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政権交代で、急性期病院はどうなる?

8月27日の慢性期医療分科会.jpg 厚生労働省は急性期病院を再編する計画を進めているが、政権交代後はどうなるだろうか。(新井裕充)

 民主党の政策集(7月17日現在)は、「地域医療を守る医療機関の入院については、その診療報酬を増額します」としており、入院基本料の引き上げを示唆しているが、具体的にどの入院基本料を引き上げるかは明言していない。

 入院基本料は、看護職員の配置人数などで差が付けられている。最も高い点数は、患者7人に対し看護職員1人を配置する「7:1入院基本料」で、これに「10:1」「13:1」「15:1」などが続く。これらの配置基準は病院の規模を反映している。

 同政策集では、「4疾病5事業を中核的に扱う公的な病院(国立・公立病院、日赤病院、厚生年金病院、社会保険病院等)は政策的に削減しません」としており、地域で中核的な役割を果たしている病院を評価する方向性がうかがえる。
 例えば、DPC(入院医療費の包括払い制度)を導入している病院のうち一定の病床数以上の病院、地域医療支援病院などの診療報酬を大幅に引き上げることが考えられる。

 厚生労働省も、「医療機能の分化・連携」を進めるため、地域の中核病院を手厚く評価する方針。このため、2010年度の診療報酬改定で、大学病院など高度な医療を提供する病院を優遇しても民主党の政策と矛盾しない。
 問題は、「13:1」「15:1」などを算定している中小病院の入院基本料。これらの病院には慢性疾患を抱える高齢者など長期入院の患者が含まれているため、厚労省は「一般病床」の中身を明確化する方向で検討を進めている。
 将来的に、現在の「一般病床」を「高度急性期」「一般急性期」「亜急性期・回復期等」に区分するなど、急性期医療を担う病床を絞り込む案がある。その道筋を付けるため、「13:1」「15:1」の病床は急性期医療の枠組みから外して、慢性期医療に移すことが考えられる。

 こうした背景には、「一般病床」と「療養病床」の"重なり合い"がある。現在、病院のベッド(病床)は患者の状態に応じて区分されている(医療法7条)。従来は、「精神病床」「感染症病床」「結核病床」「その他の病床」の4区分だったが、1992年の医療法改正で「その他の病床」が「一般病床」と「療養病床」になった。
 「一般病床」は主に、脳梗塞などで倒れて救急病院に搬送された場合など、病気を発症して間もない急性期の患者が入院する。これに対して、高齢者など慢性疾患を抱える患者が長期入院するのは「療養病床」。しかし、「一般病床」イコール「急性期」ではなく、慢性期の患者も含まれている。そこで、「一般病床」をさらに明確に区分する計画が進められている。

 社会保障費の抑制策に対する批判などを受け、福田政権下で設置された「社会保障国民会議」が2008年11月4日にまとめた最終報告では、25年に向けた改革シナリオが示されている。
 シナリオでは、07年現在で103万床ある「一般病床」は25年に133万床に増加するが、「B3シナリオ」に従って再編すれば、「高度急性」26万床、「一般急性」49万床となる。長期療養の病床は23万床で、急性期と長期療養の間に「亜急性期・回復期等」40万床を位置付ける。

 厚労省は今後の医療政策を進める上で、同会議の最終報告を重視しているが、新政権は同報告をどのように扱うだろうか。10年度の診療報酬改定に向け、厚労省は同報告の改革シナリオに沿って中央社会保険医療協議会(中医協)などの議論を進めることが予想されるが、今後はどうなるだろうか。

 民主党の政策集では、急性期医療と慢性期医療の谷間にある「亜急性期」の位置付けまでは言及していないため、この領域をどうするかが注目される。
 救急医療をめぐっては、診療報酬の相次ぐマイナス改定で2次救急を担う病院が減少したことが3次救急を圧迫したとの指摘もある。「13:1」「15:1」を算定している中小病院の2次救急に期待するか、あるいは老人保健施設などへの転換を進めるか、その行方はまだ見えない。

 厚労省は8月27日、中医協・慢性期入院医療の包括評価調査分科会(分科会長=池上直己・慶應義塾大医学部教授)で、「平成20年度慢性期入院医療の包括評価に関する調査」の報告書(案)を示した。質疑では、「13:1」「15:1」に入院している患者を「医療療養病棟の患者と類似している」と記載したことに議論が集中した。

 対立構造は単純で、 「13:1」「15:1」を慢性期医療の領域と考えると、「類似している」という方向に傾く。一方、急性期医療の領域と考えれば「類似とは言えない」という考えになる。日本慢性期医療協会会長の武久洋三委員は、「類似」に賛成する立場。

 これに対し、全日本病院協会副会長の猪口雄二委員は「類似」とすることに慎重論。日本医師会常任理事の三上裕司委員も同様の立場と思われる。日医は最近、有床診療所への評価を主張している。高度急性期ではない急性期、例えば高齢者が転倒骨折した場合などに対応する"準急性期"をめぐる日医の思惑がうかがえて興味深い。

 「13:1」「15:1」を「一般病床」から切り離す点では、厚労省と日本慢性期医療協会は一致するが、厚労省が「13:1」「15:1」を「療養病床」に移行させたいと考えているかは微妙。やはり、「老人保健施設に転換してください」という考えだろうか。この問題に関する議論は次ページを参照。


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