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ニュース〜医療の今がわかる

(2010年4月号掲載)

遺伝子の多型

 生命の設計図であるヒトゲノムの解析が進み、全人類で99%以上共通していると分かってきました。塩基が置き換わっていたり、部分的に欠落したり、逆にダブッたりという個人差は、コンマ数%しかありません。たったそれだけの違いですが、環境や生活習慣の違いなども加わって、一人ひとり千差万別の個性が生じています。
 このDNAの個人差のなかで、ある集団の概ね1%以上に共通して存在するものを、「多型」と呼びます。遠いご先祖様に起こった突然変異が子孫の間に広まったものと考えられます。
 なかでも最も出現頻度が高く、かつ注目されているのが、1つだけ塩基の置き換わったSNP(Single Nucleotide Polymorphism の頭文字で、スニップと読みます)です。たとえば、70%の染色体ではA(アデニン)が入っている部位が、30%ではG(グアニン)に置き換わっているというようなものです。
 この場合のAとGのことを、そのSNPの対立遺伝子といいます。両親それぞれから由来したものがペアになっていますので、このSNPであれば、AAの遺伝子型の人、AGの人、GGの人がいることになります。SNPは、ヒトDNA全体で300万~1000万カ所あると見られています。

SNPの意味

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 一般によく知られている個人差で、たった数個のSNPの影響と分かっているものに、お酒の強さの違いがあります。アルコールとその分解途中のアルデヒドそれぞれについて、SNPの遺伝子型によって、できあがる代謝酵素が活性型と不活性型に分かれます。
 このように、SNPが遺伝子の発現やコードするアミノ酸に影響を与える場合、疾患の直接のリスク因子となり得ますし、また薬剤の感受性や副作用の出方を左右することになります。大多数のSNPはそのような機能的な意味を持ちませんが、それでも指標として有用です。
 SNPは、ご先祖様から受け継いだもので、個人個人でバラバラに存在するわけではないからです。親から子どもへ染色体が引き継がれる仕組みの影響により、同じ染色体上の近い位置にある多型や遺伝子は、まとまったブロックのまま(連鎖不均衡と表現します)遺伝することがほとんどです。親と同じ組み合わせになるということです。
 この結果、同じブロックの上では、たとえば図の①のSNPの塩基がAならば、②のSNPでは高い頻度でT(チミン)になり、1がGならば2はC(シトシン)になるというように互いに高い確率で相関することになります。このように相関関係の高い遺伝子型の組み合わせを「ハプロタイプ」といいます。
 ハプロタイプが分かれば、その上のいくつかのSNPの遺伝子型を調べるだけで、ハプロタイプ上のすべての遺伝子型が分かることになります。このために、どの染色体のどの位置に、どのようなSNPが存在するか世界中の研究者が共同で解明するという国際ハップマップロジェクト(コラム参照)が展開されました。

原因探索の目印

 疾患にかかっている人たちとかかっていない人たちとの間で、多くのSNPの遺伝子型を比較します。もし、疾患にかかっている人たちで、かかっていない人たちより出現頻度の高いSNPが見つかったら、そのSNPの近傍に疾患に関与する遺伝子が存在する可能性ありです。
 つまり目印となるSNPさえ見つければ、疾患のリスクや薬の感受性に関連する候補遺伝子を効率よく絞り込んでいくことが可能となります。
 06年~07年にかけて、1つの疾患について数千人単位で数十万カ所のSNPを解析したデータが相次いで報告されるなど、疾患関連遺伝子を探し当てる競争が始まっています。新たな薬剤の開発はもちろん、不治の病の克服など世界を変えかねない話なので、その勢いはゴールドラッシュに例えられるほどです。
 心疾患、脳梗塞、糖尿病、がん、精神性疾患など一般的な病気の多くは、複数の遺伝子と環境要因により影響されます。したがって、今後、多くの遺伝的要因と環境要因を組み合わせて病気を予防する方策などに役立てられるでしょう。
 さらに将来は、そのような複数の因子に応じて治療を選択することも可能になるでしょう。とりあえず現段階で現実的なのは、発症前に疾病リスクがどの程度か判定し生活改善に役立てることと、発症してしまった後は薬剤の安全性と有効性をあらかじめ調べて適切にコントロールすることです。

国際ハップマッププロジェクト

 02年から日米英中加の5カ国が共同で、アフリカ人90人、ヨーロッパ系白人90人、アジア人90人(うち45人は東京在住日本人、残りの45人は北京在住漢民族系中国人)のゲノム解析を行いました。
 これが「国際ハップマッププロジェクト」。第1期は2005年に結果が出て、現在は第2期の取り組みが行われているところです。
 第1期だけでも、たとえば以下のようなことが分かりました。・3人種間では差異が大きいが、漢民族系中国人と日本人は非常に類似している。・DNAの複製・修復などは人種間の差は少ない。免疫系など環境要因・感染症などと密接な多型には人種間差が大きい。今後ますますオーダーメイド医療に役立つ情報が得られるものと考えられます。


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