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「救える命」か「予算確保」か―0.14%の子どもの命、どう考える

 「児童のアナフィラキシーの有病率は0.14%。ターゲットは大きいということを知って頂きたい」、「すべての救急車にエピペンを積載するとして、毎年229万円の予算は許されないと思う」―。すべての救急車にアナフィラキシーショックの補助治療に使うエピネフリン製剤の積載を義務付けるかどうかなど、エピネフリン運用ルールをめぐる議論が消防庁の検討会で行われた。予防を取るか費用対効果を重視するか、委員からはさまざまな意見が上がった。(熊田梨恵)

 厚労省は今年3月、アナフィラキシーショックを起こした患者が携帯用のエピネフリン製剤(商品名、エピペン)を使用していた場合、現場の救急救命士の判断による投与を可能とする通知を出した。
 これを受けて消防庁は6月15日、エピペン使用に関する具体的なルールを検討する会合を立ち上げ、議論を開始した。
 

アナフィラキシーショックとは(消防庁資料、文部科学省ガイドラインより)
全身性のアレルギー反応で複数の臓器で症状が出現しショックに進展しうる状況を指すことが多い。発症は通常急激であり、症状は軽傷例から致死的な例まで存在する。例としては全身性の蕁麻疹、喘鳴、ショック、下痢、腹痛等の症状が発生し、重症例としては、咽頭浮腫・呼吸困難・窒息・呼吸停止・心停止が見られる。
 
アナフィラキシーショックの発生は年間に5000-6000人とも言われる。我が国の疫学的調査では年間60人前後が死亡し、その原因としては蜂、薬物、食物などが挙げられる。1995年から導入された林野庁職員は蜂殺傷で8年間に15例エピペンが使用され、14例が救命された。救急医療機関に対する食物アレルギーに関する全国調査では、4例の死亡例の検討報告がなされているが、いずれも救急施設到着時には心肺機能停止状態であり、病院前救護でのアドレナリン使用の重要性が示唆されている。
 
緊急時に備えて処方される医薬品としては、皮膚症状等の軽傷症状に対する抗ヒスタミン薬やステロイド薬などの内服薬と、アナフィラキシーショックに対して用いられるアドレナリンの自己注射薬「エピペン」がある。アナフィラキシーにショックに対してはエピペンのみが効果を示し、早期のアドレナリン投与が有効とされている。
 
文部科学省の調査によると、アナフィラキシーの既往を有する子どもの割合は、小学生0.15%、中学生0.15%、高校生0.11%。
 
 
委員(右).JPG 委員はこの日、事務局が提示した論点や郡委員が提出した現場の救急救命士が使用する運用ルールのたたき台を基に議論。特に、▽必要時に備えてエピペンを救急車に積んでおくべきかどうか▽学校現場などでのエピペン実施者の優先順位と責任の問題-に関して意見が多く上がった。意見交換の中では、「学校」「医療機関」「消防機関」という、「文部科学省」「厚生労働省」「総務省消防庁」という管轄の違いや立場の違い、法律の解釈などからさまざまな意見が出た。
  
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