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ニュース〜医療の今がわかる

村重直子の眼14 熊田梨恵・『ロハス・メディカル』論説委員(上)


熊田
「個人的には、アメリカの医療の話がすごく面白かったです。そうなんだと思って」

村重
「アメリカの医療や海外の話など、どこの国では、ってよく言われますけど、そういう話はその人にとって都合のよい話だったり、ほんの一面だけを切り取ってきていて、それがその国全体を反映しているわけではないですよね。仮に『アメリカの医療は素晴らしい』みたいな話があったとしても、アメリカの国民全員がその素晴らしい医療を受けられているかというと全然違う。日本に入ってくる情報には、ものすごくバイアスがかかっているんですよね。私自身も日本に帰ってきてから、アメリカでは、と聞く話が『嘘ばっかり』と思うようなのばかりなんです。だから、他の国の話も、まずそのままは信じなくなりました。その裏にはそれぞれの国の歴史なり文化なり国民性があって、国民のニーズが違うから、ほんの一部分こういう表現型で見えますよっていうだけのことですよね。私はニューヨークで診療していたので、アメリカのことは、大体感覚的にその裏まで分かるから、そんなの違うでしょ、本当はこうなんだし、全然違う面もあるし、バランスや多様性の中でほんの一部に過ぎないことが分かりますけど、医療以外の、私にとってよく知らない分野でもそういう話がきっといっぱいあるんだろうなと思うから、注意して読まなきゃいけないと思います」

熊田
「いつも国際比較でアメリカのいい話ばかりが出てくるので、これを読むと、『そうなんだ!?』、と思う人もいるんじゃないかと思いますね」

村重
「極端な言い方をすると、私にとってアメリカの医療というのは、今、日本の医療がどんどん進もうとしている方向の、なれの果てなんですよ。本当に日本があんなになっちゃうかはわからないですけど、でも方向性としてはどんどん似ていっていて、しかもそれを望んでいるというか、アメリカではこうやっているから素晴らしい、真似しようという方向性にある。でも、それだと国民は不幸になるんですよ。訴訟はどんどん増えて、訴訟が増えると、訴訟ケースに関わる人だけじゃなくて、その他すべての国民がそのデメリットを被るんですよ。訴訟リスクが大きいために、ディフェンシブ・メディスンになって要らない検査もするようになる。アメリカではクックブック・メディスンといって悪いこととして言われますが、日本では標準化や均てん化と称して良いことのように言われるのが、この患者はあてはまらないかもしれないけど、ガイドラインに書いてあるからやっておこうというように、目の前の患者さんに最適化できなくなっていくわけじゃないですか。それは、医者だってそんなことしたくてやっているわけじゃなくて、世の中がそうなっちゃうから、国民のニーズがそうなっているから、せざるを得ないのであって、それはみんなにとって不幸なんですよね。患者にとっても医療者にとっても、国民全体にとっても不幸なことで、そういうアメリカのような、なれの果て医療になりたいと、真似したいと思っているんですか、このまま進むと、この先にはそういうことが待っているんですよということを、この本から少しでも感じてもらえるといいなと思います」

熊田
「ただ、医師のトレーニングのシステムなんかは、すごくよくできているなあという印象を持ちますね」

村重
「ええ、できてますよ。できてるけど、日本だって昔はできていたんですよ。だって歴史の上に成り立っているわけですから、長い年月をかけてその国の国民のニーズに対応するシステムができています。医療なので相手、患者さんが必ず存在する。トレーニングのためだけに医療者の都合だけで合理化するなんてできないわけじゃないですか。国民のニーズに応え、国民の医療を支えながら、その国の歴史・文化の中で成り立ち得る医者の教育システムというものがそれぞれあるわけですよ。日本にはあったんですよ。日本でも、色々な批判もあったけれど、長い年月の積み重ねを経て合理化してきた、それなりにまあまあうまく回ってたわけじゃないですか。誰にとっても100%理想的なんてことは、どこの時代にもどこの国にもあり得ないんですから。それなりに回っていたのに、アメリカの一面だけを真似て臨床研修制度を入れたために壊れたわけですよね。そんなふうにアメリカを真似ることがいいんですかと。もちろんいい部分はあるけれど、一部分だけを入れようとすると、一緒にマイナスの部分もゴッソリ入ってくるわけですから。どんなに危険なことか」

熊田
「医療だけじゃなくて、どこの分野でも国際化に伴って必ず出てくるような話ですね。その時にそういうことまで含めて考えていかないと危ないですね」

村重
「危ないですよ。意思決定する政治家が、それだけの情報量、情報収集力や、情報を集めるスタッフの人数をどれだけ持てるかにかかっているので、政務スタッフを増やすべきだと考えています。官僚の利害関係で動く人ではなくて、国民の利害を考えながら情報収集できる政務スタッフがどれだけいるかなんですよ、そしてそれがどれだけ多様性を持つかなんですよ。現状では、大臣になると一人だけ部下(政務秘書官)をつれていけますが、副大臣と政務官は誰も部下をつれていけない、たった一人で何万人規模の官僚組織に入るのです。普通なら、官僚のいいなりになって当然ですよね。政治家の腹心の部下として働く政務スタッフが、もっともっとたくさんいなければ、国民目線での情報収集はできません。大臣・副大臣・政務官に限らず、与党も野党も1人ひとりの議員がそういうスタッフを持たないといけないし、そうでなければ政治家としてまともな政策の議論はできないはずですよ。いくら政権交代したって、情報源が同じ官僚だけでは、同じような政策しか出てこないですよね」

(つづく)

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