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ニュース〜医療の今がわかる

本来の「根拠」と「総意」に基づくガイドラインとは?-森臨太郎氏インタビュー①

 
■作成時に費用対効果分析を実施

「プロジェクトマネージャーとして出産のガイドラインを作りました。同様に小児の尿路感染症のガイドラインも作りました。後者は英国の小児科学会が初めてNICEと一緒になって作ったものでした。その二つのガイドライン策定が、私のイギリスの医療政策にかかわった大きな経験です」
 
熊田
「ガイドラインというのは、一般的に決まった作り方というのがあるのでしょうか」
 

「ある程度の"お作法"というのはあります。最先端でやってきたのがNICEですが、ガイドラインの作成過程のお手本のようなものは作られていますので、ある程度それに沿ってやります」
 
熊田
「一般的に、どんなふうに作られていくのですか」
 

「最初の数週間は、ガイドラインがどれぐらいのどの分野でどれぐらいの範囲までを扱うかを示します。それを一般に公表し、広く皆さんの意見を問います。それが最初の3~6カ月。終わったらこれを基にそれぞれ臨床上の疑問となる項目を20個ぐらい作り、それに対して『系統的レビュー』を行います」
 
熊田 
「すみません、『系統的レビュー』とは何ですか?」
 

「『システマテックレビュー』というのですが、テーマに関連した質の高い研究をすべて整理してまとめるという作業です。英国では、1992年にイギリスの国民保健サービス(National Health Service: NHS)の一環としてコクラン共同計画が始まりました。世界中の臨床試験を集めて質を評価し、統計学的に統合して、その結果を医療従事者や医療政策の立案者、国民に届けて合理的な意思決定につなげていくものです。その作業をして一つ一つの項目にエビデンスが集まりまとまると、皆さんに集まってもらって、『こういうエビデンスがあったが、出産のこういう行為に関しては、どうしましょうか』と話し合ってもらいます。最終的には総意に基づき推奨を作ります。中には、これに関しては費用対効果分析をした方がよいのでは、という項目が出てきます。新しい技術も検討されますので、お金がかかるけど国としてやった方がいいのか、という客観的判断が必要ということです。こういった場合には費用対効果分析をします」
 
熊田
「どこまでお金をかけるかという費用対効果について、ガイドラインを考える時点で取り入れているんですね」
 

「NICEを有名にした項目の一つが技術評価の一要素である費用対効果分析です。エビデンスを集めて、次にシミュレーションします。例えばAとBのサービスの手法があるとして、Aだとこういう効果が出て、こういうマイナスが出る。Bではどうか、というのがエビデンスで集まります。そして全部含めて皆さんトータルで健康度はどれぐらい上がるのか、それに対してどれぐらいの投資が必要なのか、どれぐらいの投資をしたらどれぐらいの効果が上がるのかというシミュレーションをします」
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