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ニュース〜医療の今がわかる

〔新生児医療の教育現場から④〕大学病院にNICUを充実させるのは今―教育と人材確保を

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インタビュー
大阪大学医学部附属病院
総合周産期母子医療センター 和田和子氏

 「今、大学病院にNICUを充実させるための追い風が吹いています。この波に乗って卒前教育を充実させ、人材確保につなげるべき時です」-。国内で相次いだ妊婦の救急受け入れ不能問題を受け、手薄だった国立病院NICUを充実させるために国も本腰を入れ始めた。「大学病院」という組織にあるNICUに求められる役割は何なのか。「大学病院は周産期センターほど忙しくなくていいのです。余裕を持った教育や研究体制が必要です」。10年にわたり、大学病院で新生児医療に携わる和田和子氏に聞いた。(熊田梨恵)

■〔新生児医療の教育現場から①〕若手医師から医療界に提言し、現場を変える
■〔②〕主治医制と交替勤務制、よりよい労働環境は?
■〔③〕責任と自覚を持たされれば、研修医は育つ
■NICUについての詳細は、こちら
 
(背景)
 日本の新生児医療は、人手もお金もかかるなどとの理由から、大学病院では敬遠されてきた経緯がある。日赤病院などの准公的病院やキリスト教系の一般病院を中心に発展し、周産期母子医療センターが妊婦や新生児の医療に大きな役割を果たすようになったため、大学病院のNICU環境は周産期センターなどと比較すると手薄な感がある。しかし、昨年大きく報道された妊婦の受け入れ不能問題を契機に、文部科学省も大学病院のNICU設置状況を調査し、未設置の大学の整備を求めて予算を設けるなど、力を入れ始めている。
 
 
――どのような経緯で、阪大で新生児医療に関わるようになられたのですか。
 
最初は大阪府立母子医療センターなどにいましたが、医局から阪大に戻るように言われ、新生児を診るようになりました。当時は大学にNICUはありませんでしたから、ベビー室で、小児科としてそれぞれの専門を持っていた医師が当番で診ていました。
 
――阪大は2004年にNICUを設置されたということですが、なかったところに設置するというのは大変だと思います。どのようなところでご苦労されたのでしょうか。
 
それまでも難しい症例は診ていましたので、その延長で整備されていったような形です。大変だったのは、やはり人の問題です。当直ができる小児科医が5、6人必要になりました。当時、新生児専門で診られる医師はごく少数でしたから、専門でない先生方に負担がいくことになりました。産科からのプレッシャーも感じるようになりました。NICUが受けられなかったら妊婦さんを受けられないですから、無理にでも引き受けていたこともあります。
 
――文部科学省も昨年大きく報道された救急受け入れ不能問題をきっかけに、国立大学病院の整備に本腰を入れ始めましたね。今年度、NICU増床や人材育成に関する事業に17億円を計上しています。
 
■NICU増床、多くの病院が「歓迎」
私は、これは大学病院への追い風になると感じています。この事業については、ただでさえ過酷な労働環境なのに人を増やすことは難しいとか、医師の引き上げにつながるなど、否定的な意見も聞かれました。ただ、私が調べたところによると、意外なことに多くの大学病院がこの計画を歓迎していました。NICUを充実させて看護体制を強化できるとか、満床を理由に受け入れを断っていたがこの整備で救われたとか、さまざまな感想がありました。一方で、人件費には使えないことに対する不満とか、後方病床の充実を求める意見もありました。ちょうど増床したいと考えていた大学に"はまった"事業だったのではないでしょうか。

■臨床研修制度見直しで、進路決定前倒しに 
――大学病院のNICU充実にはつながったということですね。
  
医学教育という側面から考えれば、他にも影響する要素があります。厚生労働省の方で、臨床研修制度が見直されました。これによって産科や小児科を希望する研修医は1年目から産科小児科コースを選択するか、2年目からほぼ選択研修にするか、という形になりました。つまり、希望する科が決まってない研修医が選択必修で産科小児科を選ばなければ、研修の機会はないということです。こうなると、進路決定の時期が前倒しされてきますよね。そして、今年度から医学部の定員増が決まり、恒常的に400人増員していくことが決まりました。こうなると、卒前教育がかなり重要になります。
  
――学生のうちに周産期医療を学べる機会がないと、その後も選びにくくなってしまいますね。
  
卒前にNICUでの教育を必修にしている国立大学病院は41%、私立でも54.5%と、全体だと半分にもなりません。また、約1割の大学病院で新生児の専門外の教官が新生児学を教えているという実態もあります。在学生の声を聞くと、周産期に興味を持ったのは卒前研修だったという声があり、周産期実習の充実を求める声もありました。
  
このように、学生時代での教育がかなり重要になってきますから、大学病院はこの波に乗るべきだと思います。人材確保を意識した卒前教育を行い、地域の周産期センターと連携を強めて教育や研修のコーディネートを行っていくことが必要だと思います。ただ、研修や教育プログラムを組むことにコミットできる人材が必要ですが、人手が足りない状況です。
 

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