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ニュース〜医療の今がわかる

差別医療か、平等な医療か

12月4日の中医協.jpg すべての病人を救うか、優先順位を付けるか。すべての命を平等に扱うのか、"無意味な延命措置"があると考えるのか。医療サービスに優先順位を付けるなら、「医療費全体の底上げ」は矛盾しないか。平等な医療提供を求めながら、「医療費のメリハリ」を口にするのは矛盾しないか。(新井裕充)

 2010年度の診療報酬改定に向け厚生労働省は12月4日、中央社会保険医療協議会(中医協)を開催し、後期高齢者医療制度にかかわる診療報酬、医療と介護の連携、アルコール依存症などについて意見を求めた。
 「姥捨て山」などと批判を浴びた「後期高齢者医療制度」に関する診療報酬では、高齢者や終末期の医療をどのように考えるかが注目されたが、踏み込んだ議論は見られなかった。

 この日の中医協は、診療報酬改定を審議する基本問題小委員会の後に総会が開かれ、次期改定について厚生労働大臣に提出する中医協の意見書について議論した。
 患者代表を含む支払側は、「限られた財源を効率的かつ効果的に配分するよう見直していくべき」と主張。対する診療側は「診療報酬の大幅な引き上げによる医療費全体の底上げを行うべき」と要望、意見集約できなかった。

 もし、医療財源に限りがあると考えるなら、余命わずかな高齢者よりも未来ある若人の医療に適正配分すべきとの考え方もあるだろう。もし、すべての人に対して無制限に医療サービスを提供すべきと考えるなら、年齢によって区別せずにすべて等しく医療が受けられるようにすべきだろう。

 もし、医療資源に限りがあると考えて、提供できる医療行為に一定の制限を加えるなら、「アルコール依存症」や「摂食障害」の治療よりも優先する疾患があると考えるべきだろう。もし、すべての病気やけがに対して等しく医療サービスを提供しようと考えるなら、脳卒中の後遺症がある患者がリハビリを受けられずに寝たきりになってしまうような状況を直ちに改善すべきだろう。

 もし、「医療費全体の底上げ」を主張するなら、あらゆる疾患に対して医療を提供すべきと考えるべきだろう。もし、「限られた財源の効率的な配分」という"メリハリ"を主張するなら、100%完璧な医療や医師の献身的な応召義務を求めることはできないだろう。

 助かる命と、諦めなければいけない命との間に優先度の違いがあると考えるなら、「医療費全体の底上げ」ではなく、「限られた財源の効率的な配分」を主張するほうが一貫するだろう。なお、基本問題小委員会の議論は次ページ以下を参照。


【目次】
 P2 → 「後期高齢者に係る診療報酬」 ─ 4つの論点
 P3 → 「論点が分かりづらい」 ─ 遠藤会長
 P4 → 「75歳以上だけ厳しく退院を迫る制度は廃止すべき」 ─ 鈴木委員(診療側)
 P5 → 「受け皿をつくらないと解消しない」 ─ 安達委員(診療側)
 P6 → 「高齢者は独特の病状」 ─ 白川委員(支払側)
 P7 → 「受け皿の心配は全くない」 ─ 西澤委員(診療側)
 P8 → 「無意味に近い延命に医療資源を投入している」 ─ 邉見委員(診療側)
 P9 → 「高齢者が亡くなるときは大往生、若い人と違う」 ─ 嘉山委員(診療側)
 P10 → 「人権侵害があってはいけない」 ─ 勝村委員(支払側)
 P11 → 「まともにやっている医師が被害」 ─ 嘉山委員(診療側)
 P12 → 「家族も含めた医療を進めるため評価すべき」 ─ 勝村委員(支払側)


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