なぜ、医師を増やすの?
■ 「粗製濫造、青天井の医師養成になってしまう」 ─ 濱口副座長
[濱口道成・副座長(名古屋大学総長)]
現場で学生教育をやっている立場で、今までの議論で出ていないことについて申し上げます。医師の養成はですね、まず申し上げたいことは非常に時間が掛かるんですね。
医学部を6年で出たら、そこから現場でキャリアを積んでいろんなギリギリの条件の中でやって、ようやく一人前、独り立ちできる。ですから、今医学部の定員を増やして......。
これが人材として使えるようになるのは15年、20年後になるんですね。ですから長期スパンの予測を立てて動いていかないと、数の議論といってもですね、単純に今100人増やしたら100人の効果が出るという話では全くないということをご理解いただきたい。
もう1つ、恐らく日本はこれからどんどん人口減少になっていきます。2050年には現在の1億3000万人が9000万人ぐらいになりますね。
で、その時に一体どうなるのかということを想像しながら考えていかなければいけない。今、2010年に学生を採っても、この人たちが実際に使えるのは2040年頃になります。その時には人口がずいぶん減っているんです。「あ、こんなはずではなかった」ということにならないように考えないといけない。
ですから、医師の養成というのは現時点はですね、従来の右肩上がりの日本社会の構造に基づいて設計してはいけないと思うんですね。もっと柔軟なシステムを新たに開発しなきゃいけない。
で、そこのところでどういうことを考えていかなきゃいかんかと言ったときに、今、この直近で1500人程度増やしている、この人材よりもですね、まず効率的な使い方というのをまず検討していかないと......。
公共性というのは常にですね、政権をどう使うかという問題もありますので、そこをご理解いただきたいと思います。
現場は今、非常に疲弊しています。もともと100人の医学部に120人。ですから、まずそこの所のカバーをしっかり手当てしていただくということをやらないとですね、粗製濫造にどんどんなっていきます。(中略)ですから、質のコントロールというのが非常に大事なんです。(中略)
2番目に、先ほどから議論に出ておりますキャリアパスの問題があります。例えば、地域医療を支えると言ってですね、金銭的に縛りをかけてですね、6年終えて9年、その地域で働きなさいと言ったときに、へき地で1人、2人でやっていた人間がですね、10年経ったら最先端の医療が理解できないんですよ。
まして外科をやれと言ったらですね、一番不足している外科医はそこではつくれないんですね。学士入学も同じなんですね。30過ぎて入ってきたら外科医なんてできないです。
20代に徹底してしごいて、ようやく一人前の外科医になる。ですから、質のコントロールというものがものすごく大事で、効率的に税金が使われるような、そういうコントロールが必要だと思います。
女性医師の問題も出ていますけれども、これ、ネガティブな要素で考えてはいけないと思います。女性の患者さんはやっぱり同姓の医師に診ていただきたいというのが9割方の要望なんですね。
問題は、なぜ35歳で......なるかと言ったら、「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和推進)が崩れるからです。そこの所のバックアップを社会的にうまく進めないとですね、ただこう、税金を使ってですね......。(中略)
それから、3番目の問題として中小都市の基幹病院です。ほとんどは市民病院です。そこの医師が足りない。立ち去り症候群とか、燃え尽き症候群とか、40代半ばである日、バーンアウトしちゃうんです。もー耐えられない。土日もずっと夜中まで働いている。(中略)
1つは、バックアップするシステムがうまく働かないと。コメディカルを含めてですね。それから、市のサポート、いろんな公共的なサポートなしでやりますと、医師をいっくら投入しても、水漏れのようにですね、どんどん消えていきます。(中略)
これ(バックアップ)を抜きにしてですね、(医学部定員増を)やったら、もう青天井の医師養成になってしまう。一体、何をやっていたか分からないと思いますので、正確な議論が必要だと思います。
[安西祐一郎座長(慶應義塾学事顧問)]
ありがとうございます。平井委員、どうぞ。
【目次】
P2 → 「日本が医療分野で世界に貢献し名誉ある地位を」 ─ 鈴木副大臣
P3 → 「世界最高水準の医療を続けていくために」 ─ 安西座長
P4 → 「医師数は年々増えている」 ─ 厚労省医政局
P5 → 「医師が何人働いているんですか?」 ─ 山本委員
P6 → 「現在の医学部定員は限界に達している」 ─ 矢崎委員
P7 → 「地域医療が崩壊している」 ─ 中川委員
P8 → 「新たな医学部を立ち上げた方が早い」 ─ 今井委員
P9 → 「医師のアロケーションの問題が大きい」 ─ 片峰委員
P10 → 「今の医療資源をどう有効活用できるか」 ─ 栗原副座長
P11 → 「現在のOECD平均3.1人を超える時代が来る」 ─ 黒岩委員
P12 → 「福祉的な面の医療が不足している」 ─ 桑江委員
P13 → 「すぐ医師を増やすか医療全体から考えて」 ─ 坂本委員
P14 → 「基礎研究に入ってこられる環境づくりが大事」 ─ 妙中委員
P15 → 「医薬品の研究開発に医師が必要」 ─ 竹中委員
P16 → 「様々な病院を循環できる制度づくりを」 ─ 丹生委員
P17 → 「医師の業務拡大という広い意味で考えて」 ─ 永井委員
P18 → 「医学部の新設は到底あり得ない」 ─ 中川委員
P19 → 「既存の医学部を強化していく」 ─ 中村委員
P20 → 「精度の高い調査を目指すことが必要」 ─ 西村委員
P21 → 「粗製濫造、青天井の医師養成になってしまう」 ─ 濱口副座長
P22 → 「周辺領域と合わせて定員の議論を」 ─ 平井委員
P23 → 「モデル事業として新しい構想の医学部創設も」 ─ 矢崎委員
P24 → 「若手の研究者が非常に少なくなっている」 ─ 山本委員
P25 → 「ジグゾーパズルを全部はめ込んで絵にする」 ─ 安西座長
P26 → 「アジアの若者を日本が育成する視点を」 ─ 鈴木副大臣
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