文字の大きさ

ニュース〜医療の今がわかる

村重直子の眼18 古川勝久・安全保障/危機管理専門家(中)


村重
「今回は災害の特徴として、津波で大勢亡くなって生死がハッキリ分かれてしまった、つまり外傷での重症患者が全体としてはあまりいなかった。その次にすぐ問題になるのは避難所で、元々持病のあった方、高齢者が多いので、元々多くの方が何らかの持病を持っておられて、それがどんどん悪化して行くこと。体育館のように広くて寒い所に生活し続けるだけでも弱って命を落とすなど、重症患者がどんどん出ます。こういう状況は、災害医療とかDMATとか、外傷とか救助とかに特化した人々に限らず、普段の医療をしている人たち、内科、外科、小児科、産婦人科など普段の医療の延長線上にあるからこそ、特別な訓練をしていなくても、普通の医療関係者が患者さんの診療や搬送などで役に立てている部分があると思います。普段の医療のオペレーションに近いんですよ。『災害医療』という概念だけではなくて、慢性期の、普段の医療をいかに被災地の方たちに受けていただけるか、です。どんどん医療関係者が現地入りして巡回診療したりしてますけれども限界はあります。あまりにも状態の悪い所に人口が密集してしまって衛生状態を保てない、それで重症化してしまうのであれば、そういう患者さんに、本来なら普通に受けられる医療を受けていただくために、被災地の外へ一時的にでも引っ越すことも考えていただかないといけないんですよね。もちろん現地の医療機関も段々と機能を回復しますけれども、しばらくは、それだけではキャパシティが足りない部分があります。手が回らなくて、そのまま患者さんが具合が悪くなって亡くなってしまうのではなくて、患者さんたち本人たちに違う場所へ行くという選択肢も考えていただいて、その際に移動する手段として、民間のバスでもいいし、自衛隊の普通のヘリでもいいし、あるいは重症の方々には自衛隊の医療部隊『空飛ぶICU』もあるんですよ、移動手段があるんですよということや、住宅や病院などの受け入れ先もあるんですよということを、皆さんに知っていただきたかったですね」

古川
「これまで災害対策訓練は、様々な都道府県などの地方自治体でなされてきました。ただ、ほとんどの場合、その前提として、医療分野では、災害医療従事者の参加しか想定されてませんでした」

村重
「普通の医療機関とか大学病院の普通のお医者さんたちがDMATの訓練に参加してますよね。DMATは、そういう意味で医療関係者の間では、とても知名度が高くて、今回もパっと真っ先に行ってくださいました。実際に対象となる外傷患者はあまりいなかったという話は聴いていますけれども、知名度が高くて、参加したのは民間のお医者さんたちですよね。お医者さんは行きたくても行けない人がいるくらい、皆さん被災地に行きたがっていました。災害医療に特化した医療者だけではなくて、徳洲会のTMATとか医師会のJMATとか、他にも自分たちのコミュニティの中で自律的にチームを組んで自分たちだけで行ったとか、そういう人たちがたくさんおられますので、あんまり訓練が必要という感じではないように思いますけれども」

古川
「私が問題としたいのは、そこのポイントではなくて、災害発生直後のフェイズを想定した演習というのはほとんどなされたことがないという点です。これまで、DMATの出動を想定した、災害医療を前提とした演習は数多くなされてきました。しかし、まさに今ご指摘されたような、DMATが対象とする災害治療処置の対象患者が少なかった場合を想定した訓練を、僕はほとんど知りません。民間の医療従事者によるプライマリケア中心の医療処置を前提とした、災害対策訓練を知らないんです。いざ、このような局面に直面した時に、民間の病院や医者従事者の方々の足らない所を、官が補うという発想に基づいた訓練というのはほとんどないんですね」

村重
「それはでも、普通の医療をするんだと思うんですけど...」

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
loading ...
月別インデックス