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ニュース〜医療の今がわかる

(2010年2月号掲載)

遺伝子とは何か

 ゲノム医療のことを理解していただくため、まず遺伝に関する基礎的なことを、できるだけ平易にご説明しようと思います。中学や高校の時の生物の授業を思い出しながらお読みください。
 「親からの遺伝」などと日常でもよく使いますけれど、実際のところ、私たちが何を両親から引き継いでいるか、ご存じですか?
 大前提として覚えていただきたいのは、私たちの生命現象のかなりの部分が、タンパク質に担われていることです。体の主要なパーツも、酵素もホルモンも抗体も、みなタンパク質でできています。
 念のために書きますと、タンパク質というのは、20種類のアミノ酸がいくつも結合したもので、その3次元的な構造が様々な機能を持ちます。
 私たちが体内で使うタンパク質は、食物中のタンパク質をそのまま転用するのでなく、いったんアミノ酸の状態までバラバラに消化・吸収した後で、細胞内で改めて並べ直してつくられます。
 そのアミノ酸の並び順の書かれた大元の「設計図」が、DNA(デオキシリボ核酸)。これこそ、私たちが両親から受け継いでいるものです。

DNAの構造

 DNAには、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)の4種類の塩基が、鎖のように延々と一列に並んでいます。
 0と1しかないデジタル信号をいくつも並べると複雑な情報を取り扱えるように、DNAも4種類の塩基を3つ並べた64通り(4の3乗)の配列で、20種類のアミノ酸に対応しています。64の方が20より大きいので、なかには、別の並びと同じアミノ酸を指定する配列や、「タンパク質合成やめ」という合図になったりする配列もあります。
 このアミノ酸の並び方に対応するDNAの部分をエクソンと呼びます。
 エクソン内の塩基の種類が何らかの原因で入れ替わると、時として指定されるアミノ酸も変わり、できあがるタンパク質が機能しなくなったり、別の機能を持ったりすることがあります。「バラが咲いた」という歌の題名の、「ラ」が「カ」に変わってしまったとしたら、歌にならないですよね。これがDNAの突然変異です。
 DNAには、このようにアミノ酸の並び順に対応する部分だけでなく、その並び順が、いつどこでどの程度タンパク質合成に使われるかという二次的情報の部分があります。プロモーターと呼ばれます。
 エクソンは、いくつかのイントロンと呼ばれる部分で分断されていることが多いのですが、エクソン・イントロン・プロモーターのセットが機能単位となっており、これを遺伝子と言います。
 タンパク質を作る遺伝子以外にも、タンパク質を作らないけれど何らかの働きをしているRNA(リボ核酸)や遺伝子の働きを調節している小さなRNAを作る部分も分かってきています。
 この他にもDNA上には、細胞の寿命に関係していると考えられる染色体末端のテロメアやセントロメアと呼ばれる部分があります。

自己複製する形

 DNAには、さらに重大な特徴があります。AGCTが互いに横へつながるだけでなく、AとT、GとCとが対面で強力に結合するようにできていて、このことによって通常時は2本のDNA鎖が、らせん状に結合しているのです。有名な「二重らせん」です。
 これは、普段のDNAが非常に安定した形であることと同時に、もしDNAの二重らせんがほどければ、2本の鎖がそれぞれ独立に塩基を並べ直して、全く同じコピーを作ることができるということです。細胞分裂の際には、この現象が起きています。
 今号の特集で取り扱われているように、生命には、平常時に恒常性を保ち、一定の条件下で自己複製するという特徴があります。この二つの振る舞いをシンプルに両立させているのが、二重らせんなのです。
 DNAからタンパク質が合成される際は、まず二重らせんの一部がほどけ、そのほどけた部分に関して、いったんイントロンまで含んだ形でRNAへと転写されます。そこから必要なエクソンだけが切り出され再結合(スプライシングと言います)、mRNA(メッセンジャーRNA)になります。このmRNAが、アミノ酸を並べさせて、タンパク質の鋳型となります。
 人間の場合、一つの細胞の中に約60塩基対のDNAを持っていて、その上に乗っている遺伝子は約2万5千種類と考えられています。ただしスプライシングの違いによって、一つの遺伝子が複数のタンパク質を作ることもあり、できたタンパク質に修飾が加わると性質も変化することから、実際に体内で働くタンパク質は、もう1ケタ多い10万~20万種類ありそうです。

オバマ大統領は、議員の時からゲノム通

 米国のオバマ大統領が、無保険者の多い医療保険の大改革に乗り出し、日本の国民皆保険制に近いものを導入しようとしているというニュースは耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。かつて大統領夫人時代のヒラリー氏も乗り出して果たせなかった大難題ですが、あえて火中の栗を拾いにいったオバマ氏の周辺には、医療に通じた優秀なスタッフが揃っていると思われます。
 それは上院議員時代の06・07年に提出した法案にも表れています。この法案は、バイオバンクの構築とゲノム解析に対しての政府支援を強めると共に、国内の全施設を包含するようなデータベースを構築すること、また医薬品開発などに関する規制・基準を明確化することを求めたものでした。
 法案は不成立でしたが、政権に就いて以降は、次々とゲノム医療推進の施策を打ち出しており、米国と司令塔不在の日本との差は開く一方です。


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