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ニュース〜医療の今がわかる

村重直子の眼18 古川勝久・安全保障/危機管理専門家(上)

古川村重.JPG 久しぶりの『村重直子の眼』は、東日本大震災の救援活動を巡る話題です。非常に近接していながら没交渉な領域の住人どうしが議論をすると、こんなにもお互いに驚くものかと、それぞれの業界の人たちにとって新鮮な発見があることと思います。また一般人である私からすると、もう少し日頃から風通しをよくしてもらった方がイザという時には安心かな、という感想も湧いてきました。(川口恭)

古川
「私は、医者とか医療のバックグラウンドはなくて、社会科学がバックグラウンドで、職業としての専門は危機管理や安全保障をやってきました。医療との接点が、実は非常に関係深い領域なのです。ただし、関係深いのは、『日本を除いた、諸外国では』、という意味です。
たとえば今回のような原子力災害、あるいは核テロ等のテーマも、安全保障コミュニティでは非常に大きな課題になっています。海外で欧米政府等と国際会議を開催する時には、欧米諸国からは、医療コミュニティの方々に加えて、色々な分野の行政当局、つまり防衛、消防、警察等が、1チームとして参加します。しかし、日本だけ、外務省を除けばほとんど誰も来ないんですね。
他方、もう一つ、安全保障の観点から見ると、インフルエンザのようなパンデミックやバイオテロ等のテーマも、非常に重要なテーマとしてみなされております。このテーマで国際会議を開く際も、諸外国ではオールUSA、オールEUという形で来るんですけれども、日本の場合、安保コミュニティが主導した会議にほとんど厚労省は関係しませんし、医者もほとんど来ない。基本的に感染症専門の研究者がたまに来られることはあるのですが、医療機関の方がこられることはほとんどありません」

村重
「新型インフルエンザのような対策も、医療というよりはバイオテロ対策として、防衛省や外務省も主体的に取り組んでいただかないといけないのに、日本はそうなってませんよね。それに、感染症専門の研究者といっても、現場で日常的に臨床をされているような方ではないことが多いですよね」

古川
「そうなんです。やはり海外と日本とのギャップというのを、いつも感じていたのですが、今回の震災対応を見ていると、このギャップが決定的に私の中で印象づけられたというのが、今の率直な実感です。
印象に強いのは2点あります。まず一つ目は、村重先生も後でご説明されると思うのですが、本当の危機になった時に一番動いたのは医療コミュニティだったという点です。しかも、感染症とか危機管理を日ごろ生業とされているわけではない医療の先生方がリードを取られてます。それに対比して、今回は原子力災害対策や危機管理等が非常に重要なイシューになりましたが、科学技術コミュニティはほとんど動きが鈍い。社会的に目に見える形で有意義な役割を果たしきれなかった。そのポイントが一つあります。
もう一つの点は、村重先生と別の機会にお話させていただいたばかりのことです。安全保障コミュニティにおいても医療アセットがありまして、自衛隊や米軍にはしっかりした医療部隊があります。それらが、医療コミュニティや自治体の方々と平時から顔の見える協力関係を持っていないと、せっかくいい能力を有していても、緊急事態には迅速にフレキシブルに協力したり活用されなかったという点が、僕としては非常にショックでした。当初はもっと楽観的に考えていまして、「自衛隊はこんなアセットがあります」という情報を、医療コミュニティや地方自治体等に流しておけば、「ああこれには協力して欲しい」という声が上がってくるのではないか、と考えていました。あとは任せておけば、自然と具体的な協力関係ができるだろうと思ってましたが、実際にはそうはならなかった。医者の皆さんや自衛隊の皆さんとの間では、オペレーションのルールやプロトコールがお互いに違います。オペレーションや資機材面でのニーズも異なっていたのでしょう。相互協力を進めるためには、ファインチューニングが必要だったわけです」

村重
「でも、ファインチューニングまでは、個別ケースが出てきて個別に相談せざるを得ないわけですから、それを前もって決めておくことはできないし、決めてしまうと逆に個別対応できなくなるし」

古川
「そうですねえ」

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