショックでした。亡くなられてから一日中、初めて受診した日からお見送りした日までの色々な場面が頭に浮かんで離れませんでした。ご家族の方に分かっていただきたいとは思っておりますが、なかなか受け入れていただくのは難しいのかなと考えております。こういう風にすれば良かったのかなとか、いい方法はなかったかなと思いますが、あの状況で他のそれ以上の良い方法が思い浮かばないでいます。亡くなってしまった現場に私がいて、その現場の責任者が私のわけで、亡くなってしまったという事実があるわけで、その事実に対して責任があると思われるのも当然だと思います。できる限りのことは一生懸命しました。亡くなってしまったという結果はもう変えようのない結果ですし、私も非常に重い事実として受け止めております。申し訳ありませんでした。最後になりましたが、Aさんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。


1時間ほどで弁護側質問が終わり、検察側の質問。
相変わらずS検事が口調は穏やかだが
何を聞きたいのか分からないような事でネチネチ食い下がる。
加藤医師は弁護側に答える時はゆっくりしっかり話していたのだが
検察側の質問には声が小さくなり言い淀む場面が増える。
もっと胸を張って堂々と話せば良いのにと思って、ふと気づいた。
まるで「いじめっこ」の前に出た「いじめられっこ」のようなのだ。
素人がこんなことを軽々しく言うべきではないのだが
加藤医師は検察によるPTSD状態ではないか。


たとえ無罪判決が出ても
リスクのある周産期医療の現場はもちろん
臨床現場に復帰できないかもしれない、そんな気がした。
警察を招き入れることになった県の調査報告書の罪
そういう報告書を出さざるを得なかった役所の論理の罪に
強い怒りを覚えた。


この点については本稿の最後に再度総括するとして
検察側質問もいくつかご紹介する。


検事 K先生が応援を渋るようだったので、胎盤が前回の帝王切開創にかかっているかもしれないと言ったと証言しましたね。
加藤医師 はい。大げさに言いました。
検事 簡単な何もない手術という認識だったのではないですか。
加藤医師 はい。通常の帝王切開という認識でした。
検事 なぜ大げさに言ったのですか。
加藤医師 Aさんや旦那さんやスタッフに話をしていたからです。
検事 何もない症例について、そう話したのはなぜですか。
加藤医師 S先生(福島県立医大の)が手伝いに来てくださった際に、すぐ近くにいるんだから応援を呼んだらとアドバイスしていただいたことと、以前前置胎盤の症例を手術した時に気持ち慌ただしかった記憶があったので声をかけておこうかと思いました。
検事 一人では対処に困ることを考えていたのではないのですか。
加藤医師 そこまではシビアに思っていません。ただ何が起こるか分かりませんから。
検事 何が起こるかとは、どういうことですか。
加藤医師 それはお産全体に関してであって、それに加えて前回の前置胎盤の際に慌ただしい記憶があったからです。
検事 簡単な何もない症例だという認識だったのではないですか。
加藤医師 そういう認識は持ちながらも、恐さも持ち合わせている、医師というのはそういうものだと思います。

(中略)


検事 胎盤を気持ち剥がしづらくなったのでクーパーを使用したと証言しましたね。
加藤医師 はい。
検事 子宮を傷つけないため。
加藤医師 はい。
検事 用手だと傷がつくのですか。
加藤医師 そうではありませんが、クーパーを使った方が合理的と思いました。
検事 用手剥離でも傷つけないのですか。
加藤医師 剥がしてみないと分かりません。
検事 合理的と思った理由は何ですか。
加藤医師 筋張った所をクーパーを使っても出血してくるわけでもありませんでしたので。
検事 剥離しづらくなった、と、筋張った、は同義ですか。
加藤医師 大きく含んでいるような状態です。
(略)
検事 最初にクーパーを使おうと思ったところは?筋張った場所を切るために最初に使ったのですか。
加藤医師 アトランダムに筋張ったところはありますから。。。
検事 クーパーを使おうと思った場所があるのではありませんか。覚えているのだったら、どういう状況だったか説明してください。
加藤医師 そんな、こう、これがあったからというわけでなく
検事 使いはじめた所の理由は何ですか。筋張ったところにぶつかったからではありませんか。
加藤医師 場所としては筋張ったところもあったと思うし。。。
検事 覚えてないなら覚えてないと言ってくださいね。
加藤医師 手の感覚で気持ち引っかかりがあったところなんですが。
(後略)


