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ニュース〜医療の今がわかる

消防庁が医療界に豪速球

 都道府県に救急患者の搬送・受け入れのルール策定を義務付けた改正消防法が先月末に施行された。「ルール策定」という部分だけがクローズアップされて伝わり、否定的な見方をする医療者も一部いるようだが、この法改正は、これまで一部の業界団体や永田町・霞が関だけで決まってきた医療政策決定のプロセスを変えていく可能性も秘めている。(熊田梨恵)  

※改正消防法そのものの概要はこちら。

 医療界には様々なエピソードが渦巻くが、現場の実情を反映し、かつ政策決定の根拠となるような客観的"データ"は多くない。厚生労働省が診療報酬や介護報酬決定の資料とするため行っている医療経済実態調査や介護事業経営実態調査も、それに基づいて決められた報酬が今の"医療崩壊"を産んでいる現状を見れば、他にもデータがあるべきでないかとの意見は当然に出てくる。

 超党派の医療議連の幹事長を務める鈴木寛文部科学副大臣は政権交代後、「一部の声の大きい人たちだけの意見が『医療現場の実態』として永田町や霞が関に届けられてきた。しかし、本当の現場の実態は日医などが言うことと全く違った。厚労省の官僚が『実態だ』と言って我々にレクする内容も違う。しかし、それ以外の声はまったく我々には届いていなかったわけで、その構造を医療界自体も許してきた」と語った。

 医療界が自ら立ち上がる前に、この構造に踏み込んできたのが消防庁だ。昨年度、東京消防庁管内で『搬送・受け入れに関する実態調査』を行って、傷病者の「背景」を"データ化"。来月からは、『心肺停止状態の患者の搬送・受け入れ実態調査』を全国で実施することにしている。

 さらに一歩踏み込み、このような"データ化"を、全国それぞれの都道府県で行わざるを得ないようにしたのが改正消防法だ。各都道府県に救急搬送・受け入れのルール策定を義務付けたのだが、まず医療資源や患者特性など実態を出してからでないとルールは作れない。「照会回数などについても救急隊員が個人で知っていながら、全体像として把握できていないというところがあった。都道府県レベルでデータを出して実態を調査・分析していくことでディスカッションができるようになっていくと思う」(開出英之救急企画室長)。また、搬送・受け入れの検証を毎年行うことも役割になっている。

 見えたデータから課題を見つけ、課題解決に取り組むのは、その地域の自治体や医療機関、消防機関などの現場で、国はあくまでも足りない部分のサポートに徹する。今ある医療資源をどう捉え、どう効率的に生かすか、地域自身がデータを出して現場に即した内容に考えていけるような枠組みを作ったことになる。

 国がガイドラインを作っている時、医療者側委員から「今ある地域医療体制を壊さないように。医療崩壊に拍車をかけないように」と懸念する声がしきりに上がったのに対し、消防庁側は「地域の実情に応じて策定を。データで議論を」との返答を繰り返していたのも、このような意図があったからだ。
 
 既にいくつかの地域は実際に動き始めている。大阪や栃木ではルールを策定するために議論の素材になるデータを出そうと、救急隊が疑った疾患と、実際の診断名が合っていたかどうかのマッチング調査を12月から1か月間実施する。堺市では12月に同様の調査を開始し、継続していく方針だ。他の自治体に先駆けて議論を開始した東京都では、2月をめどにルールの大枠を決める。

 では、なぜ、このような動きが必要になったのか。 

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