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TPP問題、医療界が押さえるべきツボは―梅村聡参院議員に聞く

 世間を騒がせている環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への交渉参加問題。医療界への影響についても様々な意見が飛び交うものの、論点がどうもはっきりと見えてこない。医療界が考えるべきエッセンスを梅村聡参院議員(民主)に聞いた。(熊田梨恵)

 TPPへの交渉参加問題について、医療界への影響に関しても日夜様々な意見が飛び交っている。医療界での議論は、国民皆保険制度崩壊への懸念、医療法人や医療周辺産業への外国資本参入についての懸念、この二つに集約されそうだ。交渉参加自体に反対という意見が多く、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の3団体は2日の記者会見で「国民皆保険が維持されないならば参加は認められない」と公的医療保険にTPPのルールを適用しないよう政府に求める共同声明を発表している。しかし、各種の議論を聞いていても「懸念」ばかりで、具体的な部分が見えない。「TPPに参加してみないと分からないから仕方ない」との声もあるが、現時点で考えられることは他にないのだろうか。梅村議員にインタビューした。

熊田
TPP交渉参加に関する議論が医療界でも飛び交っていますが、いまいち的を得たものがあるように感じられないのです。日医なども反対を表明していますが、聞いていても反対の底が浅いと言いますか、議論が薄いように感じられます。

梅村
日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の三師会がTPP交渉の参加反対の表明をされました。国民皆保険制度の崩壊、医療本体や周辺産業への営利企業の無制限な参入によって医療の公益性が失われること、これらを理由に反対されていると思います。その危険性への懸念は理解します。ただ、なぜそういう事態が起こるのかという議論がなされず、仮定の話が多く「風が吹けば桶屋が儲かる」というような論調に終始したことが、医療界がJAと同じような抵抗勢力に捉えられてしまった理由だと思います。

熊田
確かにマスメディアの報道を聞いていると、JAと医師会がいっしょくたにされていますね。

梅村
関税に関する問題を抱えるJAと、別の懸念を抱える医療界が同じ反対会場の壇上で鉢巻を締めている姿には違和感を覚えました。農業の場合は関税を撤廃すると言われた場合の打撃の大きさを考えると、JAが反対するのは理解できます。医療界に懸念が生まれた理由の一つは、ISD条項(*)が導入されることによって海外の投資家から日本の公的医療保険の非営利性を訴えられた場合、日本は拒否できないという恐れがあることです。これについてはどこまで起こっていくものかは分かりません。ただ、ISD条項については今回のTPPで初めて導入されるものではありません。日本はISD条項を含む投資協定をいくつも締結していますが、これまで訴えられことはありません。
*ISD条項...政府と投資家間の紛争処理条項。投資家や企業が相手国に不平等な扱いを受けた時などに、その企業が相手国を訴えることができるという条項。世界銀行の傘下にある国際投資紛争解決センターが行う。

熊田
JAと医師会は同じ「反対」でも背景は違うのに、そこを整理して見せられないのは残念ですね。医療界はどう考えて行動していくべきでしょうか。

梅村
現実的には、もし本当に公的保険制度を無くそうとしたり、医療法人に営利企業が無制限に入ってこようとしたりすれば、国民健康保険法や医療法等の改正が必要になります。実際にTPPに参加するとなった時、一般論としては法改正をしなければ現行制度はそのまま残ることになります。だから日本の医療を守っていくために、どの国内法のどの部分を守っていくのか、その戦略を政治家や官僚と一緒に考えていくのが三師会というプロフェッショナル集団の役目ではないかと思います。ISD条項に関する件も整理が必要です。

熊田
先ほどISD条項の話も出ましたが、賛成派と反対派にはそれぞれの主張があります。先生ご自身はどうお考えなのですか。

梅村

私自身はずるい言い方かもしれないけど積極的な反対派でも推進派でもなくて、これからの交渉内容によりけりだと考えています。TPPに関してはいいことも悪いこともありますから、比較衡量を冷静に行うべきです。ただ、今はそういう場がないですよね。しっかり医療界がこの問題を考えていくため、医療界で賛成派の方と反対派の方々にそれぞれお話ししていただいて一緒に考えていくのがいいのではないかと思います。

熊田
ではこの続きとして、インタビューの企画も考えていきたいと思います。先生、ありがとうございました。
  
 
 
 
 
 
 
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