昼食休憩を挟んで、さらにネチネチが続く。


検事 クーパーを使用するよりは用手剥離の方が速いと証言しましたね。
加藤医師 それはまあ、そうだと思います。
検事 罪状認否の際にはクーパー使用の理由として速く剥離するためというのがありましたが、前回公判の証言では子宮筋層を傷つけないためであって速くするためではないと証言されていましたね。
加藤医師 速くプラス傷つけずを両立させるような感じで、速いに越したことはないので。
検事 気持ち的にはともかくクーパーに速める効果はないのではないですか。
加藤医師 急いで使ったつもりで比べるものはありませんが速かったのでないかと。
検事 前回の証言では速くという気持ちはないと証言されましたが、変わったということですか。
加藤医師 変わってません。胎盤を剥がした場所から出血は続くのでダラダラできません。
検事 じゃあなぜ前回は速くする気持ちはなかったと言ったの。
加藤医師 両立させるという意味だったのですが。
検事 なぜ両立させると言わなかったのですか。
加藤医師 そこまで言葉が出てきませんでした。
検事 なぜ言葉が出てこなかったのですか。
加藤医師 さあ、どうしてか、頭が悪いからとしか言いようがない。
検事 その程度の理由でいいんですか。
加藤医師 気持ち的には速くというのが基本にあるので、それを伝えることができなかったのは私のミスですね。
検事 前回の証言は罪状認否の時に述べたことと同じ意味だということですか。
加藤医師 同じという意味で僕は思っていました。
検事 クーパーを使うのは、メインの理由は速いことではない・・・

弁護人異義 前回質問でも全く同じことを聞いており重複です。
検察官 弁護人の質問に対する答えを問い質しているのです。
裁判長 検察官が意図しているような考えではないかもしれないけれど、答えは出ていると裁判所は判断します。もっとスピーディーに進行してください。


(中略)


検事 用手剥離とクーパーの併用が調書に記載がないのはなぜですか。
加藤医師 色々思い出していくうちに、後から、あ、そういえばと思い出しました。
検事 いつの時点で思い出したのですか。
加藤医師 釈放後に思い出したような気がします。
検事 勾留中の取調べでは取調官にその話をしなかったのですか。
加藤医師 記憶にありません。
検事 釈放後と言いませんでしたか。
加藤医師 そうだと思いますが、いつ話したかどうか定かでありません。
検事 弁護士さんには説明したわけですね。
加藤医師 話しました。
検事 いつごろ説明しましたか。
加藤医師 いつか、ちょっと覚えていません。
検事 罪状認否の際にもハッキリと言ってませんよね。
加藤医師 気持ち的には併用しているという気分だったのですが伝わっていなかったかもしれません。
検事 言葉として言ったのはいつですか。
加藤医師 どの時点で言ったのか、ちょっと覚えていません。
検事 なぜ併用とハッキリ言わなかったのですか。
加藤医師 。。。。


弁護人の異義に続いて
裁判長 要するに検察官は何がお聞きになりたいんですか。思った答えが出ないというだけではないんですか。質問を変えてください。
(後略)


検事 医師法21条を大学で習ったと証言しましたね。
加藤医師 はい。
検事 警察へ届け出るのは誰と習いましたか。
加藤医師 検案した医師と21条的には書いてあります。
検事 リスクマネジメントマニュアルの存在を知っていましたか。
加藤医師 存在は知っていました。
検事 内容は読んでいましたか。
加藤医師 読んでいません。
検事 医師法とマニュアルとの関係はどう判断していたのですか。
加藤医師 。。。
検事 医師法とは別物ということですか。
加藤医師 。。。
検事 午前中、医療過誤とは医療的準則に反するものだと証言されましたね。医療的準則とはどういうものですか。
加藤医師 医療をするにあたっての通常の手技、処置です。
検事 今回の件が医療的準則に違反するとは思わなかったのですか。
加藤医師 迷ったのは迷いましたが、剥がし始めたら終えるのが普通なので、違反するとは思いませんでした。
検事 何を迷ったのですか。
加藤医師 癒着胎盤に今まで当たったことがなかったので、クーパーを使うということに少し迷いがありましたが、少し考えたら、迷いは消えて、おかしなことはないなと思いました。
検事 クーパーを使って剥離することについて迷ったのですね。
加藤医師 そうですね。クーパーを使って胎盤を剥がしたのを見たことがなかったので、少し考えましたが、でも考えたらおかしな点はないと思いました。
検事 どの時点で迷いは解消されましたか。
加藤医師 当日には解消されました。
検事 当日、随分長いこと病院にいましたよね。どの時点ですか。
加藤医師 報告する前だと思います。
検事 なぜ解消したのですか。
加藤医師 普通に考えればいいかなと思いました。
検事 報告の際に、あなた自身が迷ったということを伝えましたか。
加藤医師 ちょっと覚えてないのですが、話してないような感じもあります。
検事 院長は聞いた覚えがないと証言しているのをご存じですね。
加藤医師 はい。
検事 言わなかった理由は何ですか。
加藤医師 迷いが払拭されたからでないかと思います。


