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ニュース〜医療の今がわかる

【投稿】我が国の医師国家試験の問題点

 よく「国家試験の勉強は、現場では全く役に立たないよ」と先生や先輩方はおっしゃいます。しかし「研修医として働くのに役に立たない」と断言されてしまう国家試験、その合格を目標にして大量の暗記を強いている今の医学教育とは一体何なのでしょうか。医師には正確な知識はもちろん必要ですが、診断にいたるための考え方・問診や身体診察手技・患者やコメディカルの方々とのコミュニケーション能力も同じように重要です。しかし現行ではぺーパー試験のみで「暗記ができる=医師として適任」と判断されています。
 平成21年5月に発表された文部科学省医学教育カリキュラム検討会の報告書では、日本の医学部6年生は「医師国家試験の受験対策に追われ、臨床実習が形骸化し、基本的な診療能力が十分身に付かない」と国家試験の弊害が指摘されています。
 医師国家試験は、日本の医師の質、さらに言えば医療の質を規定する大切な試験であり、その位置づけ・内容・運営は真に「良医育成のため」というポリシーに沿ったものである必要があります。臨床現場に出ていない学生の立場から僭越ですが、以下の点について皆様に考えていただきたく、この場をお借りして問題提起させていただきます。(群馬大学医学部医学科5年 柴田綾子)

①マークシート試験のみで「医師としての能力」を評価できるのか
 実技試験がなくペーパー試験のみで車の運転免許がとれたら皆さんはどう思いますか?では、問診や診察などのスキルの試験がなく、マークシート試験のみで医師免許がとれている今の日本についてはどう思いますか?
 医師法第9条には「医師国家試験は、臨床上必要な医学及び公衆衛生に関して、医師として具有すべき知識及び"技能"について、これを行う(""は筆者挿入)」とありますが、日本の医師国家試験には技能試験がありません。アメリカ・カナダに続き、韓国でも2009年9月2 日より医師国家試験には実技試験が導入され、世界的に知識だけでなく医師の「技能」を評価する方向の改革が進んでいます。ペーパー試験のみでは医師に必要な能力が備わっているかどうか判断できないというのは、考えてみれば当たり前のことかもしれません。
 また全てを多選択肢型ペーパー試験で行おうとするあまり、妥当性に疑問が残る試験問題もあります。患者との会話の一部分を読ませて「次に喋る言葉として適切なものはどれか」「この会話に使われているコミュニケーション技法はなにか」という問題があります。しかし会話が行われている背景・雰囲気・関係性を全く無視したペーパー試験では、コミュニケーション能力は適切に評価できません。
 本年度の受験者が口をそろえて言う感想は「自分が選びたいと思った内容が選択肢の中に見当たらない」です。試験予備校なども「最近では最善の策が選択肢に無く、次善の策を選ばせる問題が何個かある」と解説していますが、現在の日本の病院において「最善の策が施行できない」という状況はほとんどなく、これは非現実的であるばかりか受験者を混乱させ教育学的にも適切な問題とは思えません。

 『評価法が学習者の学習態度を決定付ける』という言葉がありますが、日本では国家試験でスキルやコミュニケーションが問われないために、本来ならば一番重要であるはずの実習が軽視される傾向があります。前述の検討会の資料によると、本邦20医学部の臨床実習の平均時間が33.8時間/週であるのに対し、米国ではその2倍の76.8時間/週、ハーバード医学校ではさらに多い79.6時間/週です。「試験にでなければ勉強しない」という学生の姿勢にも問題があると思いますが、大学にとっては国家試験の合格率を上げることは目標の一つであり、(試験に出ない)臨床実習より、知識の詰め込みに重点を置かざるを得ない状況ができあがってしまっているのです。これでは知識のみに偏った頭でっかちの「医師」頭が造成されるだけではないでしょうか。
 実技試験の必要性について、平成15年度の医師国家試験改善検討委員会報告書において既に提言されているにも関わらず、現在になっても一向に実現していないのは問題ではないでしょうか。平成20年度には、厚生労働省の研究班で国家試験OSCE実施マニュアルが作成されています。国の医療水準および患者安全の向上のためにも、適切な知識および「技能」をもった者に医師免許を発行するシステムが必要であると考えます。

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