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〔裏・自律する医療②〕取り下げられた猶予の要望

 出産育児一時金騒動を振り返るシリーズの2回目。(1回目の記事はこちら

 9月29日に発表された一部施設に関して直接払い制度を猶予するという妥協案は、実はほぼ同じ枠組みが9月はじめ既に厚生労働省から日本産婦人科医会に示されていた。

 遅ればせながら7月後半に始めた地域説明会を経て、現場から猛烈な反発を受けた産婦人科医会執行部が、あわてて8月21日に「3ヵ月程度の実施猶予」を厚生労働省に対して要望したためだ。今回の見直しとの違いは、保険者の意向で、猶予を受ける施設名などを誰でもアクセスできるサイト上などに表示するよう求められていたこと。医会では『名称などを周知すると風評被害が出る』から呑めないと拒否、9月8日に猶予の要望そのものを取り下げてしまった。その際、『医会が直接払いに後ろ向きな医療施設を丁寧に指導していく』と約束もしたらしい。

 業界団体のボスたちが現場に諮ることもなく密室で筋の悪い話を了承し、当然に出てくる現場の反発を抑えにかかる。医療事故調設置をめざす動きが泥沼にはまってしまった時と全く同じ構図だ。自施設の窓口表示だけでよいと最終的に妥結した結果を見れば、医会執行部は現場を抑えにかかるのでなく、もう少し粘り強く保険者などと交渉すべきだったのでないかという意見は当然に出てくる。

 医会執行部の罪は、これだけに留まらない。実は医会が要望を出していた時期、ちょうど並行して舛添要一・前大臣も問題をソフトランディングさせるべく『福祉医療機構によるつなぎ融資を無担保無利子にせよ』と指示を出していた。ところが、医会ルートの交渉が進んでいたためだろうか、官僚たちに無視されてしまった。そして医会が要望を取り下げた時点では、総選挙の結果が出ていて新たに予算措置を必要とする話はできなくなってしまっていたのだ。

 それでも、つなぎ融資がきちんと機能していさえすれば少なくとも倒産する医療施設はないし、医療施設に対して利子分を補給するなど、民主党政権が軌道に乗ってからの対応でも間に合うはずだった。ところが現実には、福祉医療機構につなぎ融資を申し込んだら断られた、もしくは必要な時までに審査が終わらないと言われたという施設が続出してしまったのだ。機構に断わられるものを、市中金融機関が貸してくれるはずがないし、貸してくれたとしても優遇金利ではない。これでは倒産・閉鎖が相次ぐことになる。

 長妻昭大臣が「意に染まない決断」をせざるを得なかった本当の理由はここにあるし、「厚生労働省に嵌められた」と産婦人科開業医たちから陰謀史観めいた声が出てくる理由でもある。

つづく
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