(中略)


検事 手術経過をまとめた報告書をつくりましたね。
加藤医師 はい、まとめました。
(略)
検事 いつ、まとめましたか。
加藤医師 日付は覚えていないのですが、20日以降だと思います。
検事 何のために作成したのですか。
加藤医師 手術記録だけだと字が読みづらいので、分かりやすいまとめを作っておこうと思ったのです。
検事 どこかに報告・提出するために作ったのですか。
加藤医師 そういうわけではないと思いますが、機会があれば役に立つようにまとめておこうと。
検事 記憶が鮮明なうちに、ご自分の体験に基づいて忠実に書いたわけですね。
加藤医師 いやそれが誤った手術記録の内容や病理検査の結果も含まれています。
検事 手術記録が誤っていたとしても、時期をおいて訂正・修正したのではないのですか。
加藤医師 記憶がトビトビで、なるべく思い出そうとは思いましたが、今見るとおかしいなというところもあります。
(略)
検事 前回帝王切開創と胎盤の位置関係について、この報告書で考察していますね。
加藤医師 病理検査の結果を見て、前壁にも癒着があったと勘違いして書いてしまったのです。病理の検査は、前壁、後壁それぞれについて見てほしいと依頼したもので、その結果を信用して前壁にも癒着があったのだと思いました。
検事 あなたは、手術の際、前回の傷に胎盤がかかっていないことを確認したと証言しませんでしたか。
加藤医師 はい。
検事 なぜ、あなたが体験したことを書かなかったのですか。
加藤医師 病理検査の結果というのは臨床では分からないことが分かるものなので、それを信用して書いてしまいました。マッチアップしなかったのは良くなかったと思います。


(中略)


検事 供述調書があなたの主張と違うのは警察や検察の取調官が聞き入れてくれなかったからと証言しましたよね。
加藤医師 はい。
検事 では、なぜあなた自身がまとめた報告書と法廷で話した内容とが違うのですか。
加藤医師 病理検査の最初の結果は物足りないものでした。もっときちっと見てもらって評価すれば良かったかなと思いますが、病理の先生に電話することもなく、その結果を信用してしまいました。そうして記憶が変わってしまうというのがあり、情けないことなんですが、僕にとってはあやふやな話をしていました。
(略)
検事 いろいろな鑑定や供述を読んで、そのうえで法廷で話をしたことがあなたにとって事実だと言うわけですね。
加藤医師 はい、そうです。


久々に登場のロマンスグレーI検事に交代。


検事 クーパーを使用する理由として、速く剥離することと子宮筋層を気づ付けないことは矛盾するものではない、と証言しましたね。
加藤医師 はい矛盾するものではありません。
検事 通常、胎盤剥離に要する時間は1,2分ないし2,3分ということで被告人の認識もよろしいですか。
加藤医師 はい。
検事 胎盤剥離にかかった時間は麻酔記録上9分くらいですね。
加藤医師 何分かかったかは記憶にありませんが、引き算すればそうなりますね。
検事 10分前後の剥離が素早い剥離だったと言えるか。
加藤医師 麻酔記録を見て後から振り返れば何分と言えるけれど、剥離している間は長いとか短いとか考えませんでした。
検事 素早いとは1、2分や2、3分に近づけるという意味ではないのですか。
加藤医師 速ければ速いほどよいという意味なんですが。
(後略)


口調は激しく、流れるような名調子だが
因縁をつけていることに変わりはない。


いずれにせよ
ひとたび証言するか文書に残すかして
それが有罪立証のピースとして検察の目に留まってしまえば
「いや、あれは違うんだ」と、いくら理を尽くして説明しても
「自分が罪に問われたくないから嘘をついているのだろう」と
性悪説的解釈をされるということが
公判傍聴を続けてきて、よく分かった。


まさに、モノ言えば唇寒し。
反省点と改善点を文書に残すなんて、とんでもない。。。ことになる。


医療者に過誤があった場合でないと補償できない役所の論理と
この司法の現状とが同居すると一体何が起きるか?


反省しない医療者と謝罪しない医療機関が標準となることが
容易に想像できる。
患者の立場から見て、心底恐ろしいと思う。

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
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