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医療政策に総意形成プロセスを-森臨太郎氏インタビュー②

 森臨太郎氏(東大大学院医学系研究科国際保健政策学准教授)インタビューの第2回です(前回はこちら)。今回は、このガイドラインの作成過程に関する考え方が医療政策全体に通じるというお話を伺いました。エビデンスの取りまとめや納税者の視点に立った費用対効果分析、医療者と患者の情報交流にもつながる総意形成手法といった部分にポイントがありそうです。(熊田梨恵)

■学会丸投げは患者視点失う
熊田
「NICEでもその総意形成の方法は根付いたのですか?」
 

「全くエビデンスがない部分とか、そういうところは総意形成で作らざるを得ませんし、しっかりと方法論として根付いています。日本も『話し合いを基に総意形成をしていきましょう』と言っているのですが、そういうガイドラインはほとんどありません。こういう部分が作成過程における問題点ではありますが、もう一つ、日本のガイドラインは学会が作りますよね」
 
熊田
「そうですね。大体どこかの学会が作成しています」
 

「学会は専門家集団なので、当然偏りが出ます。それは当然で、新生児科医だけが集まれば新生児科医に有利なものになります。例えば、小児の中耳炎のガイドラインで、小児科医と耳鼻科医の作ったもので内容が違うということがありました。患者さんにとってはそれでは困りますよね。それぞれの医師には違う意見があるわけですけど、患者さんは自分の状態にとって最も適切な一つの事をされたいので、それぞれの違う意見はどうでもいいのです。NICEの場合は、学会から独立しながらも、一緒に作ります。帝王切開をどういう手法で、というのは学会がやります。でも、もう少し一般的な、発熱したらどうするかとか、正常出産をどう扱うかとか、そういった幅の広いものは学会に関係なく国がお金を出して作ります。日本は学会丸投げなので偏りが生じてしまうのですね。そこも日本のガイドラインの問題点だと思います」
 
熊田
「なるほど、国が請け負う分野と、学会が担う分野が別れているのですね」
 

「もう一つは、英国は国策でやっているので、ガイドラインを作ると国中にそれを導入する形になります。ガイドラインは法律ではないので100%遵守する必要はないですが、どれぐらい遵守しているかは監視され、予算に関係します。だからみんな一生懸命遵守します。作った後、導入されたことによってコスト削減になり、質が上がったかというシミュレーションも地域ごとにできるようなツールも作ります。中身をプレゼンテーションして使用しやすいようにスライドのセットにしたものも作成して配布しますし、遵守したらどうなるという評価指標もセットで作ります。日本のガイドラインは作って本を出して終わりで、守られているかどうか分からないですよね、それが大きな違いです」
 
熊田
「導入から評価指標のツールまで考えられているとは、『作って終わり』ではないわけですね。ところでちょっと気になるのですが、『ガイドライン』というものは『マニュアル』とは違うんですか?」

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