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「NICU補助金の削減に反対」-未熟児新生児学会が「仕分け」結果に抗議

 妊婦の救急け入れ不能の原因の一つとされるNICU(新生児集中治療管理室)不足を解消するための支援策を盛り込んだ事業が、「事業仕分け」で「半額計上」と判定されたことを受け、日本未熟児新生児学会(戸苅創理事長)は26日、補助金削減に反対する緊急声明を藤井裕久財務相らに提出した。(熊田梨恵)

 厚生労働省は来年度予算概算要求で「医師確保、救急・周産期対策の補助金等」事業に573億9700万円を計上。妊婦の救急け入れ不能問題の解消を図るため、周産期センターがNICUと、NICUを出た赤ちゃんが入るGCU(継続保育室)を増やせるよう自治体を支援する補助金が含まれていた。これまでの補助金はMFICU(母体・胎児集中治療室)にしか付かなかったため、慢性的な赤字経営とNICU不足に悩まされる周産期センターにとっては画期的な事業だった。このほか、同事業には医師不足や救急医療への支援策も盛り込まれていた。
 
 「事業仕分け」ワーキングチームは12日、同事業を「半額計上」と判定。この結果について同学会の田村正徳理事(埼玉医科大総合医療センター小児科教授)は、「今まで実施されている事業をやめるということにはならないと思うので、新規の事業が削られることになるだろう。NICUに関しては実質は『半額カット』ではなくて『ゼロ』になると思う」と危機感を示しており、緊急声明を出すに至った。
 
 声明は、藤井財務相と仙谷由人行政刷新相、長妻昭厚生労働相に送られた。
 
 声明の内容は次の通り。
 
 

<新生児医療を担う医師からの緊急声明>

 
 我々は、救急・周産期対策の補助金削減に反対します。
 是非全国にもっとNICU(新生児集中治療室)を増やせるようにして下さい。

 
 
 先日の事業仕分け作業で、厚生労働省医政局が所管する救急・周産期対策の補助金は削減との判定が下されました。削減の理由は次の通りです。
 
●一部の医療機関や医師に補助金という形で配ることが、医師不足、救急・周産期対策として効果を上げているのか疑問。
●医師不足問題は個別の補助金で解決する問題ではなく、むしろ、診療報酬の配分を抜本的に変更した上で、さらに、医師に関連する制度全体を見直さなければ解決できないのではないか。
●救急・周産期等の拠点的な病院に対する単なる収支差補填の補助金の要求が上積みされているが、本来、病院の収入確保は診療報酬で対応すべきであり、役割が重複。診療報酬の配分の抜本的な見直しにより対応すべきではないか。
 
 
 しかし、昨今の周産期医療体制崩壊の根本的な原因は、NICUの不足および新生児医療を担当する医師の不足です。NICUが全国的に十分に整備されない理由は、NICUの運営により病院が赤字になるからです。さらに、NICUで勤務する医師の勤務条件は過酷です。病院内で赤字を指摘され、好んで激務を引き受ける医師は当然少なくなります。この状況を唯一解決するのは新生児医療に対する財源の投入です。すなわち、事業仕分けで指摘されたように、診療報酬だけでNICUが赤字にならずに運営できるように診療報酬が改定されることが必要最低条件です。ただし、現在の新生児医療の窮状は、診療報酬の増収だけで短期間に解決できる状況ではありません。地域で必要とする病床の緊急整備およびそこで勤務する人材の新たな確保、さらには緊急受入れのための空床確保には、診療報酬以外の運営費が必要です。すなわち、NICUへの運営補助金が不可欠な状況です。NICU及びNICUの後方病床であるGCUへの新規補助金が削減されれば、新生児医療体制の整備は困難となります。新生児医療を担当する医師としてこのような状況は決して受け入れることはできません。是非ご配慮をお願い申し上げます。
 
平成21年11月26日
 
日本未熟児新生児学会理事長 戸苅 創

会員一同

 
 
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