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ニュース〜医療の今がわかる

「標準医療の底上げで、救える命を救う」森臨太郎氏インタビュー③

 森臨太郎氏(東大大学院医学系研究科国際保健政策学准教授)インタビューの最終回です。国民全体の医療を向上させるには、先端医療の開発よりも今ある医療を標準化し、底上げすることが必要と伺いました。今年度から始まった戦略研究で、森氏は実際に標準医療の底上げに取り組み始めています。(熊田梨恵)

■インタビューの第1回第2回。記事中に出てくるガイドラインの説明はこちら、ガイドラインはこちら
 
■情報共有の限界知った制度設計を
熊田
「そうですね、そこが変わらなかったら、政権が変わったとしても、誰が何をしようとしても変わらないですね。でも、そう変わるためには何が必要になってくるのでしょうか? どのポイントが変わると自分たちでやっていこうという意識に変わるのでしょうかね」
 

「そこは自分の一番大きいテーマです。日本の医療現場で一番変わらないといけないのは、全体のガバンナンス意識がまずあると思います。これは医療だけでなく全ての分野においてですが、日本という国が次の新しい段階に行く時、政局だけで物事が変わるのではなくて政策で変わるようになっていかなければいけません。医療の政策は残念ながら専門家にしか分からない世界です。じゃあ全ての情報を国民で共有できたら変わるんじゃないかとも思いますが、それには限界があります。医療という少し込み入った世界の話について、全ての一般市民の方と完全な情報共有することは残念ながら難しいと思った方がいいです。もちろんできるだけ努力はすべきですが、どこかに限界があります。限界があると思った上で制度設計をする必要があります」
 
熊田
「確かにそうですね、全部を共有するというのは難しいと思います。でも、どんなふうなシステムが考えられるのでしょうかね」
 

「一つ面白いのは、スウェーデンでは地域ごとに医療の予算が決まります。予算を決めるのは何かというと、地域の自治体や国ではなくて、住民が直接選挙で選ぶ『医療委員会』です。そのメンバーが非常に強い権限を持っていて予算を配分します。赤字になれば当然彼らは糾弾されます。持っている財源の中でやらなければいけません」
 
熊田
「そんな委員会があるのですね」
 

「彼らになぜこんな強い権限があるのかというと直接選挙で選ばれているからです。ただ、彼らは強い権限といっても政治家ではありません。国の中には経済、金融、医療、福祉、教育などの様々な分野があって、それぞれに問題があります。でも一人の政治家が全ての知識を把握できるわけがありません。地方の議員も同様です。そうしたら今度は新しい方法として、地域の人が医療だけの議員を選ぶというのは一つの在り方なんじゃないかと思います。『私には情報がないから決められないけど、あの人は信用できるからあの人に私の事を決めてもらおう。でも変な事をしたら絶対投票しないから』ということで、緊張感もあります。これは面白い方法だと思います」
 
熊田 
「なるほど。委員自身にはどんなメリットがあるのですか?」

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