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国の救急電話相談モデル事業が廃止の危機

 国が昨年度から実施している、119番で救急車を呼ぶべきか判断に困った患者からの電話相談を受ける救急電話相談のモデル事業が、総務省内の「事業仕分け」で「廃止」と判定された。実際に廃止されるかどうかは選挙後の政務判断に任されているが、もしそうなれば国が描く今後の搬送体制の構築に大きく影響する可能性もある。(熊田梨恵)

 6月4日に総務省が開いた省庁内での「事業仕分け」とも言える「行政事業レビュー」。各部署の事業が仕分けされ、同省消防庁救急企画室の「救急安心センターモデル事業」も対象になった。

 この事業は、各実施機関によって内容に差はあるが、患者が119番通報して救急車を呼ぶべきかどうか迷った時に医師や看護師など医療知識のあるスタッフが電話相談を受け、状況に応じて救急車の依頼を促したり、通常の外来受診を勧めたりしてアドバイスするもの。近年救急需要が増加している一方で、119番通報者に軽傷患者が多かったり、本来救急車が必要な人に使われていなかったりすることもあることから、救急車の適正利用を勧めるために考えられたいわば救急患者の「振り分け」システムだ。
 全国に先駆けて2007年からこのシステムを開始させたのが東京消防庁で、名称は「救急相談センター」。患者が「#7119」にダイヤルすると、医師や看護師のスタッフが相談を受け、約100ある成人用や子ども用の相談プロトコルに沿って助言する。東京消防庁の荒井伸幸救急部長は、「かつて東京では、全救急搬送のうち6割が初診時に軽傷でしたが、今は55%を切るぐらいの数字になっています。救急車をご利用いただける本来の形につながっているなら、一定の成果を上げている事業になっているのではないかと考えています」と話す。また、この電話相談プロトコル作成にもかかわった昭和大医学部の有賀徹教授も「119番を呼ぶことを躊躇していて、病院に行けなくなっている重症患者を確実に受診につなげていける」と、この電話相談システムは全国に広がっていくべきと話した。

 国はこの事業を全国展開しようと、昨年度から「救急安心センターモデル事業」と銘打ち、実施する自治体を募った。昨年度予算は3億6800万円。これに手を挙げたのが大阪市と奈良県と愛知県。昨年10月から半年間実施された。
 大阪市の「救急安心センター」事業は、半年間で救急相談が2万4436件あり、平均すると1日平均136件。消防庁の調べでは人口10万人当たり921件の相談があった。東京消防庁の同時期の相談件数は、1日平均177件、人口10万人当たり244件の割合。消防庁は「開始半年にしては、それ(東京消防庁)に遜色ないほどの相談実績が上がっています。東京消防庁は始まってから2.5倍ぐらい相談件数が増えていて、初年度は10万人当たり100件程度だったと思うので、大阪市についてはその10倍近く、非常に高い相談件数が受けられています」と、事業がうまく進んでいるとの見方を示している。

 国は今年度もモデル事業を継続して自治体の公募を行い、電話相談を国内に拡充していこうとしていた。今年度予算は3億1600万円。しかし、突如行政事業レビューで「廃止」を言い渡された。公募を考えていた自治体も当然困るが、この事業拡充による大きな狙いがあった国にはさらに頭が痛い話だ。

■国が描く新しい119番受信~搬送体制
 消防庁内の作業部会では、119番通報時点で患者のトリアージを行い、重症度や緊急度に応じた搬送を行えるようなプロトコルを数年にわたって検討している。まだ一部地域で期間を限定した検証を始めている程度で全国的な実施には至っていないが、アンダートリアージや法的な問題についても議論され、何度も見直されながら現実のものに近付きつつある。その際に効率的な搬送が行えるようにと、消防車(Pumper)と救急車(Ambulance)が連携して救急活動を行う「PA連携」の制度化も検討されている。このモデル事業を契機に電話相談事業を全国展開し、そこに119番通報時のプロトコルを入れ込むことで、一層の搬送業務効率化と重症患者の適切な受診につなげたいと考えられていることが推察される。ただ、関係者に話を聞くと一気に119番通報のプロトコルを実施するということではなく、救急医療事情の異なる地域の実情に合わせながら「段階的に」という。国が描く119番通報受診から搬送までの業務の質向上を進めるには、電話相談事業を全国拡大することは必須条件になるだろう。

 

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