ニュース〜医療の今がわかる

 昨日発足した内閣官房・医療イノベーション推進室の中村祐輔室長には、ロハス・メディカル誌2010年1月号から12月号まで『あなたにオーダーメイド医療を』というコーナーの連載をしていただきました。これまで、このコーナーの文章はweb公開していませんでしたが、ちょうどよい機会なので1日1本ずつ公開していきます。

(2010年1月号掲載)

遺伝子は怖いか?

 医師から「とりあえず、この薬で様子を見ましょう」と処方を受けた経験、ありませんか。「とりあえず」とはデタラメな、と不愉快に思った方もいるかもしれませんが、今までは仕方ないことでした。
 医師が「とりあえず」と言うのには二つの状況が考えられます。一つは、検査などだけでは原因を確定することができず、薬が効果を表すかどうかで原因に絞り込みをかけていくような場合です。
 もう一つは、薬の効き方や副作用の出方には個人差があって、実際のところどうなのかは使ってみないと分からないために、文字通り様子を見ながら量を増減したり薬を変えたりという「さじ加減」を行う場合です。
 前者はともかく、後者の「とりあえず」を世の中の常識と照らし合わせると、かなり特殊です。たとえば衣料品業界で、サイズが一つしかなくて「しばらく着ててください」なんてことは考えられません。
 原因は、薬の効き目や副作用の違いについて、何に基づいて予測したらよいか分かっていなかったことです。
 21世紀になって事情がだいぶ変わってきました。薬の効き方や副作用の出方に影響を与える、そんな遺伝子の個人差がいくつも見つかってきたのです。その違いを調べて投薬方法に反映させれば、現在よりはるかに安全で有効な薬の使い方ができるようになります(コラム参照)。
 「とりあえず医療」から、1人1人に最適の投薬を行う「オーダーメイド医療」への転換も遠くない将来に見えてきました。

血液型と違う?

 ただし日本では、「遺伝子を調べる」と聞くと拒否反応を起こす人も少なくないようです。たしかに最近も、足利事件で冤罪を生んだ元凶としてDNA鑑定がヤリ玉に上げられたことがありました。
 でも、食わず嫌いをする前に少し考えてみていただきたいのです。
 ちょっと前に「~型 自分の説明書」というABO血液型の書籍シリーズがベストセラーになったことを覚えていらっしゃるでしょうか。血液型本は定期的にベストセラーになるようです。
 なぜ皆さん血液型の話題が好きなんでしょう。深刻にならずに面白がれるなど、理由はいくつもあると思いますが、自分の血液型を知っていて当然ということも間違いなく影響しているはずです。
では、なぜ私たちは自分のABO血液型を知っているのでしょう。
 医療機関では、出生後すぐ当たり前のように調べます。皆さんもよくご存じのように、血液型の合わない輸血を行ったりすると、命にかかわる副作用が起きる重要な情報だから調べるのです。
 副作用を避けるために血液のタイプを調べる。誰も疑問に思いません。
 実際には、血液型も遺伝子の違いによって生じているので、血液型を調べるということは遺伝子を調べることの中に含まれます。

まず正しく理解

 遺伝子を調べることに拒否反応を示すのは、薬が安全で効果的なものになるメリットと天秤にかけると、科学的には余り得策とは思えません。しかし社会的には、十分に理解できる話です。
 それは遺伝子について、調べればどんな病気になるかや、どの程度の能力を持っているかが、たちどころに分かってしまう(そんなことは絶対にありません)かのように誤解されていて、その誤解に基づいた差別の起きる可能性は十分にあるからです。
 差別が起きるかもしれない以上、遺伝子に敢えて触る必要はない、と思う方もいるだろうと思います。
 しかしグローバル化の時代。既に欧米やアジアでは、どんどん研究が進められています。日本だけ拒否反応で前へ進めずにいると、やがて高いお金を出して海外から検査技術や機器、薬品などを買わなければならなくなります。
 国民の多くが事情を理解したうえで「それで構わない」と選択するなら仕方ない話です。しかし知らずに乗り遅れ被害を蒙るのは、事情を知っている医師として良心が許しません。
これから毎月、遺伝子とは何なのか、何が期待できるのか、何に気をつけなければならないのか、お伝えしていきたいと考えています。

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ワルファリンなら「1000億円削減」 
 効き目の個人差が大きい薬剤の中に、一般にもよく知られた抗血液凝固薬の「ワルファリン」があります。
 1mgの服用で十分な人もいれば、10mgで初めて効果を表す人もいます。個人の適量を見つけるまでが大変で、6週間経っても半数以上の人が適量を見つけられていなかったという研究報告もあります。
 効き目が弱いと、血栓ができて脳梗塞などを起こす可能性があります。効きすぎると、脳内や腸管などで出血を起こします。適量が見つけられていないということは、こうした疾病をひき起こす可能性があることと同義です。
 しかし遺伝子2つのタイプを調べ、使い始めの量を3群に分けると、適量に達するまでに6週間を超えた例はありませんでした。
 米国の試算では、遺伝子検査に100ドルかかるとしても、年間10万人程度の梗塞や出血を防ぐことにつながり、その医療費節約効果は年間1000億円程度になるそうです。

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