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ニュース〜医療の今がわかる

「家族が強くなれば、施設も変わる」―認知症患者の介護家族の声①

それゆけ!5月号表紙.JPG
 
 「ロハス・メディカル」関西版の「それゆけ!メディカル」4月25日号の表紙写真は、兵庫県西宮市で在宅介護をされている4人の方にご登場いただいています。在宅で認知症の家族を介護することへの思いや悩みなどについて、皆様に伺ったお話をお届けします。(熊田梨恵)


戸牧一枝さん.JPG
  
 取材のきっかけは、西宮市で介護家族や医療・介護者、近隣の方などが集まって情報交換したり、介護について勉強したりする「つどい場さくらちゃん」に伺ったことでした(こちらの記事も後日)。それぞれのお話から、在宅介護に関する様々な問題点が見えてきました。
 
 トップバッターは戸牧一枝さん(69歳)。夫の徳義さん(71歳)は6年前にアルツハイマー型認知症を発症し、在宅介護を経て今は特別養護老人ホームに入所しています。以前は寝たきりで点滴を受けていた徳義さんですが、今では認知症の薬もやめて普通に食事をするほど体力も回復しました。戸牧さんのお話からは、家族がためらわないで積極的に医療者や介護者に働きかけることによって、本人だけでなく介護する側の状態も向上していくことが分かります。
 
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■認知症を受け入れるという葛藤
 
――最初はどんなふうにご主人の様子に気づかれたのですか?
 
生活の中でちょっと変だなと思うことがありました。同じことを繰り返して言ったり、慣れている道を間違えたりするようになってきたんですね。娘がロンドンに留学していたので旅行に行ったことがあるのですが、朝ホテルで「たばこを吸いに行ってくる」と言って外に出て、そのまま13時間ぐらい、夜まで帰って来なかったんです。私たちはとても心配していましたけど、大使館員の方が無事に連れて帰ってくださって、その時も悪気はない様子で「ごめん」とも言わなかったんです。自分で帰ってくるという努力ができなくなってきているのかなと思いました。そして近所のクリニックを受診するとアルツハイマー型認知症の中等度と言われました。
 
――それからは在宅で介護をされていたのですか? お薬とかも飲まれながら?
 
アリセプトを出してもらっていて、投薬と介護保険を使いながらの在宅介護でした。初めてデイサービスに行く時、夫は自分が一人で行くのかと不審に思っていたと思います。私も夫がどんな気持ちで行ったのかと思うと、送り出してから泣いてしまいました。でも帰ってからは「行ってよかった。隣のおばあさんに手を貸してあげるとありがとうと言ってくれた」と、すごく嬉しかったと言っていました。夫は営業マンだったのですが、ありがとうと言われると仕事のことを思い出すみたいです。デイサービスの請求書も給与明細と思って受け取っているようでした。
 
――デイサービスはご主人にも合っていたのですね。
 
でもその後、デイサービスの帰りに初めての失禁があったんです。主人は初めてのことにもうろうとしていて、とてもショックだったんだと思います。家に帰るなり玄関でカバンを投げつけて悔しそうにしていました。主人は着替えた後でしばらくテレビを見ていて、私は離れたところで汚れたものを洗っていました。するといつの間にか主人が私の隣に来ていて、「ありがとう。ごめん」と言ったんです。男の人は「ごめん」なんて普段は絶対言わないのに、私にそう言ったということは苦しいんだろうな、病気と闘っているんだろうなと思いました。私たち家族も、同じことを繰り返して言ったり道を間違えたりしてもいつもと変わらない普通の姿なので信じられなかったし、病気を受け入れられなかったのですが、この時に間違いなかったんだと受け入れられました。
 
――ご主人もとてもショックでおられたのでしょうね......。
 
本当にとても苦しんでいたと思います。最初はオムツも嫌がっていました。娘がオムツにキャラクターや夫の顔の絵を描いたりしてくれていましたが、やっぱり嫌がっていました。でもある朝、置いていたオムツがなくなっていたんですよね。夫が初めて自分でオムツをはいた時の思いを思うと、本当にどんな思いではいたのだろうと......。それまでは離婚届を持っていて、いつ離婚しようかなんて思っていたんです(苦笑)。でも、そういう夫の姿を見ているとかわいそうと思い、一生一緒に病気と闘っていこうと思いました。とても闘っていて、本人にとって苦しい時期だったと思います。「もしかして、ひょっとして......」と自分について思う気持ちがとてもかわいそうだと思います。そう思うと憎めなくて、闘っているんだと思うと......。本人にとってはとても酷な病気だと思います。
 

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