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命の薬 お金次第

自分や家族が命に関わる病気にかかったとき、飲み続ければ命が助かる特効薬を「飲まない」という人はまずいないだろう。ただしそれは同時に、「その薬を"一生"飲み続けなければならず、やめれば命の保証はない」という道を選ぶことでもある。この薬が高価で、手が届かないというほどの額ではないけれども、その経済負担が毎月じわじわと自分やその家族を追い詰めていくとしたら――。

実際にそんな薬がある。慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬「グリベック」(一般名:メシル酸イマチニブ)だ。その治療費負担の大きさに、自ら立ち上がった人たちがいる。「CMLの会」代表・野村英昭氏にインタビューした。(堀米香奈子)

――現在進めている活動を教えてください。

私たちは現在、署名活動を通じて「グリベックやインターフェロンで治療している慢性骨髄性白血病(CML)を、『高額長期疾病(特定疾病)にかかる高額療養費の支給の特例』の対象としてください」ということを国、具体的には厚生労働省に求めています。

――CMLは血液のがんですね。

はい。CMLはかつて、発病後しばらくして急に病状が悪化し、必ず死に至る病気とされてきました。生きるには、リスクの高い骨髄移植しかないとされていたのです。しかし20年ほど前に、新しい化学療法としてインターフェロンが登場し、長く生きながらえるできる患者がわずかながら出てきました。私も実はその一人なんです。さらに2001年12月には、遺伝子標的治療薬「グリベック」が発売され、以降、長期にわたって生きられる患者が急増しました。咋年12月に米国血液学会で発表された投与7年時点での全生存率は86%、さらにCML関連死に限定すると94%の生存率だったと聞いています。これは画期的です。副作用も格段に少なく、注射や点滴でなく飲み薬ということも、患者にとってはありがたいことです。結果として患者のQOLも向上してきました。

しかしながら、問題が2つあります。まずは費用が高額であるということ、それに加えて、治療を一生続けねばならないということです。

――費用はどれくらいかかるのでしょうか。

ちょっと計算してみましょう。グリベックは、1錠あたり3,200円強します。一般的な治療で1日1回4錠を服用するのですが、保険が利くので自己負担3割として、1日あたり4,000円弱。これが1ヶ月では、116,000円程度の負担になるところ、長期の服用になるため、高額療養費の「多数該当」という制度の適用を受けることができます。結局、毎月44,400円は負担です。インターフェロンも同じような負担です。年間53万円余といったところです。インターフェロンも同じような額です。なお、薬を2~3ヶ月分まとめて処方してもらい、負担を軽減している患者もいますが、状態が安定していて医師の理解があることが必要なため、それができない患者や、このやり方を知らない患者も多くいます。いずれにしても主治医の提案でこうした工夫を初めて知るケースが非常に多く、医師の協力が必要なこともあって、事実上、患者の経済負担について気にかけてくださる先生と関心の低い先生、診てもらう医師で負担が大きく違ってしまっているというのも問題です。

――そのあたりは、一般的ながんの治療などと比べても、さほど高額には思えませんが。

問題は、場合によっては何十年もその支払いを続けなければならないことです。というのも、事実上、グリベックにしてもインターフェロンにしても、やめれば昔に逆戻りする可能性が高いのです。実際、飲むのを中断したために異常細胞が復活したケースが報告されています。そのため、結局は一生飲み続けなければならないのです。そして生きている限り、最低でも月額50,000円程度の出費が延々と続くというわけです。10年では550万円超、20年では1,000万円超。例えば20歳代で発症したら、一生のうちに何千万円かかることだってありえます。一般の所得の国民の感覚からすれば、そうした金額は甚大、個人的な節約の努力で賄える範囲を超えていますよね。

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