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ニュース〜医療の今がわかる

格差社会に必要なのは"ゴッドハンド"でなく"標準治療"

 
■"ゴッドハンド"ではなく"標準治療"のボトムアップが必要
--こうした資源の限界と格差がある中で、どういう医療が考えられるのでしょうか。
 
産科の中でも技術格差は確かにあります。例えば大学病院のような新しい技術のある先端施設と、開業医が婦人科の小さい手術をしているところでは、使う器具、糸一つからしても違います。治療技術の間にも格差はありますし、所得の格差もあるでしょう。ただ、患者さんがどんな地域にいてもある一定の医療、標準治療を受けられるようにする必要はあります。周産期医療にはそれが求められているし、ガイドラインで提供する医療のボトムアップを図ることが必要です。例えば、誰もができる標準治療の組み立てをきちんとして、前置胎盤なら出血を減らすというようにしていくことが大事だと思います。いわゆる"ゴッドハンド"と言われる「この人がやらないと出血が止まらない」というようなのは、今の苦しい産婦人科医療には不要です。
 
7、8年ぐらい前から、誰もがやって誰もができる手術や診察の方法が求められているように思い、少しずつ院内で組み立ててきました。疾患ごとのクリティカルパスを増やし、院内の診療の標準化を図りました。切迫早産や前置胎盤なども入院基準を明確にし、入院後の取り扱いも統一しました。特別な治療を導入したのではなく、従来の治療や管理を、最新のエビデンスをもとに再構築しました。実際行われていることは「そんなことでいいのか」というようなことですが、その組み立てを修正することで大きな効果を生みます。特に前置胎盤や早産に関しては隔世の感があります。"神の手"は、今の周産期医療には必要ありません。
 
 
■「セミオープン」で連携強化し、母体搬送減
--中井先生は、リスクの低い妊婦は妊婦健診を身近なクリニックで受けて、永山病院でお産をするという産科のセミオープンシステムを永山病院で始められましたね。全国にも少しずつ普及しているようです。
 
セミオープン図.JPGこのシステムでは、妊婦さんは自宅の近くで健診を受けられて、緊急時や分娩時に当院での診療を受けられます。当院にとっては、外来診療の負担が減って、その分ハイリスク妊婦の診療に集中できますし、より多くの母体搬送を受け入れられます。クリニックにとっては当院の管理方法を導入することで診療が標準化されますし、紹介や搬送が円滑にできるようになります。
 
当院ではかつて31週未満の早産の割合が2.5%と高かったのですが、今は1%を切るようになりました。また、当院にはNICUはありませんが、分娩が年間900件ある中で母体搬送は4--5件と、かなり少なくなっています。これは院内の早産治療を標準化した効果です。しかし、セミオープンシステムを導入した後もこの成績はかわりません。これは、連携施設における診療が標準化されてきた証拠で、セミオープンシステム導入により、広義の地域連携クリティカルパスが出来上がりつつある結果と考えています。
 
日本産婦人科医会が実施したアンケートでは、このシステムを利用した妊婦さんで「このシステムが良い」と答えた人は48.2%、「医師不足のためやむを得ない」が29.2%、「同一施設での健診・分娩がよい」が21.0%という結果した。したがって、妊婦さんにとってもある程度は受け入れていただける方法だと思っています。
 
--限られた資源の中で、効率的な医療提供の仕組みを作るということですね。
 
今のキーワードは「格差」です。医療のボトムラインに線を引いて、地域の隅々で行われる医療が標準治療として同じであればいいと思います。"神の手"を求める人はそれがあるところに行けばいいので、そういう格差はありだと思いますが、国民が受ける医療が皆"神の手"じゃないといけないかというとそうではない。盲腸まですべて「○○大の~教授に」というのは違うと思う。地域の実地臨床家であってもこういうガイドラインを設けてやっていけば安全だと、十分に満足できるものだと国民側も理解していけるといいと思います。先端研究も必要ですが、臨床には従来誰もが当たり前にやっていた医療を、どう組み立てれば効率のいい医療にして提供できるかというもっとベーシックなものが求められていると思います。患者を診た医師が、自分の手に負えるか追えないかのジャッジができて負えなかったらどうするかというその連携ができていれば、患者皆が総合センターに来る必要はありません。そういう指針の下での標準治療が必要です。それが今限られた資源の中でやっていけることだと思います。
 
 
 
(略歴)
1983年 日本医科大医学部卒業、同大大学院医学研究科入学
87年 日本医科大付属第一病院産婦人科医員助手
96年 スウェーデン王立ルンド大学実験脳研究所客員研究員
98年 日本医科大講師
2002年 同大助教授、日本医科大多摩永山病院女性診療科・産科部長
2006年 日本医科大教授、日本医科大多摩永山病院副院長

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