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ニュース〜医療の今がわかる

医療事故調検討会1

 続いて発言したのは、ロハス・メディカルでも大変お世話になっている辻本好子・コムル理事長。
「医療界。法曹界だけでなく患者もずいぶん変わった。昔はただただ人を恨むだけだったけれど、最近はどうもそれだけでは済まないということを理解してきている。ただ、では患者・国民が納得できるだけの情報が報告されているかと言えば決してそんなことはない」

 高本眞一・東大心臓外科教授
「医療に刑事責任を問うのは、医療の基本条件と相容れない。悪い結果が出たときには、背後にシステムエラーがあり、また患者さんの生命力がベースにある。それを誰か1人悪者にするのはおかしい。誤った時に医療だけが責任を取らされる。裁判官だって誤審するし、警官だって誤認逮捕するではないか。しかし、それを刑法で裁かれはしない。医療が高度化・複雑化して学ばねばならないことが増え、ただでさえ現場の医師は大変である。第三者機関が将来に目を向けるものになることを切に願う」
言っていることは、ごもっともだし、どうしても言わねばならんと決意を固めてやって来たのだろう。ただ、これを患者サイドが聞いた時にどう思うか、少々心配だ。


 と思っていたら、豊田郁子・新葛飾病院セーフティーマネージャーが痛烈な一撃。
「不幸な結果が出たとき、患者側は過失があるという立場からスタートしているので、過失がないという前提で関与するとボタンの掛け違いになる。ボタンを掛け違えた結果、過失があったかなかったかに関わらず不幸な結果になることを数多く見てきた。患者や家族が再発防止を願うようになるのは、事故からだいぶ時間が経ってからのこと。最愛の人を亡くした悲しみを受け止められずに、誰が一体何をしたのかという疑問・不信感を持つのは当然であり、その思いに応えるには再発防止目的の第三者機関だけでなく、別のシステムを作って連携することが必要だと思う」

 楠本万里子・日本看護協会常任理事
「キーワードは中立性・公平性だと思うのだが、今のところ議論が専門性に終始していると思う。その専門性を国民・患者さんへとつないで調整する役割の人が大切なんだろう。調整看護師の位置づけについても議論したいし、諸外国でどのような事例があるのか事務局にも調べてもらいたい」。
正直、唐突すぎて、流れの中にどう位置づけたら良い発言か理解できない。木下委員といい、組織を代表してくると、言わなければならないことが予め決まっていて、臨機応変にできないということだろうか。

混乱している所へ、鮎澤純子・九大医療経営・管理学講座准教授がチャキチャキと登場して救われる。
「1、第三者機関は患者だけでなく、医療従事者も強く願っている。現実に日本でもいくつか機関が試験的に動いている。
 2、第三者機関ができてからといって、医療機関が丸投げして済むものではない。まずは当事者がきちんと向き合うことが必要である。第三者機関ができることによって、検討の方法論などが医療現場へフィードバックされることも期待される。
 3、検討しても分からないことは必ず出てくる。分からないということを、どう国民の中で受け止めるのか、その議論や働きかけも必要である。
 4、樋口委員の述べた『将来に向けた真相究明機関』を持っている国というのは、私見では社会保障制度の整っているところだと思う。医療事故に遭って、その後暮らせなくなるようでは、未来志向になりようがない。原因解明を将来へ向けるためには、社会保障制度もセットで議論する必要があるのでないか」
「4」は、財源措置を必要とする話なので、厚生労働省からするとイヤな提起かもしれないが、そりゃそうだと思う人も多いのではないか。

 座長はどうやら、全委員にしゃべらせるつもりらしい。加藤良夫弁護士は冒頭に少し事務局に質問しているので、発言していないのは、あと2人。ブービーで登場したのは、山本和彦・一橋大学大学院法学研究科教授。
「民事訴訟が専門である。 医療訴訟には限界があるとかねてから考えていた。審理機関が短くなったといっても25カ月である。民事訴訟全体では7~8ヵ月に過ぎないので、やはり長い。しかも上訴率が40%に上る。この原因は、訴訟の場では専門的・中立的事実解明が行われ難いからで、第三者機関でそこが行われれば、その後で仮に訴訟が起きても早期決着が図られる。また訴訟では権利義務関係の法的確定しかできないので、被害者の求めるものを全て拾えるわけではなく、ADRも必要なんだと思う。それがワークするためにも、原因解明機関があって連携することは大切だと考える」
第三者機関ができたら法律家たちの良い商売のタネになる、ということが、いみじくもよく分かる発言である。そうねえ、これから弁護士も増えるもんねえ、と思わざるを得ず、この力学で議論が変な方向へ進まないようチェックしておく必要もあると思った。

 トリを飾ったのは南砂・読売新聞編集委員。この御仁、多くの厚生労働省検討会の委員に名を連ねており「御用記者」の言葉がまさにピッタリ当てはまると思うが、開いた口の塞がらない迷言で会議をしめくくってくれた。
「医療の持つ不確実性と国民・患者との期待値がズレている現実を感じる。たとえば500グラムで産まれた子供が無事退院したという話が、どんな子供でも助けられて当然となってってしまう。最先端の医療が報じられると、それが国民の医療に対する現状認識になってしまう。そして、そのズレが医療不信の根底にあると思う。たとえ、どんな組織を作っても、期待値と現実とのズレをすり合わせることができなければ恐らくうまく機能しないと思う」
言っていることは全くもって正しい。のではあるが、「あなたが言うな!」である。国民に誤解させている張本人がどの口で言うのか。そもそもマスコミがそういう報道しかしないから、『ロハス・メディカル』のような媒体が存在できているのだ。それとも、「記事を読んで誤解する国民の側に問題がある」とでも、言うつもりだろうか。いずれにしても自分のことは棚に上げてよくもまあ、である。

とにもかくにも、こうしてピッタリ2時間が経過し散会となった。

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