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ニュース〜医療の今がわかる

(2010年9月号)

がんの免疫療法とは

 がんの治療法として確立しているのは、①外科療法(手術)、②化学療法、③放射線療法です。それぞれに特徴と限界があり、これらでは対応できない患者さんたちを救いきれていないのは、皆さんもよくご存じの通りです。
 多くの方に有効でかつ副作用の少ない治療になるのでないかと過去何十年も期待を集めてきたのが、患者さん自身の免疫の働きでがんを制御しようとする「免疫療法」です。
 私たちの体内では毎日何千個もの変異細胞が発生していると推測されており、これらは、免疫機構によって退治されていると考えられています。つまり免疫は、がん細胞に対する攻撃力を持っています。ただし、がんとして私たちの目の前に現れてきているものは、何らかのきっかけで免疫網をくぐり抜けて増殖を続けてきた、いわば免疫より強いものばかり。この力関係を立て直すのは一筋縄でいきません。
 こうすれば力関係を免疫優位に立て直せるのでないかというアイデアが出て注目を集めては、最終的に期待を裏切るという歴史を繰り返してきたために、「免疫療法」と聞いただけで毛嫌いするような医療者もたくさんいます。
 しかし、20世紀後半の分子生物学的手法による免疫学の急速な進歩で、免疫ががん細胞を排除する際にどのようなメカニズムが働いているのか、かなり分かるようになってきました。知見の蓄積もあり、21世紀に入って現段階でようやく実用化が見えてきたのでないかと考えています。

免疫の闘い方

 我々が有望視している療法を紹介する前に、がん細胞を免疫が攻撃する仕組みのひとつについて簡単に説明します。
 私たちの細胞には、細胞内でどのようなタンパクが作られているか、細胞膜の上のお皿にタンパクの一部(ペプチド)を載せて陳列するような仕組みが備わっています。細胞の中でどのようなタンパクが作られているか見れば、その設計図である遺伝子がどのように発現しているかも分かるので、生命というものは本当によくできていると思います。
 このお皿とペプチドの組み合わせは、免疫細胞が、その細胞が自己か自己でないかを見分ける標識(抗原と言います)の役割を担っています。抗原の多くは、外からの侵入者であり、それを見分けるために使われます。
 免疫は、正常な自分の抗原と異なる抗原を持つ細胞を発見すると排除します。がん細胞に対しては、主にリンパ球の「キラーT細胞」というものが活性化(抗原を認識して活性化したものを「CTL」と言います)し、攻撃を加えやっつけます。
 ただし、1種類のCTLが非自己と認識して攻撃できるのは、1種類の抗原に対してだけです。がん細胞の場合、元々が自分の細胞なので、これらに反応するリンパ球はほとんど残っていないと考えられていましたが、案外たくさん存在しているのでないかと思われます。

がんの逃げ方

 運よくがん細胞に反応してCTLが形成されたとしても、それだけで免疫ががんを完全に退治するとは限りません。がんが、免疫細胞の駐屯地であるリンパ節を侵すのはよく知られた話ですが、それ以外にも、あの手この手で免疫機構から逃げ隠れします。これこそ、過去に免疫療法が期待を集めながら成果を上げられずに来た理由でもあります。
 近年の研究で分かってきたことは、がん細胞自体が免疫機構に働きかけてCTLを鎮静化させる場合があるということ、また攻撃対象となっている抗原を細胞表面から隠してしまう場合があるということです。
 もっと根本的な問題として数の差も挙げられます。肉眼で見えるような大きさになった腫瘍の中には、10の10乗~12乗(100億~1兆)個のがん細胞が詰まっています。全身に流れているリンパ球を総動員しても10の10乗個ほどしかありません。ましてCTLはその一部です。細胞1個対1個では勝てたとしても、多勢に無勢では増殖を止めるに至りません。そのうち体力が失われ、免疫機構も衰えていくことになります。
 以上の課題を、どのように克服したらよいのでしょうか。我々の戦略を次回ご説明します。キーワードは「特異性」と「大量」です。


免疫療法にも色々

 一口に免疫療法と言っても様々なアプローチがあり、それぞれ似て非なるものです。違いをよく見極めていただきたいと思います。
 大きく2つに分けるならば、患者さん本人の免疫システムを活性化させるのか、抗体薬や体外で増やした免疫細胞を体外から注射するのか、になります。ただ、この分け方だと世の中にある「~療法」ごとの違いを説明しきれませんので、表のように6分類することにします。
 細胞免疫療法にも、各種リンパ球をまとめて増やして体内に戻すものから、一定の成分だけ選択的に増やして戻す方法、あるいはリンパ球に抗原を教える役目の「樹状細胞」を増やして戻す方法などいくつかあります。
 サイトカイン療法は、インターフェロンやインターロイキン2などが、保険適用されています。
 生体応答調節療法は古典的なもので、ピシバニールやクレスチン、レンナチンなどの薬が知られています。丸山ワクチンも、この療法として考えることができます。
 遺伝子療法は足踏み状態です。
 残るワクチン療法について、次回に詳しく説明します。

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